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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ゲルナという名の少女

慣れとはつくづく怖いものだ。


あれほど気後れしていた学校でも、1時間ほどブラブラしているうちに

すっかり自分の学び舎感覚になる。傍から見れば完全に在校生だろう。

ネミルもすっかりそんな顔である。順応性の高さは若さの証…なのか?



どっちにせよ、昼時を迎えるまでに俺たちは、学校に馴染んでいた。


================================


「あそこです。」

「おおなるほど。」

「でっかいオープンテラスだね。」


正午過ぎ。

ロナンの案内でやってきた場所は、まさに壮観だった。

要するに学生食堂の屋外テラスだ。とは言えこれだけ大きな学校だと、

たかが屋外テラスでもだだっ広い。当たり前の話ではあるけど、実際に

目にすると圧倒される。自分の店がこじんまりしてるから、尚更だ。


ま、だからって別に卑屈になる必要はない。せっかくの機会なんだから

大いに店の参考にさせてもらおう。ところで…


「待ち合わせの子は?」

「まだみたいですね。」


カフェのカウンターへと目を向けたロナンが答える。在校の常連だから

場所もきっちり決めてるんだろう。


「そのうち来ると思いますが…」

「それと、ケイナはいずこ?」


言いながらネミルがきょろきょろとテラスを見回す。なお、ケイナとは

ローナの事である。さすがにロナン相手に名乗らせるのはまずいので、

「恵神ローナ」を雑に縮めた。店の常連客、という設定で通している。

あまり寄り道していなければ、もう来ていてもおかしくないはず…


「あ、いた。」

「どこだ?」

「ほら、あの長机の端っこ。」

「…ああ、あれか。」


あのソバージュヘアは確かにローナのそれに間違いない。

しかし、何であんな感じなんだ?

何はともあれ、俺たちは待ち合わせをロナンに任せてそっちに向かう。



力尽きたのですと言わんばかりに、突っ伏しているローナの許へと。


================================


「おおい、どうしたローナ。」

「……」


呼びかけて肩をゆすると、ローナは実に気だるそうに上体を起こした。

ずれた眼鏡が情けなさをいや増す、神の威厳も何もない顔だった。


「何かあったんで…あったの?」

「酔った。」

「は?」

「若者酔いした…」


何て?


「いっぺんにあれだけ大勢の十代と話すのはキツイわ。想像以上だわ。

ちょっと甘く見てたわ。」

「それは…そういうもんなのか。」

「見た目だけ合わせてもダメだって事が大いに分かった。」

「そうなんだ。」


何と言っていいか分からない話だ。しかしその一方で、ほんの少しだけ

ローナに親近感がわいた気がする。



大勢の学生と話すのって、やっぱり疲れるよなと。


================================


「お待たせしましたー!」


掛け声にハッと我に返り、俺たちはそっちに視線を向ける。何と言うか

学校の雰囲気に当てられ、すっかり当初の目的を忘れていた気がする。

駆け寄るロナンの傍らに、彼女より背の高いブルネットの少女がいた。


「彼女が、あたしの学友のゲルナ。こちらは少し前に話した、喫茶店の

皆さんよ。」

「ゲルナ・ペルレンスです。どうぞよろしく。」

「トラン・マグポットです。」

「ネミル・ステイニーです。」

「ケイナです。よろしくね。」


簡単な挨拶を済ませ、皆で座った。何だか、落ち着いた雰囲気の子だ。

明らかに今のローナやロナンよりも年上に見える。何なら俺たちより…


トントン!


にべもない事を考える俺は、傍らのネミルが立てた音に向き直った。

手元を見ると、あらかじめ右手首につけていたブレスレットの飾り石を

中指で叩いているのが見える。このブレスレットには3つの石がある。

赤と白と、そして透明だ。ネミルが叩いているのは透明の石だった。


「…マジか。」


これは俺とネミルの情報伝達法だ。今のネミルは、指輪も着けている。

とりあえずそれで、目の前に座ったゲルナの天恵の「色」だけを見た。


赤なら宣告済み。白なら未宣告。

そして透明なら、そもそも現時点でまだ天恵を得ていないという事だ。

…つまり目の前のこの子は、15歳未満って事になる。ホントかおい?

下手すりゃネミルより年上に見えるこの子が、まだ14歳以下なのか?

隣に座ってるロナンより下って事もあり得るのか!?



…今時の子はそんなもんなのか。


================================


変なショックはさて置き。


「とりあえずお昼にしましょう。」


にこやかにそう言い放つネミルが、持参したお弁当を開いた。途端に、

ロナンとゲルナの顔がパッと明るくなる。そういう表情は歳相応だな。

…いや、あんたまで明るくなられると調子狂うんだけどな恵神。


ともあれ、下手な学食には負けない自信がある。こないだの出張でも、

レパートリーはずいぶん増えたし。


「い、いいんですかこれ?」

「どうぞどうぞ。」


並んでよだれを垂らしそうな二人…もとい三人。おい恵神、威厳は?

そんな様子を横目に、俺はさっさと紅茶を淹れて並べる。持ち込みは

禁止されていないし、ここは本職の意地を見せないとな。


「んじゃ、いただきます。」

「いただきます!」


行儀のいい挨拶に、他の生徒たちがチラチラと目を向けてきている。

自意識過剰でないのなら、明らかに羨望の眼差し。恐れ入ったか若者。

すっかり大人っぽさの抜けたゲルナもロナンも、大いに食べまくる。

言うまでもなく、ローナも。


いいねえ。

こないだのロンデルン出張も大いに勉強になったけど、これはまた別の

新鮮さがある。飲食業はどこまでも勉強あるのみだ。何より楽しい。


口数は多くないけど、ゲルナという子はなかなかいい子って印象だ。

ロナンが仲良くなるのも分かる。


で、肝心な問題。



今日この瞬間の彼女は、違和感アリなのかナシなのかどっちだ?

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