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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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誕生日の出来事

挿絵(By みてみん)


この世界には、「天恵」と呼ばれる不思議な力が存在している。


誰もが等しく、15歳を迎えた時に神託師から告げられる。

それはこの世界における唯一の神、恵神ローナから授けられる祝福。

他者が持ち得ない、その人間だけにもたらされる特殊な技能や特性だ。

天恵を得て成り上がった者もいる。世界に変革をもたらした者もいる。

この社会さえ動かす可能性として、天恵は大きな意味を持っていた。


らしい。

そう、かつては。


残念ながら、俺は見た事がない。

もちろん、自分の天恵も知らない。


そもそも、今もそれが存在しているかどうかすらも知らない。ってか、

興味がない。俺に限らず、世界中の人間の大半がそう思っている。

はっきり言って時代遅れの伝説だ。



悪いけど、俺は興味ない。


================================


俺の名は、トラン・マグポット。


家は、四代続く老舗レストランだ。けっこう大きな店だと思う。

俺は三男だから、間違ってもこの店を継ぐなんて話にはならないけど。

とは言え、やっぱり俺にも料理人の血ってのは確かに流れてるらしい。

自分で作るのも食べるのも、昔から大好きだ。


気楽な三男坊だからこそ、俺は自分なりの夢ってのを持っている。

それほど大層なもんじゃないけど、決意はある。努力もしてきた。


それを今日、家族の前で発表する。今日だからこそ言える、俺の夢を。

そう。


今日は俺の、19歳の誕生日だ。


================================


誕生日。

いくつになってもワクワクできる。我ながら子供っぽいと思ってる。

今日だけは俺も主役になれる日だ。変な遠慮なんか、する気はない。

一昨年のプレゼントは自転車だったけど、それ以外はいつもご馳走だ。

それでいい。むしろ、それがいい。食べるのも作るのも大好きだから。

それに今年は、俺としても特別な年にしたいと思ってるんだ。


天恵を授かった15歳の誕生日?

どうでもよかったなぁ、そんな事。

神託師に頼むのは金かかるし、別に天恵なんか知りたくもなかったし。

と言うか、もしも変な天恵だったらせっかくの誕生日が台無しになる。

当然のようにスルーしたっけな。

時代遅れのおとぎ話より、目の前の目標の方がずっと大事なんだよ。


さあてと。

ちょっと寝坊したけど、誕生日特権として大目に見てもらえるだろう。

ちょうど今日は祝日。店も休みだ。


テンション上げていこう!


================================


「おはよう、トラン。」

「おはよう。」


………


何だ。

何かがおかしい。


家中に漂う、この気まずさは何だ。

俺、何かまずい事したっけ?寝坊がそんなに心象悪かったのか?

いや、違うな。親も兄貴たちも皆、別に怒ってるような雰囲気はない。

どこまでも気まずいというか、目が泳いでる感じだ。


もしかして、俺が日を間違えてる?

そんなわけあるか。自分の誕生日を間違えるほど馬鹿じゃないぞ俺は。

うん間違いない。今日は6月7日。まぎれもなく俺の誕生日だ。

…もしかして、みんなが忘れてる?いや違う。休みなのに忙しく料理を

作ってるし、忘れてるわけがない。


って言うか、何で「おめでとう」のひと言も言ってこないんだろうか。

誕生日だぞ誕生日。俺にとって年に一度のイベントなのに…


…………


ん?

これいくら何でも、作ってる料理が多過ぎるんじゃないだろうか。

いったい何人招くつもりなんだよ。これじゃ…

…地味だな。

誕生パーティーの場で振舞う料理にしては、限りなく地味に見えるぞ。

これじゃ、むしろ…


ちょっと待て。


なんか、嫌な予感が胸をよぎった。

まさか…


「…母さん。」

「ん?」


立ち止まった母親の顔を見て、俺はある種の確信を抱いた。


「何かあったの?」

「ええ。」


もしかしたら、俺が何か察するのを待っていたのかも知れない。

向き直った母親の表情に、もう迷いの色はなかった。


「ステイニーさんのお宅から連絡があったの。」

「何の?」

「……今朝早くに、ルトガーさんが亡くなったんですって。」


================================


自分でも驚くほど、驚かなかった。

何となく、そんな話だという覚悟ができていたからかも知れない。


やっぱりか。

やっぱりそういう事があったのか。

しかも、あのルトガー爺ちゃんが。

家の中のこの空気に、あらゆる意味で納得ができてしまった。


ルトガー・ステイニー。


街一番の変り者の爺ちゃんであり。

そして。



俺が知っている、唯一の神託師だ。

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