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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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命の価値それぞれ

騎士隊二人の動きはどうだ。


律儀に待機命令を守っていますね。

もしかすると、このまま傍観という立場を貫くつもりかも知れません。


連絡はよこしているのか?


定時連絡以外では、2度ほど。

こちらの交渉の進捗や、提供できる情報に関するしつこい確認です。


…やる気があるというアピールか。

それとも、本当に救出任務に本気で挑むつもりなのか。


何とも言えませんね。

あの二人にしても、馬鹿ではない。自分たちの立場の危うさはちゃんと

理解しているでしょう。その上で、陛下の期待に応えようとするか…。


他人事だな。

曲がりなりにも女王直属だぞ。


もちろん承知の上です。

事がどう転ぼうと、責めを負うのはあの二人。その事実は変わらない。

我々がいかに現状を憂いようとも、現実というものは無情です。

私とて、彼らだけに責任を負わせるというのはさすがに納得できない。

しかし、こればかりはどうしようもない話だと割り切っています。


そうだな。

お寒いばかりの現状だ。

ならせめて。

あいつらが見事に任務を果たす事を祈ろう。できる事はそれだけだ。


…はい。


================================

================================


「…いけませんか。」


俺ではなくシュリオさんたち二人に対し、ノダさんは切々と訴える。


「あたし自身が望む事なんですよ。この命と引き換えにトーリヌス様が

無事に戻られるなら、惜しくない。そう考えるのは罪なんですか!?」

「いいえ、少なくとも罪ではない。それだけは確かです。」

「だったら!」

「しかし僕は、お二人の意志に介入できる立場ではありません。」


言いながら、シュリオさんは俺たち二人に目を向けた。

無責任でも逃げでもない。それは、至極まっとうな言葉のパスだった。


「どちらの気持ちもお察しします。だからこそ我々は、あなた方の出す

結論を尊重します。尊重した上で、自分たちの成すべき事をします。」

「……………」


そりゃそうだよな。

俺とネミルが言ってる事は、ただのワガママでしかない。分かってる。

ノダさんに覚悟があるというなら、これ以上の介入は度が過ぎている。


だから何だ。

どんなに憎まれようとも。


「あたしたちは、曲げません。」


そうだよな。



それでこそネミルだ。


================================


窓の外は、相変わらずの平穏だ。

大きなテロ行為が現在進行中とは、道往く人の誰も気付いていない。


だけど、王立図書館の中は。

そしてこの小さな一軒家の中は。

おそらく平穏とは最も遠い空間だ。


「あなたたちに、あたしたちの命の価値を決める権利がありますか。」


ノダさんのかすれた声が、容赦なく俺とネミルの心を抉る。

間違ってるとは、絶対に思わない。この人にとってトーリヌスさんが、

どれほど大切な存在なのか。多少は知っているからこそ、その言葉には

無視できない重さがこもる。


「神託師の仕事って、そこまで人に関わる事ではないでしょう!」

「確かにそうです。」


頬を赤く腫らしたネミルが答えた。


「神託師の仕事は天恵の宣告です。それ以上でも、それ以下でもない。

だけどあたしは…」

「何ですか。」

「神託師である以上に、ノダさんの友人だと思っています。」

「……………」


そこが我慢の限界だったんだろう。ネミルはぐずぐずと泣き出した。

泣いて済む話じゃない。とは言え、よくここまで耐えたなと言いたい。


そうなんだよな。

難しい言葉は出てこないけど、俺とネミルの思いは明確なんだ。

今の言葉で、確信が持てたよ。


後は俺に任せろ、ネミル。


================================


「命の価値って言いましたよね。」


ネミルの肩に手を置きながら、俺はノダさんにゆっくりと告げた。


「確かに俺たち二人は、自分勝手な価値を押し付けてるかも知れない。

それは否定しません。それに…」

「それに、何ですか。」

「人の命が全て平等だとか、そんなきれい事を言う気もありません。」

「……………」


俺は、涙をグッと堪えた。


そうだ。

そんなきれい事は、間違っても俺が口にすべきじゃない。当然の話だ。


だって俺は、死に戻りを殺した。

姉貴たちの命を選び、あの男の命を切り捨てたんだ。

そんな罪を背負う俺に、他人の命を等しく語る権利なんてないんだ。


だけど。

それでも。


「少なくとも俺とネミルにとって、あなたもかけがえのない恩人です。

トーリヌスさんが助かればあなたは死んでいい。そんな割り切りなんて

絶対に出来ない。他の誰でもない、俺たちにとってあなたの命の価値は

そういうものなんです。だから」

「何でよぉ…」


ぐずぐずと泣き出したノダさんが、膝から崩れ落ちてうずくまる。


「何でやらせてくれないのよおぉ!…あなたたちもシュリオさんたちも

自分の持つ力を活かそうとしているのに、あたしは何にも出来ない!!

ここにいる中で唯一、あたしにだけできる事が何もない!!そんなの、

耐えられるわけないでしょ!!」


絶叫は、甲高く裏返った。


「どうしてあたしだけ無力なのよ!どうして何もさせてくれないのよ!

あなたたちなんかより、あたしの方がトーリヌス様を案じているのに!

あたしの天恵なんだからもう勝手にさせてよぉぉ!!」


パァン!!


悲痛なその絶叫を終わらせたのは、ネミルの平手打ちだった。


================================


「取り消してください。」

「…え?」

「あなたが無力だなんて、あたしは認めない。そんなの認めない。」


泣き腫らした目で、ネミルはじっとノダさんを睨み据える。

さっきまでとは別人だった。何か、変なスイッチが入ったらしい。


「天恵が何だって言うんですか。」

「……………」

「あたしたちは何も、あきらめろと言うつもりなんかないんです。」


言いつつ、ネミルはノダさんの肩を掴んだ。


「まだ手は尽くしていない。もっと他に方法があるはずです。だから、

こんな悲しい手段を選ぶ前に考えて考えて考えて、できる事を何もかも

やり切ろうって言ってるんですよ。それが許されているのはここにいる

あたしたちだけでしょう!」

「確かにそうだな。」


そこで初めて、ずっと沈黙していたリマスさんが言葉を挟んだ。


「我々もまだ何もしてない。こんな状況で結果だけ出されても困るよ。

せめて全力を尽くさせてくれ。」

「そうですね。他人任せというのは騎士道に反します。」


シュリオさんも嬉しそうに言う。


「主を思うあなたのその心は、千の騎士に勝る。だからどうかその力を

我々に託してくれ。きっとそれを、トーリヌス氏も望むはずだから。」


================================


永い、十数秒の沈黙ののち。


「……………分かりました。」


ポツリと呟き、ノダさんはゆっくり立ち上がった。


「お見苦しい姿をお見せしました。もう大丈夫です。」


パァン!!


思い切り自分の両頬を叩いた音が、甲高く響き渡る。


「不肖ノダ・ジークエンス。持てる全てを状況の打開のために!」

「よろしく。」

「応。」

「ですよね。」

「そうですよね!!」


ノダさんの目に、光が戻った。

天恵なんかに頼らない、本当の強さを秘めた輝きが。


よおし。



見てろよ、関係者ども!!

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