第25話 科学技術の発展
「……正直、全くわかりません。このドローンは隠密性を高めるため、色んな仕掛けがされているんです。もし仮に発信機の類が付けられていたとしても、ジャミングされるハズなんですが……」
トールの言うとおり、実際あのドローンはかなりのステルス性能を備えていると思われる。
理由はいくつかあるが、まず前提としてあのサイズの機械を正確に探知すること自体が困難だからだ。
ステルスという言葉は一般にも浸透しているが、平穏な日常において隠密性を求められることはほぼないため、実際にどのようなものかを知っている人間はほとんどいないだろう。
軍人でもしっかりと説明できるのは一部の指揮官くらいで、俺の知る限り普通の兵士で理解しているヤツはほぼいなかった。
だからこそ誤解を受けやすいが、ステルス性とは別に姿を消したりレーダーから完全に探知されなくなるのではなく、あくまでも発見されにくくする性質のことだ。
基本的には形状や塗料、素材などを工夫することでレーダーが発する電波を逸らしたり吸収する仕組みになっているが、他にも熱源や音波の探知を誤魔化す機能が仕込まれていることもある。
そのため、別の方法で探知される可能性もあるし、姿を消すワケではないのでカメラなどにも当然映る。
さらに言えばレーダー対策も完璧ではなく、実際は「小動物と区別がつかない」程度に反応を抑えることを機能水準としている場合が多い。
……つまり、最初から小動物程度のサイズしかないあの蜘蛛型ドローンをレーダーで判別するのは、ステルス性能の有無に関わらず困難ということだ。
「フフン♪ どんなに優れた技術や機能も、結局は原始的な方法や力業には負けるって思わない?」
「……もったいぶらずに教えてくれ。シャルと違って、俺は寝てないんだ」
「私だって眠いわよ!」
シャルは4時間近く寝ているが、俺はそのシャルを起こすために起きていたので正直さっさと終わらせて眠りにつきたい。
軍人時代から眠らないことに慣れているとはいっても、ベストなコンディションを保つためにはやはり睡眠が不可欠だ。
できることなら徹夜などしたくない。
「全く、せっかくのお楽しみタイムなのに眠気と戦わなくちゃいけないなんて、嫌になるわ!」
「お、お楽しみタイム……?」
「シャルの病気みたいなものだ。気にするな」
「病気って何よ!?」
「冗談だ」
シャルは重度の説明オタクで、ネタばらしの瞬間に至高の喜びを感じる一種の変態である。
そして変態は精神医学や心理学において病気と判定されることもあるので、あながち冗談とも言い切れない――かもしれない。
「フン! まあいいわ! 私だって別に、自分がまともな人間とは全く思っていないもの!」
……まあ、自覚症状があるだけ比較的マシな変態であることは間違いないだろう。
「それで、どうやって追跡したかだけど、答えは……『臭い』よ!」
「えぇ!? 臭い、ですか? でも、別に何も臭いなんかしませんけど……」
「そりゃそうよ? 人間の鼻で嗅ぎ取れるような臭いならすぐバレるじゃない」
確かにシャルの言うとおりなのだが、そもそもそんな臭いを探知することなど技術的にできるものなのだろうか?
「……臭気測定器なら俺も使った経験はあるが、アレは発生源を特定できるようなものではないだろう」
臭気を測定する機器自体は一般にも流通しているが、アレはあくまでも周囲の臭いを検知するものであり、臭いの発生源を探知するようなものではない。
あくまでも臭いの原因となる化学物質を検知しているだけであり、鼻のように臭いを辿ったり嗅ぎ分けたりすることは不可能だ。
「ええ、だって臭気測定器じゃないもの♪」
まるで良い質問ね! とでも言うように嬉しそうな表情を見せるシャル。
相変わらず、こういうときだけは年齢相応の幼さが垣間見えるな……
「まあ原理は共通しているんだけど、周期測定器は名前の通り臭気を測定する機器でしょ? それに対し、この『marron』に搭載されているのは人工嗅覚! イヌ科の動物の嗅覚を模して造られた人工の鼻よ!」
そう言ってシャルは、傍らにお座り状態で控えていた狼型のドローン――『marron』の背を叩く。
「人工の、鼻、ですか……?」
「フフン! 信じられないって顔しているけど、アンタがこんな森の中に引きこもっているあいだに、人類の科学力は凄まじいスピードで成長してるのよ!」
その言葉は若干俺にも刺さるのだが、確かに昨今の科学技術の発展には目を見張るものがある。
……正直、俺は軍を抜けるまで外の世界の科学技術を過小評価――舐めていた。
俺からすれば、こと科学技術においては軍の方が遥かに先を歩んでいると思っていたのだが、いざ外の世界に飛び出してみるとその認識は大きく間違っていたことに気付かされたのである。
もちろん部分的に見れば軍の科学力は抜きんでているのだが、兵器やデウスマキナ以外に視点を当てると「むしろ軍の方が見習ったり取り入れるべきなんじゃ?」と思わされる技術が多々あった。
特に、利便性向上を目指した科学の発展は、決して侮れるものではないと思っている。
「神代のAIにはまだまだ及ばないけど、現代のAI技術だって舐めたものじゃない。実際はもう、人間や野生動物の五感を模すことができる段階まできているの。古い技術ばかりに頼ってると、足元をすくわれるわよ?」
「「……」」
全くもって、耳が痛い話である。




