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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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赤いゲルナ

結局、昼食を済ませた俺たち三人は一旦、ロナンとゲルナと別れた。

午後から授業が一つだけあるから、それが終わった時点で再び合流。

全員で、ゲルナの家にお邪魔する…という話に落ち着いた。


一日仕事になりそうな気配だけど、まあそれは別に構わない。ってか、

もはや中途半端に投げ出してしまう方が嫌だった。俺もネミルも。


「大丈夫かな。」

「まあ大丈夫だろ。」


ネミルのその呟きに、俺は迷いなく即答を返した。


「怒った様子はなかったし、逃げる気配もない。何より家に招いたのは

あの子自身だ。…よっぽど変な事を考えていない限り、心配ないよ。」

「でしょうね。」


弁当箱を入れたバッグを抱えつつ、ローナが呟く。


「確かに何だか動揺はしてたけど、別に決定的に都合の悪い何かしらを

隠してるって感じじゃなかったし。もしかしたら、種明かしする機会が

欲しかったのかもね。」

「とりあえず、そんな程度の認識でいいと思うぜ。」


楽観が過ぎるかも知れないが、今は本当にそんな認識でいいだろう。

よほどのピンチになれば「魔王」でどうにか切り抜ける。


「んじゃあ、何か時間つぶす方法を考えるとするか。」

「うん。」

「そうね。」



気楽なもんだな、俺たちも。


================================


「おお…」

「ああ…」

「でかい家だね。」

「ねー…」


すでに夕方近くになっていた。

ピアズリム学園のある駅から山手に少し歩いた住宅街に、ゲルナの家は

ドンと建っていた。三階建て個人宅なんて、生まれて初めて見たな。


「家業は出版社経営だっけ?」

「そうです。主に、歴史書を扱っています。ささ、どうぞ。」


すっかり平常通りになったゲルナに案内され、俺たち四人は彼女の家に

足を踏み入れる。外からの印象よりさらに広く感じる。廊下も広いな!

…いやいや、そんな事に感心しててどうする。簡単な状況じゃないぞ。

開き直っているとも取れるゲルナの態度には、まだまだ油断できない。


「あら、お客様?珍しいわね。」


出迎えたのは、ゲルナの母親らしき女性だった。あまり似てないけど、

けっこうな美人さんだ。


「うん。…母さん、ちょっと。」

「え?ああ、ハイハイ。」


やはり母親だった。ゲルナは彼女の袖を引き、廊下の隅に連れていく。

どうやら今日の顛末を説明しているらしい。…何だ、どうなるんだ?


「お待たせしました。」


ほどなく二人は戻ってきた。母親の方がどんなリアクションを見せるか

ちょっと怖かったけど、特に動揺の素振りは見せない。…いや、むしろ

ちょっと苦笑してるのか?


「どうぞどうぞ。」


心配するほどもなく、豪華な応接間に通された。給仕の女性がお茶など

運んできてくれた。…これはこれでかなり不安になるんだが。


「どうなるんだろ。」

「分からん。出たとこ勝負だ。」

「そんな深刻じゃないと思います。午後の授業中も普通だったし。」

「それならいいんだけどね。」


ひそひそと言い交わすうちに、ドアが開いた。そして入って来たのは、

いかにも会社のお偉いさん…という威厳漂う銀髪のお爺さんだった。


「あ、そのままで。」


立ち上がって挨拶しようとした俺とネミルを制し、お爺さんはドアの

向こうに視線を向けて頷く。同時に入って来たのは、あのお母さんだ。

さらにその後に続いて、ゲルナが…


「え?」


成り行きを見守っていたネミルが、そこで怪訝そうな声を上げた。

俺も危うく、変な声を漏らしそうになっていた。


いちばん後ろに並び直した母親が、後ろ手にそっとドアを閉めた。

別にそれはいい。入室した人たちは横に並んで、こちらを見ている。

親子三代なのだろう。その事自体は別に珍しくもなんともない。だが、

ひとつだけ普通とは全く違う要素がそこにあった。


お爺さんとお母さんの間にゲルナが佇んでいる。それは別に問題ない。

問題は、そのゲルナだ。


私服に着替えた彼女は、二人いた。



まったく同じ格好をした同じ少女の姿が、そこに並んで立っていた。


================================


「ふ、双子だったのゲルナ?」


さすがのロナンも、声が少し震えを帯びている。ショックなんだろう。

かく言う俺もちょっと混乱してる。いきなりこんな答えを見せられると

…………………………


ん?

何だ。


ネミルとローナは平然としてるな。

って事は…


「ご挨拶が遅れました。」


と、沈黙を破ったのは最初に部屋に入ってきた老人だった。


「ゲルナの祖父のヴァルツです。」

「母のガルナです。初めまして。」


続けてお母さんも自己紹介をする。…何と言うか、実に普通の挨拶だ。

この異様な状況にそぐわない。俺とロナンは反応に窮していた。

と、その刹那。


トントン!


憶えのある音に目を向けると、隣に座るネミルがブレスレットの石を

指で叩いていた。選んだ石は赤だ。そしてその目は、向かって右側に

佇んでいる方のゲルナを見ていた。


…何だと?

つまりそっちのゲルナは、もう既に天恵の宣告を受けてるってのか?

それが本当なら、双子という想定は成り立たない。どういう事だ?


こんな時、軽々しく天恵の内容まで見ないようにと二人で決めている。

状況から察するに、ローナは現時点で右ゲルナの天恵内容は知ってる。

だが彼女の性格からして、自分からそれを口にはしないつもりだろう。


二人のゲルナは、まだ黙っている。恐らくは今のこの状況を、俺たちが

どう動かすかを見定める気だろう。ネミルが神託師と名乗ってる以上、

その真偽の確認なのかも知れない。

とすれば、わざわざネミルが無言でこの俺に合図を送ってきたんだ。

俺が場を動かすしかないんだろう。…よし、引き受けた。


腹を括った俺は、右側ゲルナに目を向けてゆっくりと告げた。


「どうも初めまして。お名前は?」


その言葉を受け、彼女の目が大きく見開かれる。並び立つ三人と共に。



さあ。

どう出る、赤い方のゲルナ。

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