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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ウルスケスの天恵

「鋭いね。さすがは奨学生。」


俺の放った言葉に、場の皆は沈黙の呪縛から解放された。

コトランポ・マッケナーは俺に対し明確な非難の目を向けてきたけど、

俺は目を逸らしたりはしなかった。彼に対し、後ろめたさなどはない。

少なくとも、彼に責められるいわれなどはないはずだ。


じっと俺を見つめるウルスケスも、無言の問いを投げかけていた。

口に出さなくてもその意は伝わる。俺だって、そこまで馬鹿じゃない。

事実上、俺は彼女からの問いを肯定する言葉を口にした。ならばもう、

彼女からの問いは別のものだろう。


どうして自分の天恵を知ったのか。

それを知った上で声をかけたのだとすれば、目的は何なのか。

そして、自分に何を求めるのか。


「言ってなかったけど、俺は他人の天恵を見る事ができるんだよ。」

「…神託師なんですか?」

「いいや違う。そういう天恵だよ。見る事はできても宣告は無理だ。」

「それで、あたしの天恵を…」

「勝手に見たのは謝るよ。…まあ、君だけじゃないんだけどね。」


マッケナーを差し置いて話を進める俺と、ウルスケスも普通に話す。

出しゃばった真似だと思う。しかし遅かれ早かれ、自分が何なのかを

はっきりさせる必要はあるだろう。それを前倒しにしただけだ。

どっちみち、俺たちはウルスケスを自分たちの許に引き込もうとする。

その事にマッケナーが罪悪感を抱くのは別に不思議でも何でもないし、

そういうまともな感情は得難いとも思う。ただでさえ今の俺たちには、

まともさが欠落してるんだから。


俺も何だかんだで、今までに色々な人間を見てきた。まあ商売柄だな。

その経験から判断するに、目の前のウルスケスは相当頭の回転が速い。

気が立ってるのは事実らしいけど、それを含めても俺たちが思う以上に

こちらをきっちり認識している。

だったらもう、出し惜しみをしても無駄に警戒されるだけだ。とすれば

現状、もっとも怪しい相手は他でもないこの俺だろう。

だからこそ、さっさと手札は切る。



出し惜しみは、ただの悪手だ。


================================


「つまり、学園に潜り込んでずっと探してたって事ですか。」

「ああ。おかげで無駄にあの学園に詳しくなった。」

「なんか、逆に感心しますね。」

「図々しいのは職業病だよ。」


マッケナーもグリンツも、俺たちの会話に口を挟んではこなかった。

モリエナはいつも通りの無口だ。

仰々しい話をすればうまく行くとは限らない。宗教だ何だは脇に置き、

とりあえず互いを知る。それもまたひとつの会話術ってやつだろう。

少なくとも、ウルスケスという子の人となりは分かってきた気がする。

きっと、それは相手も同じだろう。


「まあ、そんなわけだ。」


そこで俺は、口調をあらためた。

こういう交渉や説得の場において、大事なのは無駄に嘘をつかない事。

そして、無駄に隠し事をしない事。婆ちゃんもそんな事を言ってたな。


「さっきも言った通り、俺は他人の天恵を見る事ができる。でもそれは

見るだけだ。神託師のように天恵を宣告し、覚醒させる力は持たない。

それができるのはこのグリンツだ。れっきとした神託師だよ。」

「なるほど、分かりました。」


そう言い放ち、ウルスケスは迷わずグリンツの方に向き直った。


「じゃあ、お願いします。」

「…よろしいんですね?」

「ってか、今になってああだこうだ言うのもバカらしいって話でしょ。

ねえマッケナー先生?」

「あ?…ああ、そうだな確かに。」

「ムシャクシャしてたし、ちょうどいい機会ですよ。」

「あらかじめ聞かなくていいか?」

「結構です。そもそもそういうの、ルール違反でしょ?」

「まあそうだな。」


そう答え小さく肩をすくめる俺に、ウルスケスはニッと笑いかけた。


「だったらもう、あなたたちの話に乗っかりますよ。見てのお楽しみ。

天恵ってそういうもんでしょ?」

「ハハッ、確かにな。」


食事をしていた時の鬱屈した表情はもう、遥か過去って感じだな。

こいつには間違いなく素質がある。



クセのある天恵を受け入れた上で、外れた道を突き進める素質がな。


================================


「ウルスケス・ヘイリーさん。」


ネラン石に複雑な古語詠唱を込め、グリンツが低い声で告げる。

俺たちはそれを、じっと見守る。


「あなたの得る天恵は【魔核形成】です。」


シュバッ!!


光の文字が空間に浮かび上がると、形を崩してウルスケスと融合する。

今はすっかり廃れてしまったけど、俺は何度も婆ちゃんのところで見た

馴染みの光景だ。天恵宣告ってのはいつでも厳かで、そして不条理だ。


「魔核形成、ですか。」


自身の体に宿った光が消失するのを見届け、ウルスケスが呟いた。


「で、何なんですかこれ?」

「我々にとって必要なものだよ。」


開き直ったらしいマッケナーがそう告げる。

ああそうだ。言い繕っても無駄だ。その子の目はごまかせないだろう。


ネイル・コールデンが抱く野望。



今この瞬間、それは大いなる進展を得たって事だ。

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