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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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神にとっての人とは

人間なんて、いいかげんなもんだ。


神託師の連続殺人が明らかになり、それなりに戦々恐々としていた。

いつか魔の手がネミルに伸びるかも知れないと、気が気じゃなかった。


だが幸い「氷の爪」への対策だけは何とかなった。

人間の姿になった状態のローナは、特定の天恵の持ち主が接近するのを

感知できるらしい。それによって、少なくともいきなり懐まで入られる

心配はなくなった。ちなみに、感知できる範囲は半径600m。何とも

中途半端と言うか、はっきり言えばショボい精度だ。仮にも神なのに。


「そこまで全知全能を期待されても困るなあ。もともとあたしは、人に

天恵を授けるだけの神なんだから。あんまり贅沢言わないでよ。」


そう言われると、答えようがない。確かに恵神にそこまで求めるのは、

何か違うだろう。600mだろうと助かるのは事実なんだから。

ちなみにローナには、戦う力などは全くないらしい。…これも当然か。

あんまり何でもかんでも望むのは、それこそ罰当たりってもんだろう。

そんなわけで、しばらくの間警戒を続けた。来るなら来いって感じで。


とは言え、2週間も経つとさすがにまともな緊張感が保てなくなった。

空気で判る。詳細は不明だけれど、もうこの話は「終わった」んだと。

「氷の爪」の目的が何だったのかは知りようがない。達成されたのか、

それとも諦めたのか。どっちにせよもう、動いてはいないのだろう。


もちろん事件の捜査は続いている。リマスさんからの連絡はないけど、

それは目立った進展がないからか、それともあえて連絡しないのか。

俺たちには分からない事なんだし、下手につつかない方がいい。


オレグストの事は気になるけれど、さすがに誰かに話す事じゃない。

いくら何でも、根拠のない憶測だけで彼を容疑者扱いするのは無茶だ。



どっちみち、俺たちにできる事などほとんどない。

それが現実だった。


================================


ローナは、相変わらず俺たちの店に入り浸っている。

飲み食いした分を労働で払うというルーティンを、楽しんでいる。

マイペースにも程があるが、そこは神だ。とやかく言うもんじゃない。


とは言え、それこそ彼女への疑問は山のようにある。だから暇な時に、

あれやこれやと訊いてみた。彼女は別に嫌な顔もせず、答えてくれた。


「個人の特定って、そんなに難しい事なのか?」

「まあね。難しいって言うか、神の視点からはほぼ無理って感じよ。」


ホットケーキを頬張りつつ、彼女は当然の事のように語った。


「何しろ人間の存在は小さ過ぎる。一人一人の認識なんて絶対無理。」

「小さい、か…」

「変な意味じゃないからね。」


もぐもぐと咀嚼しながら語る顔は、どう見ても神とは思えない。

そんなローナは、カウンターの上のコーヒーミルを指し示して言った。


「例えばあなたでも、あれで挽いたコーヒー豆の粉の一粒一粒なんて、

いちいち分からないでしょ?それと同じよ。」

「じゃあ、天恵も一人一人に選んで授けてるわけじゃないのか。」

「そんなわけないじゃん。そもそも人間がどれほどいると思ってる?」


即答したローナの手が、コーヒーのカップをそっと持ち上げる。


「天恵を授けるってのは一絡げよ。言うなれば、このコーヒーに砂糖を

入れて甘味をつけるみたいな感じ。どの一滴にどんな風に味がつくか、

そんなのは分からない。」

「…………………………」

「あなたの「魔王」は確かに希少な天恵だけど、だからって存在感が

他より大きいわけじゃない。だからここに来て、ポーニー越しに初めて

見た時は驚いたよ。まさか、そんなレアキャラがいたとはって感じ。」

「レアキャラ、か。」


まあ、俺たちがそういう認識なのは不思議じゃない。相手は恵神だ。

しかし、それだともうひとつ疑問が生じてくる。


「だったら、どうやってこの場所を見出したんだ?やっぱりポーニーの

存在が鍵だったのか?」

「いや、特殊ではあるけど違うよ。もっと大きな理由があった。」

「何ですか?」

「数ある天恵の中に、たったひとつだけ無視できないやつがあるのよ。

それが覚醒してしまったら、世界が滞ってしまうレベルのバグがね。」

「バグって何だ?」

「プログラムのミスの事。」

「…分からんからもういいよ。で?そのバグってのは何だったんだ。」

「知ってるはずだけど。」

「は?」


俺たちが?

恵神ローナでさえ看過できないほど危険な天恵って、どれの事だ?

世界が滞るレベルって言うと…


「あ。」


思い当たったのか、ネミルが小さな声を上げた。


「もしかして【死に戻り】?」

「正解。」


即答したローナは小さく拍手する。

俺もその答えに腑に落ちた。


そうか。

あいつの事だったのか。



やっぱり、恵神ローナがいるという状況は驚きの連続だな。

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