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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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信じ難いけれど

子供の頃から好きな小説の主人公。それが目の前に存在している。

誰しも、一度は憧れた場面だろう。もちろんあたしも、例に漏れない。

だけど目の前のホージー・ポーニーが、単純に「そういう存在」では

ないというのは理解してる。彼女はあくまでも、作者の天恵の化身だ。


そんな彼女はつい先日、仲間と共に困難な任務の手助けをしてくれた。

人智を超えた能力を奢る事もなく、危険な役目を担ってくれたのだ。


だからって、口にする事をそのまま信じるというわけにはいかない。



特に、こんな重大な話においては。


================================


「冗談とかでは…ないですよね?」

「もちろん。」


疑う訳じゃない。一応の確認だ。

人の生死に関わる情報なら、軽率な判断は命取りになりかねない。


実際のところ、彼女が冗談でこんな話をわざわざ持ち込むわけがない。

現実問題として、神託師の失踪事件が起こっているのだ。もしもこれが

冗談ならば、不謹慎の極みだろう。彼らがやる事とはとても思えない。


とすれば、確認すべきはただ一つ。

実に単純な事だった。


「どうやってそれを知り得たのか、説明できますか。」

「…………………………」


やっぱり、ポーニーは言い淀んだ。いや、むしろ確信さえあった。

そんな情報を得るためには、もはや想定自体が信じ難いものになる。


超常的な力によって知り得たか。



あるいは手を下した本人か、だ。


================================


「難しいんですよね、説明は。」


沈黙ののちに絞り出された言葉は、ある意味かなり予想通りだった。

それはそうだろう。内容の不穏さを考えれば、匿名での通報にした方が

よっぽど安全だ。彼女もトランさんたちも、気づかないはずはない。

それでもあえてこんな手段を選んだ理由は、何となく想像できた。


これが普通の人間からの情報なら、一笑に付されるか疑われるかだ。

詳しくは知らないけど、消息不明になった三か所はかなり離れている。

どうやって調べたんだという、ごく当然の疑問が生じてしまう。


だが、そこはポーニーという存在が前提としてある。距離を無視しての

移動が出来る彼女を知っていれば、あながち不可能とも言い切れない。

もちろん、彼女が犯人であるという可能性は限りなくゼロに近い。

そうだとすれば、わざわざ知らせに来る行為に説明がつかないだろう。

だからこそ、なお判断し難い。


「信じないわけではないんです。」


あたしは、慎重に言葉を選んだ。


「この間の事件の事を思い返せば、そんな事を知り得るのもアリかなと

考えられます。と言っても、実際に調べようと思えば根拠は必要です。」

「匿名の情報提供でもですか?」

「え?」


ちょっと意外な言葉が飛び出した。まさかそっちを想定していたとは…


「…それならばまあ、状況次第ではすぐに捜査を始められますけど。」

「なら、どうにかしてそういう話に持っていって下さい。」

「あたしが、ですか。」

「はい。」

「うーん…」


なかなか一筋縄ではいかないなあ。

彼女も彼女を送り出したトランさんたちも、思った以上に考えている。

どうしてわざわざポーニーがここに来たのかについても、今に至って

あたしなりに推測が立てられた。


もし神託師の連続失踪が本当に連続殺人なら、まさに大事件である。

真相究明は至上命令になるだろう。それはほぼ間違いない。

その一方、情報の出所が匿名通報となれば、通報者探しも必要になる。

下手すれば、その通報者こそ犯人…という仮定ありきになってしまう。

そうなれば、捜査の方向は否応なくとっ散らかってしまうだろう。

ポーニーがあたしの所に来たのは、そういう回り道を避けるためだ。

少なくとも彼女が情報源と判れば、こちらは犯人捜しに専念できる。

不器用な配慮と言うべきだろうか。


それでもやはり、話は最初の部分に戻って堂々巡りしてしまう。

どうしてその情報を得たのか、その点がどうにかして明確にならないと

彼女への疑いは晴れない。そして、もたらされた情報に手が出せない。

とにかく今は…


「あのう、リマスさん。」

「はい?」

「お台所、使っていいですか。」

「へっ?」

「立ち話も何ですから、とりあえずお茶でも淹れようかなと…」

「あ、そうですね。」


何だか毒気が抜けてしまった。

そう言えば、帰ってきたままで話を進めてしまっていた。


「じゃあ、あたしが」

「いえいえ、ここはあたしが。」


そう言って、ポーニーはニッコリと笑った。


「こう見えて、お店を任された事もあるんですからね。」


================================


安物の茶葉でも、淹れる人が違うとこうも味わい深くなるのか。

ポーニーの淹れた紅茶を飲みつつ、あたしは妙な感慨に耽っていた。


「それで、ですね。」

「あ、はい。」


お互いに、ひと息いれて落ち着きを取り戻せた気がする。じゃ聞こう。


「知り得た根拠が何か、という点に関してですが。」

「ええ。言えますか?」

「ネミルさんが神託師だから、って理由ではダメですか?」

「いや、さすがにそれは…」


それはちょっと、いや相当苦しい。あまりにも「神託師」という言葉に

意味を背負わせ過ぎているだろう。


「そもそも神託師って、恵神からの天恵を人に伝える仕事でしょ?」

「そうです。」

「だったら、いくら何でも」

「言葉通りの意味で考えるのなら、まさにこれがそうなんですよ。」

「…え?」


不意に、ポーニーの言葉に不思議な確信の響きがこもった。

…何と言うか、今まさに「答え」に辿り着いたような感じ。いったい、

あたしとの会話の中で何を…


「神託って、神から託される言葉という意味ですよね。」

「…ええ、原義はそうですね。」

「3人の神託師が殺されて、床下に押し込められている。これもまた、

「神託」なんです。」

「…………………………は?」


ダメだついて行けない。…この子は何を言ってるんだろうか?


「天恵じゃなく、単なる言葉です。恵神ローナが実際に言った言葉。」

「ローナが、って…どこで?」

「お店でです。」

「え?」


「喫茶オラクレールに来たローナの口から、直接語られたんですよ。」

「はあ?」


思わず、言葉がすっぽ抜けた。

あまりに突拍子もないその答えに、返す言葉が見当たらなかった。

だけど、これだけは言える。

いくら信じ難くても、断言できる。



彼女は、いたって大真面目だと。

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