表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機神冒険活劇<カリュプス プロヴォカーレ> 第二部 巨獣たちの楽園編  作者: 九傷


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/30

第27話 違約金



 早朝、俺とシャルが村長の家を訪ねると、出迎えてくれたのはトールだった。

 家主であるスミヤが出てこないのはまだ寝ている――というワケではないだろう。

 トールが昨夜のことを情報共有した結果、ショックで動けなくなったといったところか……?


 居間に入ると、俯いた状態で座っていたスミヤが顔を上げる。



「……おはようございます、開拓者様方」


「おはようございます、スミヤ村長。どうやらトールから色々話を聞いたようだけど、別にそんな深刻そうな顔しないでも大丈夫よ?」



 深刻そうというより、あれはもう怯えに近い表情に見える。

 状況的に無理もないが、一昨日のように表情を取り繕う余裕はもうなさそうだ。



「し、しかし……」


「安心して――とまでは言わないけど、悪いようにはしないつもりよ? ま、何にしてもまずは一つずつ確認させてちょうだい」



 そう言ってシャルはスミヤと向かい合うよう席に着く。

 トールは立ったままだったので、俺も念のため席には着かないでおくことにした。



「質問形式で確認していくから、スミヤ村長はそれにだけ答えるようにしてね? いい?」


「え、ええ……」



 人から情報を引き出す場合、質問形式で聴取するのが最も効率的かつ効果的だ。

 たとえ相手が協力的であったとしても、可能な限り話の主導権はこちらが握っていることが望ましい。


 自分から語らせると時間もかかるし、余計な情報が増えるため知りたい情報のノイズになることもある。

 しかも話している側が一時的に主導権を握ることになるため、精神的な余裕を与えてしまい、最悪虚偽の情報を掴まされかねない。

 なるべく主導権を与えず、時折あまり関係のない質問を交えることで相手の想定を外し余裕を与えないようにする。

 こうすることで自然と誘導尋問も仕掛けやすくなる――と、俺は士官候補時代に研修で習った。

 シャルには「そんなことも習うの!?」と驚かれたが、士官にはある程度の話術や国際法に関する知識を要求されるのだ……


 士官とはつまり軍における管理職なので、下士官や兵の面接や聞き取りなどをする必要もあるし、作戦会議にも参加するため必然的にトークスキルを求められる場面が多い。

 さらに言えば、捕虜の尋問を担当するケースもある。


 本来であれば聴取を専門とする担当に任せたいところではあるが、戦場ではそうも言っていられない場面が多い。

 基地に戻れない状況もあるため、その場で捕虜を尋問せざるを得ないケースもあるのだ。

 尋問と聞くと恐喝や拷問に近い内容を想像する者も多いが、実のところ捕虜の扱いは中々にデリケートで、下手をすれば国際法に抵触する可能性があるため、尋問はかなり慎重に行う必要がある。


 まず前提として捕虜には自身に関する情報を答える義務はあるが、逆にそれ以外の質問に対して答える義務はない。

 物理的な拷問だけでなく精神的な拷問も禁じられているため、侮辱や脅しなどの言葉による攻撃もしてはならないことになっている。

 バレなければいいと思う者もいるだろうが、こういった情報は意外にも漏れやすく火種にもなり得るため決して軽視はできない。

 もしやるのであれば徹底的(・・・)に行う必要があるため、かかる労力も大きくなる。

 物事を安易に考えがちな脳筋一般兵などには、決して任せることができないのだ。


 そんな法や倫理的な背景があるため、尋問には法や話術の知識に加え、警戒心を解いて懐柔する行為――グルーミングなどの知識が重要となる。

 軍人はフィジカル重視と思われがちだが、士官になると強制的に様々なスキルを詰め込まれるため、本当に辞めることができて良かったと思う。



「まず確認だけど、大蜘蛛の正体を知っているのはスミヤ村長とトーヤの二人だけ、で間違いない?」


「は、はい、私とトーヤ以外は……、妻も知りません」


「でしょうね」



 もしこの件が村ぐるみで仕組まれたものであれば、必ずどこかに(ほころ)びが生じていたハズだ。

 嘘をつくにしても演じるにしても、今まで誰一人としてボロを出してないというのは流石に無理がある。

 村人全員が演技に精通しているのであれば話は変わってくるが、老人や子どもまでプロ級の演者なんてことはまずあり得ないだろう。

 それについては、俺とシャルで意見が一致している。

 ただ、何故こんな真似をしているかについては、残念ながら俺の頭では想像できなかった。



「じゃあ、早速核心を突かせてもらうけど、アンタたちの目的はズバリ――違約金ね?」


「「っ!?」」



 違約金……?

 違約金は、契約の際に決められた義務に違反した際に支払われる罰則金のようなものだが、そもそも支払う側が合意しなければ支払い義務は発生しないハズだ。

 依頼者と受託者――請負側が直接契約するならわかるが、ギルドを通している依頼でそんなものが発生するのか?



「特殊なケースだからマリウスは知らないだろうけど、ギルドの依頼には通常の依頼とは別に短期契約の依頼が存在するの。今回の依頼がまさにそのパターンなんだけど、短期契約の場合は得られる報酬が増す代わりに達成できないと違約金が発生するのよ」


「……そうだったのか」



 俺も依頼書は確認しているので短期契約という記載があったのは覚えているが、それが具体的にどういう内容かまではしっかり確認していなかった。

 これは誤認というか、ちょっとした楽観視をしてしまった結果だ。

 別に難しい言葉でもないし、文字通り短期間の契約なのだろうと勝手に決めつけてしまったのである。


 人間の脳は基本的に、物事を自分にとって都合の良いように解釈するようできている。

 だからこそ油断や慢心が生じるのだが、残念ながらこれはわかっていても無くせるものではない。

 人間の集中力は最大でも90分しか維持できないと言われているし、脳を休めるために気を抜く瞬間は必ず存在する。

 ……大層な言い訳だが、まあつまり、俺はこれからもきっと同じような確認漏れをするに違いない――ということだ。



「まず前提として、この依頼の内容は『巨大生物の調査及びその駆除』なワケだけど、ギルドの評価は危険度Bとかなり高めに設定されている。主な理由は未踏領域関係である可能性が高いことだけど、そうでなくとも長期間未達成の依頼って時点で相対的に難易度は跳ね上がっているわ」



 難易度についてはビルも言及していたし、俺も聞く限り中々に厄介そうな依頼だとは思っていた。

 実際この依頼はギルドで危険度Bに指定されている依頼であり、受注するには審査が必要とギルド側も十分な注意を払っていることがうかがえる。

 にもかかわらず短期契約というのには違和感を覚えたが、スミヤが言うように作物などの収穫時期を懸念してのことであれば、納得もできなくはない。

 ただ、シャルが一昨日スミヤにそれを尋ねた際、スミヤの目が泳いだのを俺も確認している。


 ……なるほど、違約金か。

 そういうことであれば、鈍い俺にも話が見えてきた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
コスいことを考えますね( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ