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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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トーリヌスの天恵

「魔王」とかいう天恵に関しては、出来る限り人に知られたくない。

真偽はまだ不明とは言え、知られるのが嫌だという思いは変わらない。

こればっかりは理屈じゃない。


だけど、爺ちゃんが遺したネミルの指輪に関しては、秘密にできない。

これを使って神託師の仕事をするというなら、ごまかしなど利かない。

正直に言うしかないだろう。

さいわい、これだけ天恵ってものが廃れた時代だ。商売敵なんて存在も

ほぼ気にかけなくていいだろうし、稼ぐとしても微々たるものだろう。

結局、種明かしは時間の問題…って話になったのは間違いない。


だから俺たちは、トーリヌスさんに今の事情を説明した。俺たち二人が

どんな関係か、ネミルがどういった経緯で神託師を継ぐ事になったか。

そして、この家で何をしようとしているのか。


人に話す事で、俺たち自身も現状を再認識できた気がした。


================================


「なるほど、事情は分かりました。…いろいろ急だったんですね。」

「正直、ホントそうなんですよ。」


頷くトーリヌスさんに、俺は実感のこもった言葉を返した。ノダさんも

姿勢は崩さないものの、チラチラとこちらを見ている。興味津々なのが

思いのほかよく分かった。


「…とは言え、神託師という仕事がそれほどまでアバウトだというのは

意外でした。できなくてもいいから継げというのは本末転倒ですね。」

「その事を聞いた時は、違う意味でどうしようって思いました。」


ネミルもそう答える。何と言うか、トーリヌスさんは「話したくなる」

人物だ。聞き上手なだけではなく、何とも独特の雰囲気を持っている。

…この人と爺ちゃんって、どういう関係だったんだろうな。


影の方向が少し変わってきている。

いつの間にか、長話になっていた。


================================


「さて、それじゃあ。」


もしかして、帰るんだろうか。

そう思ったトーリヌスさんは、目の前に座るネミルに言い放った。


「せっかくなので、この私の天恵を見てもらいましょうか。」

「…え?」

「ルトガーさんの形見を受け継いだのなら、出来るはずでしょう。」

「いや、それは…」

「もちろんお金は払います。そこはご心配なく。」


そんな事が言いたいわけじゃない。だけど、有無を言わせない雰囲気は

嫌というほど伝わった。と言うか、神託師になったのなら、この依頼は

決して軽く扱ってはいけない。

ここに住む覚悟を決めている以上、ネミルには遅かれ早かれって話だ。

もう、やるしかない。


「…承知しました。」


ネミルも腹を括ったらしい。思いを共有できているのは心強かった。

しっかりな、ネミル。


================================


紐を通し首にかけていた指輪を襟口から出し、ネミルはそれを迷いなく

左手の薬指にはめた。


「では始めます。」


緊張は声に出ていたけれど、態度は堂々としていた。トーリヌスさんに

意識を集中する。もはやノダさんもこっちをじいっと注視している。


見守る俺は、何だか自分の無力さがちょっともどかしかった。

これはネミルにしかできない事だ。俺にはいかなる干渉も許されない。

その真偽に関しても、今この瞬間の俺は何ひとつ確かな事が言えない。

俺に出来る事と言えば、爺ちゃんとネミルを信じる事。ただそれだけ。

頼むぜ本当に。


何とも長い、十数秒が経過した。


…………………


どうしたネミル。

まさか、また魔王が出たってのか?もしそうなら、インチキ確定だぞ。

それとも、何にも見えてないのか?あるいは、もっとヤバい天恵が…


相変わらず悲観的想像が膨張する。と、そこでネミルが呟いた。


「…前の時と違う…」

「何が違うんだよ。」

「文字が…」


小声で問う俺に向き直り、ネミルが困惑顔で告げる。


「赤く見えるの。」

「は?」


俺を見るネミルの目も、前とは違う赤い光を帯びていた。…何なんだ?

俺の時とは発現する状況まで違ってきてるってのか?一体どうして…


「文字は見えているんですね?」


テンパる俺たちに、トーリヌスさんは意外なほど冷静な言葉を放った。


「え、ええ…。」

「なら、私は構いません。そのまま言って下さい。」

「いいんですか?」

「もちろん。さあどうぞ。」


そう促され、ネミルは向き直った。どうやら腹を括ったらしい。なら、

俺もうろたえるのはやめとこう。


一瞬の沈黙ののち。


「トーリヌス・サンドワさん。」


落ち着いた声で、ネミルは言った。



「あなたの天恵は【建築】です。」


================================


……………………………………


静寂。

沈黙。

耐えがたい「間」。


いろいろな考えが、頭を駆け巡る。


建築?

俺と比べて、めっちゃ現実的だな。

って言うか、あの発光エフェクトは何で起こらないんだ。

何で文字が結像しないんだ。

俺の時と何が違うってんだ?


どうなってんだよ!


「…あれ……どうして…」


消え入りそうな声で、ネミルがそう呟く。きっと困惑は俺以上だろう。

だけど、何を言えばいいってんだ。俺に分かる事なんて…


「お見事です。」

「え?」

「は?」


予想外のトーリヌスさんの言葉に、俺たちは間抜けな声を上げる。

お見事って何だ?


「間違いありませんよ【建築】で。それが私の天恵ですから。」

「ど、どういう事ですか?」


あらためて見たトーリヌスさんは、嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「何かしら違和感があったのなら、多分それは私が既に自分の天恵を

知っていたからでしょう。」

「知っていた、って…」


問い掛けの途中で、俺は不意にある可能性に行き当たった。

まさか…


「ええ、おそらく君の想像した通りだと思います。」


表情で察したのだろう。見透かしたような口調で告げられた言葉は、

やっぱり思った通りだった。



「30年前、私はルトガーさんから天恵の宣告を受けたんですよ。」

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