81話 モンテアーノ家2
一方その頃のレティシア。
「本当にルタ?」
「うそじゃない?」
「なんで急にいなくなったんだよ」
子どもたちはレティシアを取り囲むと、次から次に質問する。見知った顔が部屋に押し込められたのを見た弟妹分たちは、カイがいなくなって間もなく、扉のつっかえ棒を外してくれた。彼らはカイから命令されていないし、意外なことにレティシアが追放されたことも教えられていなかったようだ。
「かみ、まっしろしろだよ?」
「コラ」
ほのぼのとしたやり取りの最中、ピットが割って入ってくる。今日はこのヘナチョコ男が弟妹分のお世話役らしい。
「いいか? 女には体重と年齢と見た目のことを聞くンじゃ……グヘッ」
レティシアは失礼な男の鳩尾に一発入れる。
「何か、言った?」
「おまえ……手ェ出ンの早ェよ……」
「怪我してる右腕は避けたんだから感謝しなさい」
ピットは弟分だし、涙目で睨んでこられても全く迫力ない。弟妹たちは情けない兄貴分を見て、「聞いちゃいけないんだよねー」と楽しそうに笑っている。
レティシアは周囲を見渡し、
「子守はアンタ一人?」
「動ける奴はみんな出払ってる」
今ここにいない面子は捜索や情報収集、武器にと食料の確保に追われているようだ。普段なら子どもたちの面倒をみている女たちも現場を奔走しているのだろうか。それともーー
嫌な予感が頭を過ぎり、レティシアは唇を噛み締めた。
「……お前のおかげだ。報せがなかったら、オレたち全員殺られてた」
レティシアの心情を察したのか、ピットはぼそりと呟いた。
「スファンがスッ飛んできて、それでボスの命で女こどもから脱出させつつ、外回りの奴らや傘下の家の連中にも報らせに走った」
「そうだったの……」
よかったとも、それからどうしたのかとも言えなかった。ピットの表情を見れば嫌でもわかる。今行方がわかっていない仲間の生存は絶望的なのだと。恐らく報せに回っている最中に攻撃されたのだろう。
傘下の凶賊なら自分たちの隠し拠点に逃げ込んでいるかも知れないが、門を使えるのは五老院のみ。破壊を免れた場所に瞬時に移動できるわけではない。報せを聞いて逃げたとしても、間に合ったのかどうか。
(もしあのとき私がその場ですぐにメモを見ていたら)
過ぎたことを考えても仕方ないが、どうしてもそんな気持ちが過ってしまう。
「そういやお前は大丈夫だったのか? あんなモン手に入れた時点でけっこうヤバかったんじゃねェのか?」
「捕まったり脱走したり、敵と軍と追いかけっこしたくらいだったから、大丈夫ね」
ピットは「お前の大丈夫の規準がわかんねェ」と呟き、弟妹たちは「追いかけっこ?!」と目を輝かせている。
「ところでカイは? なんで私を差し置いてあの男と喋ってんのよ」
積る話があるというのに、自分だけ閉じ込められたことにレティシアは腹を立てていた。閉じ込めるならあっちだろう。
「それは兄貴に聞けって」
「そうね。アンタに言っても仕方ないわね。……で、カイの部屋はどこ?」
「んなこと言える、か……」
「どこ?」
レティシアは満面の笑みで、青い顔のピットに迫った。




