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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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オレグストの価値

「オレグスト・ヘイネマンです。」

『お待ちしておりました。』


扉の向こうから聞こえてきた声に、聞き覚えがあった。

耳を砕かれた時、教主ミクエのすぐ後ろにいた女だ。間違いない。

場を仕切っている印象だったけど、やはり相応の地位にいる者なのか。


…と言うか、速いな。

この街へと出発した俺とエフトポを見送ったはずなのに、先乗りだと?

どんな方法で移動したんだか。


「入っても?」

『ええ。ただし…』


一瞬の間に、何を言われるか予想がついた。


『中にいる者の天恵を見る行為は、お控え下さい。よろしいですね?』

「承知しました。」


やっぱりその事か。言われなくても絶対に見ないとも。もう二度と、

あんな目に遭うのはまっぴらだ。


『では、どうぞ。』


ガチャ。


鈍い音と共に、扉が少しだけ開く。俺は迷わずそれを大きく開けた。

今さら委縮するのは、逆に悪手だ。開き直ってやろうじゃないか。



さあ、俺に何を求める?


================================


聖堂は思ったよりずっと狭かった。待っていた人間も、わずかに二人。

いささか拍子抜けだった。


「どうぞ、おかけ下さい。」


着席を進めてきたのは、予想通りのあの女だった。俺より年上だろう。

どうやらかなりの地位らしい。で、もう一人は初老の女性だった。


椅子に座った俺を、最初の女が正面から、もう一人が横から見据える。

いささか居心地が悪いものの、別に威圧感のようなものは感じない。

もちろん天恵なんか見ない。禁止と言われている以上、冒険はしない。


「自己紹介が遅れましたね。」


正面の女が、そう言って居住まいを正した。


「私はネイル・コールデン。教団の副教主を務めております。」

「副教主…ですか。」


予想の範囲内ではある。おそらく、教主のミクエより力関係的に上だ。

前回会った時に比べると、挑戦的な物言いはなくなっていた。

俺は既に名乗っているし、素性など判明済みだろう。自己紹介は省く。

それは二人も承知らしい。続いて、初老の女性が口を開いた。


「私の名はグリンツ・パルミーゼ。若い頃から神託師をしているよ。」

「え?…何ですって?」


思わず聞き返してしまった。

あまりにも何気ない自己紹介の内容が、俺の予想を大きく超えてきた。


「神託師だ、と言ったんだよ。名前だけでなく、宣告も出来るよ?」

「そ…う…ですか。」


気後れが声に出るのを感じた。

まさかこの場に神託師がいるとは、ついぞ予想していなかった。

いやそもそも、俺が神託師に会うという今の状況自体、考えられない。

…と言うか、この教団にもいたのか神託師。それが一番意外だった。


「まあ気持ちは分かりますが、別に警戒しなくても大丈夫ですよ。」


俺の疑念を見透かしたかのように、ネイルがそう言って笑う。


「グリンツは、この私の前の代から教団のため尽くしてくれています。

大きな声では言えませんが、専属に等しい存在なんですよ。」

「専属の神託師ですか…」


どうやら俺は、ロナモロスをかなり見くびっていたらしい。

正規の神託師を抱え込むなど、その組織力はかなりのものなのだろう。



なおさら分からない。なんで俺は、ここに招かれたんだ?


================================


「他人の天恵を見る天恵。いやはや驚いたよ。」


俺の顔を見ながら、グリンツがそう呟いた。


「かく言う私も今まで散々見てきたが、あなたのような天恵の持ち主は

さすがに見た事がない。…よっぽど希少なんだろうね。」

「それは…どうも。」


正直、そう言われても反応に困る。

希少であろうとなかろうと、個人の持つ天恵はひとつだけなのだから。

ましてこの人物は神託師だ。下手な事を言うと洒落にならないだろう。

…………………………

もういい。

いい加減、気を回すのも飽きた。


「俺にどんな用ですか?」


開き直った俺は、二人の顔をじっと見返して告げた。


「今さら言うまでもない事ですか、俺は天恵を「見る」だけなんです。

告げたところで、その相手が覚醒を果たすわけでもない。こんな俺に、

何を期待しているんですか。」

「ご自身が仰る通りの事ですよ。」


淀みなく答えたのは、グリンツではなくネイルの方だった。


「間違いなく天恵を見る事ができ、しかも告げても覚醒に至らない。

更に言えば、ネラン石も必要ない。まさに我々が求めていた人材です。

ねえ、グリンツ?」

「その通り。」


言葉を交わした二人の表情に、俺は初めてかすかな戦慄を覚えていた。

…何だ、何をやらせる気だ俺に?


「あらためて歓迎します。ようこそオレグスト・ヘイネマン様。」


副教主ネイル・コールデン。

にこやかな笑みの向こう側に、底の知れない何かを秘めている女だ。


いいだろう。



聞いてやる。

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