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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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連続殺人の動機は

翌朝。


「おはよう。」


いつも通りの時間に店にやって来たローナが、フッと笑って告げた。


「リマスちゃん、律儀な子ね。」

「…と言うと?」

「きっちり捜査の人間が派遣されてたのよ。しかも三か所同時にね。」

「そうか。」

「…………………………」


俺もネミルもポーニーも、頷くしかなかった。


ついさっき、そのリマスさんからの報告の電話を受けていたのである。

何とか上を説得し、早朝からの捜索の確約を取り付けた、と。しかも、

妙な工作を防ぐため三か所を同時に捜査する事になったと言っていた。


今の時点でその事実を知っているとなると、認めざるを得なくなる。

彼女がその現場を、しかも三か所をほぼ同時に目撃したという事実を。

さらにそれを成した上で、ここまで戻ってくる事が出来たという事を。


もちろん、電話や電報を利用すれば決して不可能ではないだろう。が、

そのためには協力者が絶対必要だ。そして何より、すぐに使える電信の

手段を持っていなければならない。あるいはそれに類する天恵を。

しかし、そんな仮定にはどうしても無理が生じる。そして今の時点で、

彼女が天恵を持っていないって事はネミルがきちんと確認している。


昨日の時点では、だまされているという可能性はまだまだ残っていた。

何らかの方法で俺たちの事情を把握した誰かが、担いでいるのではと。

ある意味、その方が理解が追いつくような気さえしていた。


だけど、今の会話ではっきりした。

既に知っている事ではあったけど、これで確認が取れてしまった。



間違いなく、彼女は恵神ローナだ。


================================


リマスさんの再度の連絡までには、さほど時間はかからなかった。


『ポーニーの話の通りだったよ。』

「そうですか。」

『とりあえず匿名って事にしてあるけど、もしかしたら近いうちに話を

訊きに行くかもしれない。その事は心に留めておいて。』

「承知しました。」


とりあえず、こう答えるしかない。それ以上何も言わず、リマスさんは

早々に電話を切った。現場はたぶん騒然としてるんだろうな。


「で、どうだった?」

「訊くまでもないだろ。」

「まあね。」


俺たちもローナも、得た情報に対し今さら驚いたりはしなかった。

忌まわしい殺人が明らかになったという事実だけが、目の前にあった。


さいわい、今は客もいない。朝食の時間が過ぎた一段落タイムだ。

遺体が見つかったとは言え、事件は解決には遠い。かくいう俺たちも、

まだまだ安心できる状況じゃない。


「…とりあえず、あなたは俺たちの味方だと思っていいんだよな?」

「もちろん。あたしは至って自由な立場。特定の人間に肩入れをしちゃ

いけないなんて縛りもない。ってかここのコーヒー気に入ってるし。」

「そりゃどうもありがとう。」


ホッとしていいかどうか、今ひとつ実感が湧かない。まあ少なくとも、

敵視されてないのは最大の僥倖だ。何と言っても相手は神なんだから。


「それで、この件について心当たりとかはないんで…ないの?」

「正直、何にもないなあ。」


肩をすくめ、ローナはネミルの問いに答えた。


「昨日も言ったけど、あたしはこの姿でなければ人間を認識出来ない。

そしてこの姿だと、いつもはできる世界の俯瞰が出来ない。要するに、

世界の事象を詳細に把握するなんて芸当は出来ない…って事なのよ。」

「…そうか。」


不便だなという言葉は呑み込んだ。それを口にするのは違うと思った。


何もかも手に取るように分かる世界なんて、何の刺激もないだろう。

今までの言動から察するに、彼女は少なくとも今の自分自身の不便さを

楽しんでいるふしがある。恐らく、それは俺の考え過ぎじゃない。

「人間である事」の限界も含めて、承知の上でここにいるんだろう。

なら、神の万能性なんてものに頼る考えは捨てた方がいい。


普通に考えるまでだ。


================================


「そもそも「氷の爪」の使い手は、何のために神託師を殺したんだ?」


誰にともなく問い掛けた俺の方に、三人の視線が集中した。

…考えてみれば、三人の中に人間はネミルしかいない。不条理だなぁ。


「それはやっぱり、何かの抗議とか警告とかじゃないんですか?」


そう答えたのはポーニーだった。


「殺されたのは名ばかり...と言うか天恵宣告が出来ない人たちばかりと

いう事でしたから、思想的な理由でそれに対する罰を与えたとか…」

「だったら床下に隠す意味がない。もっと目立たせるべきだろ?」

「言われてみればそうね。」


コーヒーを啜ったローナが頷く。


「下手すりゃもっと長い間、誰の目にも触れなかったかも知れないし。

確かにそういう連中が、隠すという選択をするのは変か。」

「なるほど…」


カウンターの奥でカップ類を片付けながら、ネミルも何度か頷いた。


「つまり、思想とかは抜きでもっと現実的な目的があったのかな。」

「ああ。何となくそう思えるな。」


これは連続殺人であり、同時多発で発生したテロ行為じゃないはずだ。

カチモさんも確かそう言っていた。失踪までに時間差があったのだと。

じゃあ、どうしてそうなったのか。


「…そう言えば。」


ふと、今さらながらの疑問が湧く。


「殺されたのは全員名ばかり神託師だと聞いてたけど、殺害した本人は

そもそもその事を知ってたのか?」

「え?」

「はい?」

「どういう事?」

「前提が間違ってるって事だよ。」


言いながら、その思い付きが確信に変わるのを感じた。


「つまり、天恵宣告できない神託師が狙われたんじゃない。できないと

判明したから殺されたんだ。なら、時間差があるのも説明がつく。」

「あ、なるほどね。」


そう言ってローナが目を見開いた。


「そういう見方があったか。」

「なるほど…!」


ネミルとポーニーも納得顔で頷く。


そうだ。

そしてもしこの考えが正しければ、新たな疑念が生じる。



「氷の爪」の使い手は、己の目的を果たしたのだろうか?

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