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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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その喧騒の中に

祭り当日は、朝から大いに晴れた。絶好のお出かけ日和である。


「着いたら呼んで下さい。あたしはギリギリまで粘りますので。」

「そこまで頑張らなくても…」

「お仕事って楽しいですよね。」


ロンデルン出張で店を任せて以来、ポーニーはすっかり助っ人としての

立ち位置にハマっている。祭りの日くらい店は全休にしてもいいのに、

先に行ってくれと自分から言い出す始末である。…もちろん本を使った

瞬間移動ありきだけど。まあ本人が楽しんでるならいいか。


「んじゃ、無理のないようにな。」

「ええ、ご心配なく。」

「お願いね。」


見送られて店を出た瞬間、何となく空を仰いでちょっと感慨に耽った。


去年の今頃はまだ、実家を手伝ってせっせと洗い物をしていたはずだ。

調理師免許はさすがにもう取得していたけど、「店を持つ」なんてのは

夢の夢のそのまた夢だったっけな。もちろん、ネミルとの結婚も。


それが今では、人(?)まで雇ってネミルと喫茶店を経営してるんだ。

つくづく思う。一年先の事でさえ、予想なんて出来るもんじゃないと。

だからこそ、毎日を悔いなく生きる事こそが重要なんだろう。


「どうしたの?」

「いや何でもない。行こうぜ。」


ネミルの問いかけを軽く流し、俺はニッと笑って歩き出していた。


ま、とにかく今日は祭りを楽しむ。

それが悔いのない過ごし方だ。


================================


隣街オトノまで、馬車鉄道を使う。

鉄道普及率向上は近年目覚ましい。でもこれも根強く使われている。

おそらく、近距離の交通手段としてそれなりに残っていくんだろうな。

どっちかというと名物的に。馬も、並走する自動車に慣れてきている。


あらためて見るとシュールな絵だ。


「こっちです!こんにちはー!」

「やあ。」

「こんにちは!」


予想以上の人出だったものの、駅に着くとすぐロナンと落ち合えた。


「待たせたか?」

「いえいえ。20分くらいです。」

「微妙に待ったんだな。」

「あちこち見てましたから!」


彼女のたっての願いで、お客相手の話し方は店の外ではしなくなった。

けっこう歳も近いし、それほど抵抗はない。まあ、妹分って感じか。


「じゃ行こうか。」

「ポーニー呼ぼう。」

「そうだったそうだった。」

「人のいない所探しましょう!」


既にロナンも、ポーニーについては色々と知っている。以前に兄である

シュリオさんにも開示しているし、本人もあっさりしたものだった。

気兼ねなく話せる相手というのは、やっぱりいいもんだ。



さて、どこで呼び出すか…


================================


そう言えば、去年は独りで来たな。

人で賑わうメインストリートを歩きつつ、また新たな感慨が起こる。

ルトガー爺ちゃんが亡くなった日を境に、本当に何もかも変わった。

大してモテもしなかった俺が、三人の女の子と一緒に歩いているとは。

事情を知らない奴が見たらさぞかしやっかむだろうな。…そう言えば、

ランボロスたちも来てるだろうか。あんまり会いたくはないけど。


とは言え、別にうわついた気分にはならない。…そもそもネミル以外、

そういう関係とは程遠いんだから。遊びに来たとは言え、本来の目的も

きっちり果たさないとな。


「よーし、俺のおごりだ。とにかく色々食べてみようぜ。」

「はぁい!」


3人の声がバッチリ重なる。いいねこういう一体感は。

相変わらず、俺の人生は早送りだ。いい加減、そんな日々にも慣れた。

だとすれば、来年と言わず半年後の出店を目指すのもいいかもと思う。

気が早いのは承知の上だ。とにかく今日はとことん試食しよう。



気がつけば、もう昼を過ぎていた。


================================


「さすがに」

「いささか…」

「食べ過ぎましたね。」

「だろうな。」


そうなるだろうとは思っていたし、あえて止めようとも思わなかった。

羽目を外しに来たんだからな。

とは言え、腹ごなしは必要だろう。


「北の催事場へ行こうぜ。」


マップを確認しながら、俺は三人に提案した。


「飲食以外の店が集まってるから、何かしら楽しめるだろう。」

「賛成!」


…………………………


そんなこんなで、歩いて5分ほどの北催事場に到着。やっぱり飲食ほど

店は多くないし、人の数も少ない。混雑するのはもう少し後かもな。


「さあて、何から見て」

「あれ?」


声を上げたのはロナンだった。


「どうしたの?」

「あの人、どっかで見た事が…」


そう言って彼女が指し示したのは、出口にほど近い場所に設けられた

ごくごく小さなブースだった。何か売っているわけではない。おそらく

占いとかの類だろう。ふと目を傍らに向ければ、全体マップがあった。

出店者が自ブースの内容について、ごく簡単な注釈を書き込んでいる。


「ええっと…あそこは…何だ?」


幟も立てていないから、何を扱っているかが分からない。いきなりだと

後で困るかも知れないので、ここで注釈だけでも確認しておこう。


「隅っこだから…ここになるな。」

「なんて書いてあるの?」

「ええと…あなたの天恵をお手頃な価格で見ます。百発百中…何だと?」

「天恵を見る?」

「それって…」


俺とネミルとポーニーが、訝しげな表情を浮かべた瞬間。


「あっ」


何か思い当たったらしいロナンが、大きく目を見開いた。


「どうした、誰か思い出したか?」

「ええ、多分間違いありません。」

「誰なの?」

「流浪の神託師です。」


「は?」


頓狂な声を上げると同時に、かつて聞いた話がはっきり思い出された。

それって確か…


「シュリオさんに天恵を告げたっていう、あのペテン師か?」

「そうです。」

「マジかよ…」


まさか、そんなのがフードフェスで商売をしているとは。



厄介事は、どこにでも潜んでるな。

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