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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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二次創作哀歌・前編

滅多に見られないものというのは、最初に見るまで想像も出来ない。

そんなのあったのかと、目の当たりにして初めて驚くといった具合だ。

たかが19年しか生きていない俺にとって、世の中そんなのばっかり。


いざ目にすると、どうしていいかがさっぱり分からない。

こんな光景、想像した事もない。



どんより落ち込んでいる、ポーニーの姿なんてものは。


================================


「何があったんだよ。」

「さぁ…」


カウンターの端の席に座るポーニーは、黒い影に覆われているのかと

思うほど沈み込んでいた。さすがにかける言葉がまともに思いつかず、

俺とネミルはひそひそ声を交わす。聞こえていないとは思わないけど、

ポーニーは反応すらしないでいた。


ほんの二日ほど前まで、ポーニーはいつもどおり元気いっぱいだった。

いや、いつもより気合が入っていたような記憶もある。


「ちょっとロンデルンに行く用事がありまして。」

「またかよ。まあいいけど…」


呆れ気味にそんな会話をしたっけ。

エイラン・ドールの本さえあれば、ポーニーはどこへでもすぐ行ける。

何だかんだで、首都ロンデルンにも何度か赴いているはずである。

俺とネミルなんかまだ二回だけだ。行けば行ったでとんでもない事件に

出くわすし、今の時点ではあんまりいい印象がない。そういう意味では

ポーニーの方がよっぽど都会っ子になりつつある。


それだけに今回、ロンデルンで一体どんな事があったのかが気になる。


「訊いてよ。」

「俺がかよ。」

「雇用主でしょ?」

「いや…まあそうだけど。」


正直、訊くのがかなり怖い。

でもまあ、いつまでもカウンターで負のオーラを撒き散らされてるのも

困る。それも無視できない事実だ。何たって客商売やってるんだから。



仕方ない、腹を括ろう。


================================


「なあポーニー。」


彼女の好きなアップルティーをすぐ傍らに置き、俺は出来るだけ自然に

問い掛けてみた。


「話してみろよ。何があった?」

「…………………………」


だんまりか、やっぱり。でも…

お?

突っ伏したままの姿勢で、ポーニーはゴソゴソと何かを取り出した。

そしてそれを、黙ってカウンターの上に置く。移動用に携行していた、

ホージー・ポーニーシリーズの文庫らしかった。…これがどうした?


「ん?」


手に取って見ると、ちょうど中ほどのページに何かが挟まっている。

そっと抜き取ってみると、どうやら折り畳まれたチラシらしかった。

…見ていいんだよな、これ。

視界に入るようにゆっくりと開く。ポーニーは何も反応しなかった。


「ええっと…何だこれ。」

「募集要項?」


俺の傍らから覗き込んだネミルが、怪訝な表情を浮かべる。


「刊行50周年記念として舞台化。メインキャストのオーディションを

ロンデルンにて開催…」

「ああなるほど、舞台化か。」


「三つ編みのホージー・ポーニー」が舞台劇になるって事なのか。

作者は亡くなってしまったけれど、企画としては大いにアリだろうな。

でも、それならどうしてポーニーがここまで凹んでるんだろうか。

エイランの忘れ形見にとって、実に喜ばしいイベントじゃないのか…


ん?

ちょっと待てよ。

まさか…


「もしかして、このオーディション受けに行ったのか?」

「…………………………」

「そうなんだな?」

「…………………………」


沈黙が雄弁に肯定する。って事は…


「結果は?」

「……………………した……」

「…何て?」

「…………………………ちました」

「え?」

「落ちました!」


そこでようやく顔を上げ、ポーニーはやけくそ気味に言い放った。



「一次審査で落ちたんですぅ!!」


================================


俺もネミルも、絶句してしまった。

ひどいとかそういう意味ではなく、ただ純粋にリアクションに窮した。


怒ればいいのか、嘆けばいいのか。

あるいは笑うべきなのだろうか。

いや、笑うのはいくら何でも失礼が過ぎる。そのくらいは分かる。


「ええっと…残念だったなぁ。」

「残念だったねぇ。」


俺もネミルも返しがアホっぽいが、と言って他にどう返せばいいんだ。

しかしポーニーは、特に怒りなどは見せなかった。むしろ拗ねていた。


「…あたしは、ホージー・ポーニーなんですよ?」

「うん。」

「知ってる。」

「それが、ホージー・ポーニー役のオーディションで真っ先に落ちた。

何でそうなるんですか?」

「いやそれを俺に訊かれても。」


困った。

客観的に考えても、彼女がそんなにあっさり落ちる理由が分からない。

当たり前の事実だけど、少なくとも容姿のイメージだけは完璧である。

もし俺だったら絶対に候補に残す。いや、ネミルだって残すだろう。

何か、致命的なミスでもしたのか?


「ちなみに、落ちた理由は…?」


もう本人に訊くしかない。何が…


「歌と踊りです。」

「は?」

「歌とダンスが全然出来ないから、ダメだと言われたんです!」

「え?」


何だと?

慌ててチラシを確認してみる。と、下の方にはっきり記載してあった。


「おい。」

「何ですか。」

「これミュージカルじゃねえか。」

「だったら何なんですか。」

「それで歌って踊れなきゃ、落ちるに決まってんだろ!」

「知りませんよそんな事!!」

「俺だって知らねえよ!」



これ何の話なんだよ、一体!?

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