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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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俺たちの選択は

世の中は意外と狭い。

ロンデルンでシュリオさんと会い、そう実感したのはついこの間だ。

だからか知らないが、こんな状況に対してもさほど驚きはなかった。


「…で、どうするか。」


誰にともなく、俺はそう呟いた。


ロナンの記憶はたぶん正しい。単に顔を見ただけなら怪しくもなるが、

相手は出店で天恵を見ると自分からアピールしている。どう考えても、

シュリオさんに天恵を教えたという神託師…もといペテン師だろう。


現状、相手はこちらに全く気付いていない。暇そうに雑誌を読んでる。

まあ場所的に見ても、そうそう客が来るような繫盛はしてないだろう。

恐らく、目的は小遣い稼ぎ程度だ。ぶっちゃけ、俺たちからすれば別に

どうでもいい存在である。もしこの状況が去年だったとするなら、俺は

目もくれず素通りしていただろう。


しかし今年は事情がだいぶ異なる。俺自身も、そして傍らのネミルも。

別に、神託師は同業者(?)の動向をいちいち確認すべし…などという

決まりがあるわけじゃない。いや、そもそも他の神託師と会う機会自体

滅多に巡ってこないだろう。だから素通りしても別に構わないはずだ。


とは言え、俺たちはシュリオさんにかなり振り回された。その原因は、

間違いなく目の前で暇そうに雑誌を読んでいるあの男だ。恨み事などを

並べ立てる気はないが、少なくとも事情を聴いてスッキリしたい…とは

今でも思っている。何と言っても、述べた天恵が本物だったんだから。


「迷うな。」

「迷うね。」


俺の呟きにネミルが苦笑で答える。

選択肢が多いと、かえって迷う事になる。今なんかはその典型だろう。

何を選ぶにしても、何かもうひとつ後押しが欲しいところだ。


「ロナン。」

「はい?」

「やっぱり、あの男に対しては何か言いたい事あるか?」

「うーん…」


口を尖らせつつ、ロナンは少しだけ視線を泳がせた。


「確かに、おかしくなっていた時の兄のお守りは大変でしたけどね。」

「けど、何だ?」

「それはそれとして、あたしも母も割と楽しくやってましたから。」

「だよなあ。」


そうだった。

妄想の騎士に仕えつつ、この親子はちゃっかり旅を楽しんでいたっけ。

悪い記憶ばかりじゃないってのは、別に嘘でも強がりでもないだろう。

ましてや、シュリオさんはその時の奇行がきっかけで、結果的に本物の

騎士にまでなれたんだから。

今さらその因縁を持ち出すってのは何か違う気がする。ならやっぱり…


「でも、トランさん。」


そこで口を挟んだのは、やり取りを聞いていたポーニーだった。


「あたしの知る限り、このオトノの街に神託師はいないはずですよ。」

「…………………………」

「差し出がましいようですが、その一点だけでも物申す理由になる、と

思います。少なくともあたしは。」

「そうだな。」

「だよね。」


俺とネミルは、同時に頷いた。


「ありがとよ、ポーニー。」

「いえいえ。」


そうだよな。

そういう言葉が聞きたかったんだ。


ここは、俺たちの縄張りだってな。


「ネミル。」


意を決し、おれはネミルに問うた。


「あいつ、どっちだ?」

「赤。」

「分かった。」


よし。


んじゃ、腹を括って臨むとしよう。


================================


よっぽど商売っ気がないのか、男は歩み寄る俺たちには目もくれない。

ちなみに、接触するのは俺とネミルだけにした。ロナンはつい先日、

15歳になったばかりだ。もちろん天恵に興味はなく、むしろ知りたく

ないと言っている。やっぱり兄貴に振り回された印象があるのだろう。

なら、下手に近づいて自分の天恵を強引に聞かされる危険は避けたい。

相手の出方がほぼ分からない以上、ポーニーの接触もリスクが高い。


「ここは本職に任せとけ。」


何が本職なのか分からないが、俺のその言葉に二人はあっさり頷いた。

よし。


「すみません、少しいいですか。」

「んあ?…ああ、ハイハイ。」


そう呼びかけて初めて、男は俺たち二人に気付いたらしい。雑誌を脇に

放り投げ、こちらに向き直る。


「いらっしゃい。天恵を知りたいとご所望で?すぐ見ますよ。」

「…ああ、ちょっと待って下さい。まずは少し話だけ。」

「あれ、そうですか?」


そう返す男の態度に、俺は何となく展開が読めるような気がした。

おそらくこの男は…


ほんの短い沈黙ののち。


「まあ、確かに軽々しくお聞きにはならない方がいいかも知れません。

その方がご自身のためかも…」

「何たって「魔王」ですからね。」

「…………………………」


そこで黙るのか。思ったより態度に出やすいタイプなんだな。

そして、ずいぶんと失礼な奴だな。他人の天恵を勝手に見やがって。

思った通り、含みを持たせて相手を話術で引き込むタイプらしかった。

そりゃ引っ掛かるわシュリオさん。


「だから言ったんですよ。まずは、少しお話だけしたいってね。」

「ああ、そうですか。」


どうやらこの男、ネミルとは違って「赤か白か」判別できないらしい。

俺の天恵は見えても、宣告を受けているかどうかは見えないって事だ。

なるほどな。


「で?冷やかしならご遠慮願いたいところなんですが。」


輪をかけて露骨だな。金にならないと察した途端、この対応なのか。

あいにく、俺の話はこれからだ。


「ま、せっかくの機会ですからね。ちょっと話しましょうよ。」

「何を?」

「【鑑定眼】についてですよ。」


そこで男の顔色が変わった。やっぱとことん顔に出やすいな、こいつ。


「それがあなたの天恵ですよね?」


粛々と告げたのは、ネミルだった。

悪いな、お株を奪う真似をして。

無断で見るなってか?



それはお互いさまだ。そうだろ?

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