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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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睨み据えるもの

正直、自分でも信じられない。

あれほど頭を悩ませていた管理棟の中で、まさか待ち伏せをしたとは。


しかし、間取りが分かってしまえば決して不可能ではなかったのだ。

通路を塞いだ何枚ものドアの鍵は、ホージー・ポーニーがあらかじめ

全て開けてくれていた。その点さえクリアされていれば、さほど複雑な

間取りでもない。そして賊も一箇所に集まっていた。


「注意はあたしが引きつけます。」


どうするのかと思ったら、どこからともなく大量の風船を取り出した。

どこかの子供が本に描き足したものらしい。その原理は理解し難いが、

使えるものはとことん使う、という考えは大いに理解できた。

そして、何気に風船は最適解だ。

本当の銃声だと、音量が大き過ぎてシャレにならない。この管理棟内の

人間だけに聞こえる破裂音ならば、効果的に注意を引く事が出来る。


今にして思えば、侮っていた。

児童小説のキャラクターとは言え、彼女は僕たち二人に出せない発想で

サポートしてくれていた。


よし。

事前に得た情報はほぼ正しかった。

唯一違っていたのは、賊が4人ではなく5人でまとまっていた点だ。

つまり、残るはあと一人。



そいつは、二階にいる。


================================


視線を交わし、僕が先行する。

リマスは接近戦特化だから、先鋒を任せるというわけにはいかない。


僕の天恵「騎士」は、イメージした武器を数秒だけ具現化する能力だ。

飛び道具系は創れないものの、その応用範囲は広い。武器を携行せずに

戦えるという点で、こういう局面においては存分に威力を発揮できる。


制圧に時間はかけられない。

最優先の目的がトーリヌス氏の救出である以上、とにかく先手必勝だ。

情報によれば、階段を上ってすぐの部屋に監禁されている。内側から

施錠するタイプのドアではあるが、ポーニーは自由に入れるらしい。

だからその点は心配いらない。


とにかく最後の一人を見つけ倒す。それさえ出来れば、後はどうにでも

ごまかせる。


タッ!!


階段を駆け上がったと同時に、再び盾を展開。いくら何でも下の戦いは

聞こえていただろうから、待ち伏せを警戒しての判断だった。


しかし相手は、廊下に出した椅子に座ったままの姿勢で待っていた。

明らかに、僕たちが上って来るのを待っていた。

後詰めのリマスが隣に来た時点で、相手の男はゆっくり立ち上がる。

パッと見た限り、銃器を持っている気配はなかった。


「マルニフィートの飼い犬だな。」


落ち着いた口調の言葉に、リマスが不快そうな表情を浮かべる。

状況をかなり正確に把握している。その上でこの余裕なのか。


「…スワンソン、か?」

「その通り。」


予感めいた問いに、男―スワンソンはあっさり肯定の言葉を返した。

つまりはこの男がリーダーであり、天恵持ちという事になる。

あと数歩で、長槍の射程内に入る。仮にかわされたとしても、リマスが

接近する時間くらい作れるはずだ。力を使われる前に仕留めて…


「浅はかだな。」


こちらの考えを見透かしたように、スワンソンは笑みを浮かべた。

…何だと?



「俺の視界に入った時点で、お前ら二人は終わってるんだよ。」


================================


ギイィン!!


かすかな目の発光を見た瞬間、体が溶接されたように「硬く」なった。

目も動かせないが、おそらくは隣のリマスも同じだろう。


油断した。

数の利を過信してしまった。


おそらく、スワンソンの持つ天恵は「睨む蛇」だ。

視界内、それも自分の目を見ている相手の体を、強制的に硬直させる。

有効範囲は広くないものの、人数を問わない強力な制圧能力。


知識として知っている天恵なのに、不覚にも想像が及んでいなかった。

こんな大それた拉致を行う犯人が、相応の能力を持っているのは当然の

事だったはずなのに。


「…!!」


声が出せない。

いや、実は呼吸も出来ていない。

このままの硬直が続けば、二人とも数分で窒息死してしまう。


迂闊だった。


「残り一人と思って気を抜いたか。高い勉強代だったな。」


僕たちを睨んだまま、スワンソンは酷薄な笑みを浮かべる。

どうにかして、あの眼光を逸らす事ができれば…!


ポーニーはどこにいるのかと考えた瞬間、苦い思いが胸に走る。

自分の不首尾を棚に上げて、彼女を頼ろうとしているのか僕は。

無理はするなと言ったはずだろう。

ならどうにかして…!


その瞬間。


ボトッ。


粘り気を感じる音と共に、天井から水色の塊が落ちてきた。狙い違わず

スワンソンの肩の上に。


「あ?」


それは、大きな一つの目玉を持った小鬼だった。半分溶けたような体を

蠢かせながら、その単眼を見開いてじいっとスワンソンを睨んでいた。


チラと肩に視線を向けたその顔に、やがて形容しがたい表情が浮かぶ。

当たり前だろう。

いきなりこんな醜悪な怪物が、己の肩に前触れもなく落ちてきたら。

すべき事はひとつ。



恐怖の悲鳴を上げるだけだ。


================================


「ヒイィィィィィィ!!」


ドガッ!!


かすれた悲鳴と共に、硬直していた体の制御が戻った。

溜めに溜めていた力を一気に解放。一歩で間合いに踏み込み、長槍で

スワンソンの肩をぶち抜く。小鬼はそのまま、ぼとりと下に落ちた。


「らあぁッ!」


長槍を引き抜くと同時に、リマスがスワンソンの体を一回転させる。

背中から叩きつけられた衝撃の強さは、ビリビリと震える床の振動で

嫌でも分かった。


「…制圧完了。」


口に出して初めて、息が切れている事実に気付く。

やはり気を張っていたらしい。


トランさん。

ネミルさん。

ノダさん。

マルニフィート陛下。


どうにか、約束は果たせそうです。

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