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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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迷いの末の問い

ウルスケス・ヘイリー。


正直なところ、この学生についてはあまり知らない。話をした事自体は

何度かあるものの、それはあくまで授業内容に関する事だ。その時は、

積極的で頭の回転の速い子という、通り一遍な印象しか抱かなかった。

とは言え、放課後に声をかけたなら授業の話などは触れない。…いや、

今に限って言えばそんな雰囲気ではないようにも思えた。



途方もなく嫌な事って、何だ?


================================


よほどの事があったのだろう。


「食事でもどうだ」という誘いに、ウルスケスは何の躊躇いも見せずに

ついて来た。見るだに怪しい二人が同行する状況も、全く意に介さず。

豪胆というより、自棄になっているように見えた。俺が何を企もうと、

もうどうでもいいといった態度だ。これは幸か不幸か、どっちなのか。

…まあ、事情を聴くしかないなあ。これでも俺、ここの教師なんだし。


駅前のレストランに入る。ちなみにオレグストとモリエナは別の席。

いくら何でも同席すると怪しまれるだろうから、当然と言えば当然だ。

何と言うか、少し違う意味で後戻り出来なくなってきている気がする。

…本当にこの子が、目当ての天恵の持ち主なんだろうな。


もちろん、声をかける前にもう一度オレグストが天恵で確認している。

リスクも大きい以上、オレグストが余計な嘘をついたとも考えにくい。

ならもう、思い切って誘うべきだという事は分かっている。


機械的に注文しながら、俺は今さら自分のやっている事に疑問を抱く。

そんな俺には構わず、ウルスケスもまた機械的に話し始めていた。


今日、学校を退学させられた事。

その理由が奨学金の滞納だった事。

奨学金を家族が使い込んでいた事。

退寮準備をしている途中だった事。


怒りも何も感じない淡々とした口調で、ウルスケスは俺に話した。

俺は聞き役に徹するしかなかった。こんな重い話に、親しくもない俺が

あれやこれやと言うのは逆効果だ。盗み聞きしているオレグストたちも

予想外なのだろう。目が泳いでいるのが、ここからでも見て取れた。


機械的に料理を口に運びつつ、俺はやっぱり迷っていた。

俺はこのウルスケスという人間に、何の思い入れも抱いてはいない。

ピアズリム学園の生徒の一人。ただそれだけだ。いや、もう元生徒か。


嘘のようなタイミングで、俺たちは彼女に声をかけたらしい。

退寮の準備をしていると言っても、家に帰るという選択はないだろう。

親のせいで学校を去る事になったのなら、顔も見たくないはずだ。

だとすれば、教団に勧誘するまたとない機会だとも言える。


だが、本当にいいのだろうか。


やり場のない怒りを抱えた彼女は、行き詰まっているように見える。

しかしそれは、見方を変えればごくありふれた若者の挫折でしかない。

本人が思う以上に、未来の選択肢はまだまだ存在しているはずだ。

そういった選択肢を示すのもまた、教師としての務めではないのか。

だからこそ迷う。


「…あのな、ウルスケス君。」


言いかけた俺は、ふと視線を感じて目を向けた。俺を見ている相手は、

二つ隣の席に座るモリエナだった。感情を宿さない彼女の目が、じっと

俺の顔を注視していた。

彼女の姿は、何故か俺の心に冷たい息吹を吹きかけたような気がした。

波立たない心のまま粛々と己の務めをこなすその姿に、若者らしさなど

感じた事がない。ウルスケスとほぼ同世代であるにもかかわらず、だ。


彼女は確か、ロナモロス教お抱えの神託師グリンツ・パルミーゼの娘。

詳しい事など知らないが、生まれた時からロナモロス教と共に在る事を

運命づけられている存在だ。共転移という天恵を持ち、どんな場所にも

一瞬で現れる。まるで影のように。


彼女とウルスケスの、何が違う?

同じ若者じゃないのか?



俺には分からなかった。


================================


「マッケナー先生。」


あれこれ考えているうちに、食事が終わってしまった。ずっと物言わず

食べていたウルスケスが、俺に目を向けて告げる。


「先生は今日、あたしに何かの用があったんですよね?」

「…ああ。」


もはや、待ったなしだ。

俺はもう、彼女に示す道をはっきり選ばなくてはいけない。

ああそうだ。そして自分の道を選択するのもまた、ウルスケス自身だ。

だったらもう、グズグズ迷うな。


「君はこれから、どうする気だ?」

「決めてません。」

「それじゃあ、ロナモロス教に来る気はないか?」

「は?」


俺はあえて、警戒されそうな方から提示してみた。怪訝そうな表情は、

まさに予想通りだった。


「先生って、宗教の信者ですか。」

「信者というか…まあそうだな。」

「ちょっと意外ですね。」

「だろうな。」


言いながら、俺は苦笑した。何だ、教師だ生徒だって会話じゃないな。

何と言うか、肩の力が抜けた。ならとっとと本題に入ろう。


「なあ、ウルスケス。」

「何ですか。」


なおも訝しげなウルスケスに対し、俺は率直に問いかけた。



「お前、天恵に興味はないか?」

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