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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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決着の後にすべき事

危ういピンチはあったけれど、予想以上に迅速に制圧できた。

堪えに堪えた末、必要な情報を全て彼らが手に入れてくれたからだ。

後はトーリヌス氏を救い出すだけ。何とかやり遂げた。


でも。

達成感に浸る気にはなれなかった。

最後まで気を抜くなとか、そういう話ではない。いや、気が抜けない。

昏倒したスワンソンのすぐ傍らで、ぶよぶよと蠢いている小鬼。

あまりにも異様なその姿が、私たち二人に緊張を解かせてくれない。


「…何なの、これ?」

「さあ…」


さすがに、シュリオには皆目見当がつかないらしい。あたしも同じだ。

襲ってくる気配もなく、大き過ぎる単眼でこちらを見つめている。

いっそ飛び掛かってくれば、悲鳴を上げるか叩きのめすかという選択が

できるのに…


どうしよう。


================================


カチャン!!


出し抜けに響いた大きな解錠音に、不覚にも飛び上がってしまった。

不毛な沈黙を破ったのは、目の前のドアが開けられる音だった。


「終わりました?」


にゅっと顔を出したのは、予想通りホージー・ポーニーだった。

どうやら、トーリヌス氏の持つ本を伝って室内に先行していたらしい。


「え、ええ…」

「よかった。ちょっと来て下さい。拘束が固くて解けないんです。」

「いやちょっと待って。」


さっさと話を進める彼女に、思わず素で突っ込んでしまった。


「こいつ何だか分かります?」

「え?ああ、はい。」


指差した小鬼を一瞥し、ポーニーは当然のように頷いた。知ってんの?


「戻って。」


シュン!!


そう言って本をかざしたと同時に、小鬼は一瞬で消えた。まぎれもなく

ポーニーの瞬間移動と同じように。という事は…


「…まさか、本の中の世界から?」

「まあ、そんな感じです。」


答えたポーニーが、中ほどの挿絵のページを開いて見せる。


「…………………………」


黙って覗き込んだそのページには、明らかに後から誰かが描き込んだと

おぼしき絵があった。間違いなく、今までここにいた水色の小鬼だ。


「これは?」

「この本を借りたどこかの子供が、家で描いたんでしょうね。あたしも

初めて見た時はびっくりしました。でも大人しくていい子ですよ。」

「はあ…」

「さっきも、注意を逸らす手伝いをしてくれましたし。」

「なるほど…。」


王立図書館の蔵書に落書きするとはちょっと感心しない。

だけど、おかげで助かった。

まあいいか。



私もちょっと感化されてきたなぁ。


================================


「ご無事でしたか。」

「ええ、何とか。」


憔悴も負傷もしているものの、予想よりトーリヌス氏は元気だった。

シュリオが素早く拘束を切り、彼を助け起こす。


「女王陛下直属の騎士隊の者です。遅くなって申し訳ありません。」

「ありがとう。」

「立てますか?」

「もちろん。」


シュリオとポーニーに支えられて、トーリヌス氏はしっかりと立った。

どうやら大丈夫らしい。それなら、あたしはあたしの仕事をしよう。


「シュリオ。」

「ああ。」

「あたしは倒した奴らを確認して、一箇所に集めておくよ。」

「頼む。あ、それじゃあ…」


何か思いついたのか、シュリオの顔に意味ありげな笑みが浮かぶ。


「一階の詰所に運んでくれ。一人で大丈夫か?」

「え?ああうん、大丈夫だけど…」


何でわざわざ詰所なんだろうか。

まあいいか。ここは二人に任せて、あたしはすべき事をするだけだ。

今はもう、頭よりも体を動かす方がいい気がするから。


「じゃあ行ってくる。」

「頼むな。」



何だか、まだ実感が湧かなかった。


================================


面倒なので、スワンソンは階段から蹴り落とした。もちろん、角度には

十分気をつけて。死ななけりゃ別に問題ない。打ち身が増えるくらい、

我慢しろと言いたい。


二階にいたのはこいつだけだ。後は強引に引きずって詰所に詰め込む。

全員、しっかり後ろ手で拘束する。スワンソンは目隠しもしておいた。

目を覚ましたとしても、あの厄介な天恵を使われないように。


「これで全部だな。」

「ええ。それで…」

「どうするんですか?」

「電話するんだよ。」


私とポーニーからの問いに答えて、シュリオは受話器を手に取った。

ああ、それで電話のある詰所か。


「…つまり、本部に連絡するのね。制圧完了したと。」

「それもあるけど、後だ。」

「え?」


それより優先する事って…


「ああそうか、トランさんたちの方ですね。お待ちでしょうから。」


先に気付いたのはポーニーだった。ああそうか、なるほどね。

でもそれは、ポーニーが直接伝えに行った方が速いんじゃないのか。


いや、そうじゃない。

それだけじゃない。


そうか、なるほどね。



シュリオって、意外と悪知恵も働く男なんだよね。

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