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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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人間としての在り方

ポーニーが戻ったのは、夜も更けた頃だった。


さすがに店内の灯りをギリギリまで落としたものの、待っていた。

俺とネミルと、そしてローナとで。


「ただいま戻りました…」

「お疲れ。」

「お茶淹れるね!」

「すみません、よろしく…」


さすがに疲れの見えるポーニーを、ネミルが気遣う。


「まあ座ってくれ。」

「どうも。」

「で?」


ポーニーが腰を下ろしたと同時に、ローナが口を開いた。


「どうだったの?」

「何とかなりました。」

「ホントか?」

「ええ。…まあ、リマスさん的には納得には程遠いと思いますけど。」

「そりゃそうだよな。」


俺もそう言ってから、大きなため息をつく。何だかんだ気疲れした。

そこへネミルが、人数分のカップを持って戻って来た。


「とにかく、ひと息つこう。」

「そうだな。」


何だろう。

とにかく今日は疲れた。あまりにも疲れる話が多過ぎて…



恵神ローナがすぐそこに座っている事実も、もはやどうでもよかった。


================================


「それで、どういう話になった?」

「嘘をついても後で困るので、もう開き直って説明しました。」


ひと息ついたポーニーは、俺たちの顔を見回しながらそう言った。


「神託師であるネミルさんが直接、神託という形でローナ様から情報を

得たって話です。少なくとも嘘ではないでしょ?」

「まあ…」

「嘘ではない、かな。」


正直、それで納得してもらえる気は全くしない。でも実際問題として、

そう言う以外に根拠など示せない。


「強引なこじつけだとリマスさんに言われましたが、押し切りました。

…結局、それ以上の追求はされずに済みました。」

「お目こぼしだね、完全に。」


そう言ってネミルがため息をつく。俺としても、苦笑いするしかない。

確かに強引だ。何と言われようと、反論できない。こんな事件に関わる

情報提供者として、あまりに不審な点が多過ぎるのは事実だろう。


それでも、見て見ぬふりする訳にはいかなかった。他ならいざ知らず、

殺されたのはネミルと同じ神託師。このまま放置できるはずがない。

何より、そんな人たちを文字通りの「見殺し」にするのは絶対に嫌だ。

たとえ殺されているのだとしても、日の下で弔ってあげて欲しい。


リマスさんなら、分かってくれる。

変な事に巻き込んでしまったけど、やっぱり頼れるのはあの人だけだ。

こればかりは、身近な誰かに安易に頼るわけにはいかなかった。


「リマスさんいわく、神託師の誰かからの匿名通報にするとの事です。

それなら、全くの匿名よりは情報としての真実味があるからと。」

「…………………なるほどな。」


妥協と譲歩を重ねた結果、そういう形に落とし込んだって事だろう。

確かにそれなら、とりあえず現地の捜索くらいはしてくれるはずだ。

何と言っても、同じ神託師だから。


「明日の朝、手配をしてくれるとの事でした。」

「ありがとね、ポーニー。」

「いえいえ。」


「で、あたしもお目こぼし?」


じっと聞いていたローナが、そこで口を挟んだ。


「その表現が適切かは分かりませんけど、深くは訊かれませんでした。

リマスさんとしては、聞いても無駄と思ったんだろうなと。」

「なあんか残念ね。」

「それを残念と言うのかよ。」


思わず突っ込んでしまった。

どこまで認識が軽いんだこの神は。


リマスさんとしても、何ひとつ納得なんかしていないだろう。ってか、

俺たちだってまだ納得には程遠い。ポーニーから聞いただけなんて、

ふざけるなと言いたいに違いない。

それでもあの人なら、騎士としての義と信念で動いてくれると思った。

都合のいい話だけど、あまり深くは詮索しないだろうなとも。


詮索されて困るのは俺たちだけじゃない。ローナも同じだろう。


「もうちょっと自重して下さい。」

「ネミルちゃん、話し方…」

「いいから!!」


声を荒げたネミルに、ローナは目を丸くした。ああ、そりゃ怒るよな。

縛られないのは結構だけど、ここにいる気ならそんな感覚じゃ困る。


「ローナ。」

「うん?」

「人間の姿を得てどのくらいだ?」

「このアバターボディが完成して、すぐここに来たけど。」

「そうか…」


それは不幸中の幸いと言うべきか。あるいは俺たちの運が悪いのか。

いや、まだ結論を出すには早い。


「で、これからどうする気だよ。」

「今まで通り、このお店の常連客でいられればなあって思ってる。」

「そもそも何でここに来たんだ?」


そう言って、俺はふとネミルの方に視線を向けた。


「もしかして、ルトガー爺ちゃんの作った指輪が原因なのか。」

「指輪?ああ違う違う。確かに少し興味は引かれたけど、別にそこまで

特別な代物じゃないよそれは。」

「なら何なんだよ。」

「まあ、今日はもう遅いからさ。」


窓に目を向け、ローナはそう言って小さく肩をすくめる。


「明日になったら、例の家に行く。その騎士の子がちゃんと手を回して

調べてくれるかどうか確認するよ。あたしの身の上話はそれからで。」

「…分かった。」


どうやら彼女は、ポーニーと同様の瞬間移動が出来るらしい。今さら、

それを疑ったり驚いたりする気にはなれなかった。


「じゃ、今日はこれで。」

「ちょっと待てよ、ローナ。」


立ち上がったローナに、俺は語調をあらためて言い放った。


「経緯は知らない。が、これからもこの店に来るなら考えてくれよ。」

「何を?」

「人間としての在り方を、だよ。」


神に何を言ってんだって話だけど、大事な事だからちゃんと伝える。


「俺たちは俺たちの人生を生きてる身だ。あんたからすればごく短い、

それでも俺たちには長い人生をな。俺たちだけじゃない。客もみんな

そうやって生きてる。だからこそ、その姿でいるならしっかり考えろ。

人間としてどう在るべきかをな。」

「分かった。」


答えたローナは、ニッと笑う。


「恵神相手にそこまで言い切れる。漢だねえトラン。さすがは魔王。」

「魔王は関係ないだろ。」

「かもね。んじゃそういう事で!」


愉快そうにそう言い放ち、ローナはそのまま店を出て去っていった。

揃って息を詰めていたらしいネミルたち二人が、ホッと肩の力を抜く。


「ああ、緊張した。」

「とんでもないですね、ホント。」

「だよな。」


答えながら、ふと可笑しくなった。

もしかしたらこの会話も、ローナに筒抜けなのかも知れないと思って。

ま、だから何だって話だよな。


「今日はもう、休もうぜ。」

「ええ。」

「じゃあ、あたしもこれで。」


そう言ったポーニーが、蔵書世界へ一瞬で消え入る。


「トラン…」

「明日だ明日。それでいいだろ?」

「うん。」


よし。

きっちり戸締りして寝よう。



とにかく疲れる一日だったな。

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