四季澱々
屋上から眺めたいつもの景色は、やけに色が鮮やかに見えた。どことも知れぬ廃ビルがこうも美しい景色を見せるとは思わなかった。こんな景色を見ると少し体がすくむ。いや、これでいいんだ。
「…今行くよ」空に向けて、ひっそり且つ確かに私は呟き、素足で夜の街の空中散歩に興じた。
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~数年前~
衛山「...あのバカ遅せぇなぁ」
花摘「そうねぇ、どこで油売ってるのかしら」
白波瀬「まぁ俺らのことが先公どもにタレこまれはしねぇだろうよ」
衛山「そうだな、あいつみたいな腰抜けにタレコミなんか出来ねぇわな!」
小さく声が漏れる教室に私はドアを開けて入った。
私「...おはようございます」
それを見るや否や、衛山達が食いついてきた。
衛山「おいおいおいどうしたんだよ片山ぁ...!?俺たちを待たせておきながら呑気に『おはようございます』だ?ふざけてんじゃねぇぞこの豚が!」
こんな醜悪な男に豚なんて言われる筋合いはない。イジメなんて最初こそ嫌だったが、今や慣れたものだ。原因から対処するより受け流す方が楽だ。自分が痛いより、他人が自分の初めの頃と同じ思いをして欲しくないという気持ちが強かった。結局私はいつものように袋叩きにされて帰った。何も言えなかった。言わなかった。
――――――――――――――――――
2ヶ月が経つ。私を見限ったのか、あいつらは別の太ったオタク風な他クラスの男を標的にしていた。高校生活初の自由を得て、体が癒えてもなお心は荒んだままだった。いつしか「他人に〜」なんて御大層な大義名分は消え去り、自分が生きるために行動をする人間になった私は、結局他人から蔑まれている。今日もいつもどうり渋谷のスクランブル交差点前を人混みの中通り過ぎようとしていた。
今日もいつもどうり渋谷のスクランブル交差点前を人混みの中通り過ぎる、筈だった。
目に飛び込んできたのは、酔った中年男性が、道の真ん中で私と同じくらいの女の子を殴っている様子だった。周りの人間がその場から少しずつ遠ざかっていき、その2人を中心に小さな円が形成される。女の子は路上シンガーでもやっているらしく、パーカー姿でギターを抱え、守っていた。
今思えば、ここで他人と同じように避けていれば良かったのかもしれない。
男「このガキが!朝っぱらからジャカジャカ鳴らしやがって!うるせぇんだよ!」
女の子「うるさくてすいません!でもあなたも相当うるさいですよ!?」
男「黙れガキ!てめぇに価値なんかねぇよ!」
私の沸点がもっと高ければよかったのかもしれない。
女の子「皆さん離れてください!」
彼女が他人に助けを乞えば良かったのかもしれない。気づけば私は男の顔を叩いていた。
私「うるさいのは貴方です!その手を止めなさい!」
限界が来た私はさらに叩きながら言う。
私「今のあなたのような癇癪持ちはこの場に必要ない!今すぐ帰りなさい!」
相手が目上だろうと関係はなかった。ただ怒りに任せて罵り、叩いた。男もその痛みに悶絶し、逃げていった。自分は大の大人1人をああも叩きのめせる力があったのかと思った。
女の子「あ...ありがとうございます」
私「え...あ、うん」
怒っていたせいで私はこの女の子が殴られていることを忘れていた。じゃあね、と一言残して私は学校へ向かった。満足していた。
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次の日、私は学校へ行く途中で彼女に出会った。それを眺めていると、彼女は時折目を閉じ、ギターを優しく弾きながら、力強く歌っていることがわかった。美しかった。自分よりよっぽど綺麗で、他人より何か違うものを持っていると思った。
彼女が1曲歌い終わった時、私は彼女と目が合った。周囲では拍手を鳴らす者、時計を見て駆け出すもの、そして妬むように眺める者がいた。それでも彼女はそれらに見向きもせずこちらに近づいて来て、突然泣きながら抱きついてきた。流石に私も照れてしまったが、咄嗟に出た言葉は、
私「...制服が濡れちゃうから、泣く時はちょっと距離取って」
だった。そう言ったはいいが顔には照れていることが出ていたらしく、こちらに向き直った彼女に
女の子「...照れ隠ししてるの?」
と言われてしまった。思わず
私「え!?あ、いや、その...」
そんなことは無い、と言おうと思ったが、言葉を濁してしまった。
私「いや、そんなことはどうでもいいの!そんなことより、今歌ってたのってなんて言う歌なの?」
私は無類の音楽好きだったため、いい曲を聞いたらそれがなんというのかを聞かずにはいられなかった。すると彼女は言った。
「生きるよすが。私の作った曲なんだよ。」
まさかの彼女のオリジナルだとは夢にも思わなかった。私含め周囲の全員が驚いていた。その歌唱力、作詞作曲能力たるや。彼女はまさしく音楽の神様に愛されていると思った。そうこうしている間に、時間がだいぶ経っていたらしい。私は電車の時間ギリギリであることに気づいた。
私「あっ!時間ヤバいかも…ごめん!また明日!」そう言い残して私は彼女所を去った。
私(あれ...そういえばあの子私と同じくらいだよね...?)
電車に揺られながら色々な事を思い浮かべた。青みがかった灰色のパーカーを来た彼女の瞳が頭の中を離れなかった。彼女に嫉妬した。なんであんなに美しいのだろう、と。彼女があれほど美しいのに、私はなぜ美しく生きられないのか、と。
才能だろうか。彼女は音楽の神様に愛されている。
受けた愛だろうか。私と同じ年のように見えるのに、彼女は学校にも行かずああして路上シンガーとしてお金を貰っている。お金を投げた人からも、それを許した親からも愛されているのだろう。
夢だろうか。私は夢を持っていない。ただ今と過去を彷徨っている。彼女はどこか明るく、先のことを見ている気がする。そういえば、歌っている途中に目を開けた彼女はあさっての方向を向いているように思えた。今は考えてもしょうがないから、目の前の勉強に目を向けることにした。
最近、どうにも衛山の様子がおかしい。前はバカみたいに虐めを繰り返していたのに、今となっては白波瀬や花摘がオタク風な男の子を虐める様子を見て、苦虫を噛み潰したような顔をするのだ。遠くから指示しながらも、暴力なんかを振るわれてる様子を見ても、前のように楽しそうにしないのだ。
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次の日、彼女のほうの様子もおかしいことに気づいた。彼女にそれを聞くと、ため息混じりに答えた。
女の子「いや...その...最近挨拶してくる男の子がさぁ...」
取り巻きのおじさんが横に割って入り、
おじさん「もしかして...恋ってやつなんじゃない?」
と、冷やかすように言ってきた。
女の子「そんな簡単に言わないでよ...デリカシー持ってよぉ...//」
と、顔に手をかざす。あまりにそれが可愛くて、少し笑ってしまった。それを見るや否や、彼女は怒り出す。
女の子「もぉ...何が面白いのよぉー!」
おじさん「全く...ユマちゃんはそういうところが可愛いんだから...」
彼女の名前はユマというらしい。
私(名前ユマなんだ...)
ユマは笑われたことが随分と嫌だったらしく、もう知らない、と言って、ギターを抱えてどこかへ言ってしまった。
私「あっ!ユマ!ちょっと!どこ行くのぉぉ!」
おじさん「...嬢ちゃん、俺なんかしたかな...?」
私「大分やったと思いますよ、でも可愛いのは事実です」
なんだかほのぼのする朝だった。
私(こんなに可愛いのに今まで寄ってくる人がいなかったのが意外だなぁ...)
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ユマ「...あの子と話したいこともっとあったのに...おじさんの意地悪」
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-15年前- 衛山ソラ誕生
腹の中ではよく暴れ回り、よく泣く子だった。
-9年前-小学校入学
所謂ガキ大将。どうにも人づきあいが下手で、自分より下そうな奴を見つけて、虐めながら無理やり関係を作っていった。だが見つかる都度怒られていたため、保護者からはドラ息子と言われていた。この歳で虐めができるということに最早才能すら感じられていた。
-3年前-中学校入学
より残忍になり、小学校時代の先生達からのマーキングも外れ、口封じや影で虐めるなどの行為を繰り返した。もうこの頃には、他人との関係の為に虐めていたことなど忘れ、ただ快楽的な行動だった。
-数ヶ月前-高等学校入学
片山やオタク風な男の子を虐めるも、とある感情に揺さぶられ、自身の異常さを認識し、人生に懐疑的。
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白波瀬「おぉい衛山ぁ!今日はどうするよ!」
衛山「...そうだな、今日だけ休息を与えてやろうと思う」
花摘「え...なんでよ」
衛山「一回休ませてからやった方がいいだろ、逃げられたと思ってるバカに現実を突きつけてやんのさ」
白波瀬「そりゃあいい考えだな、そうしよう」
衛山(...バカは誰か...今すぐにでも解らせてやりたいところなんだがな)
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数十分後
私「衛山...さん、一体の用なんでしょうか」
衛山が家を訪ねてきた。
衛山「...すまなかった。俺が馬鹿だったんだ。本当にすまねぇ。」
私「私に謝ってる暇があるなら例の男の子を助けに行ってやったらどうなんです?詫びは何時でも受け取れますが命は1回きりなんですが」
衛山「そうだな、行ってくるよ」
私「...ちょっと待ってください、貴方に喝を入れます」そう言って、私は衛山を思いっきり叩いた。
私「行ってらっしゃい」
衛山「ああ、行ってくるよ...愛するユマの為に」
後半のボソッと呟いた言葉を聞き、少し驚きながら手を振って見送った。
衛山は白波瀬と花摘に電話をかける。
衛山「拙い、あのオタクがチクるかもしれねぇ」
花摘「あら...教育しに行きましょうか」
白波瀬「おっと...そいつは許せねぇなぁ」
衛山「いつもの公園で待ってるぞ」
白波瀬「おう!」
花摘「...ええ(何故公園なのか...直接やった方が効率的なはず...怪しいわね)」
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数分後
白波瀬「あれ?あの野郎は?」
衛山「いねぇよ、まんまと騙されたんだよ」
花摘「何それ、私達、あの男にからかわれたってこと?」
衛山「まだわかんねぇのか...騙されたのはお前らだよ!ほんときめぇよ、俺たちはさぁ!どこにでもいるような奴を虐めて、得たものはなんだ?俺達は衝動に駆られて他人を痛めつけた犯罪者だ!でも俺は狡猾と言うやつらしくな...自分だけ正当化してから裁かれたいんだよ...悪ぃな二人とも」
白波瀬「チッ...何を言い出すかと思えば綺麗事かよ...失望したよ、心底」
そう言って白波瀬は衛山に襲いかかる。それを公園に沿った大通りの歩道から、ユマは見ていた。
ユマ「あの人って...毎朝挨拶してくれる人!?」
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衛山「何言ってやがんだこのデカブツ。正気に戻っただけだろ」
白波瀬「あいつが気に入らないから始めたことだろ?お前がやったことなんだから責任もてよ」
衛山「あ?だから責任もって終わらせに来たんだよ」
白波瀬「俺ぁお前に勝てるところはないと思ってたんだがな、お前よりかは現実を見てるやつだったらしい」
衛山「そうだな...で?」
もう1発パンチを入れようとしたが、白波瀬と同時だった為ダメージを負ってしまった。
衛山「ったく...ほんと痛いパンチだなこのデカブツ」
白波瀬「もうお前について行く人間はいないだろうに。1人の俺カッケーってか?偽善者が」
衛山「お前が勉強出来ない理由を言ってやろう。ノートを取りながら授業を聞けないからだ」
白波瀬「で?」
衛山「足りない頭で考えな」
白波瀬にパワーでは勝てない。正面の喧嘩も分が悪い。ならばどうするか...二つのことを同時にできないバカには会話しながら叩くのがよく効く。
白波瀬「チッ...なんでこうも上手くいかないか」
衛山「それはな...お前が白波瀬 海斗という人間だからだよ」
そういうと、顔を真っ赤に染めた。白波瀬がどうやらプッツンしたらしい。
白波瀬「黙れこのドチビクソガキがぁぁ!」
衛山「会話しながら怒って打撃...頭パンクしてんじゃねぇの?」
そう、白波瀬は何も考えられなかった。それでも考えようとした。そのせいで体も動かなかった。
白波瀬(...体が動かねぇ...頭も動かねぇ...)
衛山「邪魔だデカブツ、視界が悪い」
俺は渾身の腹パンを食らわせた。だがその衝撃で腕は折れ、食らったパンチの傷が開いたのがわかった。
衛山「...クソ...あとは花摘の野郎だけ...」
背中が熱くなった。視界が閉じた。
花摘「白波瀬も衛山も...ほんと使えない野郎共ね」
そうつぶやき、花摘は白波瀬の方にも行った。
白波瀬「ぐぁ...よくやった...助けろ...!」
花摘「...はぁーい、今行くよー...なんて言うと思った?あんたも使えない...どいつもこいつも!死ねばいいのよ!」
2人はは動かなくなった。
寒空がどこまでも続いていた。学生服のまま、ただ立ち尽くしていた。そしてそこには、見覚えのある人が一人。
衛山「...雪?」
それは衛山の元カノである、三好 雪 その人だった。
三好「来てくれたのねぇ!あの時別れるなんて言われた時には死にたくなったけど、今度はあんたの方から来てくれるなんて!」
衛山「は?俺は死んでなんかねぇぞ?そもそも...あぁ、そういう事か、花摘の野郎」
あいつの持っていた花の剪定用鋏で刺されて殺されたのだろう。
三好「あれ、自殺じゃないの?逢いに来てくれたんだと思ったのに、残念ねぇ...生きてたら花摘って子、絶対殺してやってただろうね、命拾いしたねぇ」
衛山「俺は落としたけどな、お前もだが」
三好「やっぱり会ってなおカッコイイ...死後の世界ではずっと一緒になれるねぇ!ほら、こっちきなよ、一緒に楽しいことしよ?ね?」
衛山「悪いが断る」
この死後の世界では冬空で寒そうだが、彼女はどことなく熱いものを纏っていた。
三好「なんで?ダメなの?やっぱり別の子に浮気してたの!?私だけを愛してよ!?ほかのブス共なんかにソラ君は渡さないんだから!」
そうだ、この重すぎる愛に俺は別れたんだ。最初は普通のやつだったのに、付き合うにつれどんどんおかしくなってしまった...その重さゆえにあいつは首吊りをしたんだったっけ?
三好「ほら!早く!楽しいよ!疲れたでしょう?癒してあげる!」
そう言う彼女の眼は光がなかった。不気味に笑っていた。
三好「...どうしたの?あ、ごめんね、きっと生きている間に辛いことがあったんだね。大丈夫だよ、もう、誰もソラ君を傷つけたりしないから」
ふざけんなよ?お前が一番のクソ野郎だよ...。
三好「ねぇ、あの日、私が首を釣った日から、ずっとソラ君のことを愛してきたの!答えてよ!」どうなの?ソラ君はどうするの?」
衛山「あの日、お前が自殺した日から、ずっと...」
三好「ずっと...?」
彼女は恍惚とした表情でこちらを見つめる。
衛山「お前のことなんか忘れちまってたよ、こっちは楽しかったぞ?新しい好きな人もできたんだ。幸せだったよ...お前はなんだか...不幸そうだ」
三好「は?は!?冗談よね!?そんなはずないよね!?ソラ君は私の愛情を踏みにじるようなやつじゃないよね!?」
衛山「ああ悪い、踏みすぎてもうペーストの姿すら保ってねぇな。靴裏に残った分すら生きてる間にその辺のアスファルトに擦り付けてきたよ」
三好「あんたなんか死ななきゃよかったね、ほんと」
そう吐き捨てた彼女の元に、炎が着いた。
三好「え!?なにこれ!?熱い!熱いよぉ!助けて!」
三好が消えた。
空から雪雲が消え、木が芽生え、あっという間に一面の桜ができた。霽れが訪れ、ユマ達の声が聞こえる。やっと終わった。俺は倒れ込んだ。
あれから数ヶ月。
白波瀬はいじめの実行犯ということでまず退学。花摘は持っているハサミに血が着いていることを発見され、喧嘩の一環でたまたま当たったということで話が通り3ヶ月の停学処分。いじめの件はバレなかったらしい。
そして衛山はいじめの実行犯ではあるものの自身の意思で悪行を正そうとしたということで4ヶ月の停学処分となった。この件でこの学校は甘すぎるんじゃないかとも思ったが、衛山が退学にならなかったから問題なしということにした。
そして1年と4ヶ月後...私達は無事3年生となり、10月の文化祭に興じることとなった。
花摘「にしてもほんと不思議な話よね...まさか衛山も片山も同じクラスなんて」
衛山「ほんとだな、奇妙な縁だよ。いじめられっ子といじめっ子2人、しかも1人は殺人未遂ときた」
片山「出回ると面倒な話なんだからやめてよね...まぁ私は大した影響ないんだけどね」
衛山「おいおいそりゃあないぜ」
花摘「結構薄情なのね」
なんて話をしているうちに、行間休憩が終わりホームルームが始まった。
先生「今日は待ちに待った文化祭だ!1、2年の時は色々あって出来なかったが、その分予算が3倍あるらしいぞ!」
衛山「マジかよ!」
先生「ああ、大マジだ!そしてこれはあんまり大きい声では言えないが...3年生が2/3の予算を取れるらしい...!3年で使える総額はなんと400万だそうだ」
女子生徒A「1クラス80万円...!なんでもできちゃいますよこれぇ!」
花摘「面白くなってきたわね!」
男子生徒A「俺飲食店やりたい!」
男子生徒B「ここでオタ芸という凶行に出るのも面白いだろうなぁ...」
女子生徒B「オタ芸は無理でしょ...30余りの人数でどうやんの?あと飲食店は単純に忙しそうでなんかねぇ...」
男子生徒A「はぁ!?夢くらい見させてくれよ!お前は何がやりたいんだ!?」
女子生徒C「はは、私は色んな案があって面白いと思うよ〜?もちろんA君みたいな飲食店もいいと思う!...まぁオタ芸はちょっと受け付けないけど...ごめんねB君!」
男子生徒B「いや、いいんだよ。半ば冗談だしね」
楽しそうな会話が繰り広げられるなか、先生が口を開く。
先生「はーい静かにー!案は手を挙げて出してくれ!書記係頼んだぞー」
書記「うーい」
先生「よし、案があるやつ挙手!」
男子生徒A「はい俺...」
書記「さっきまでの意見は全部書いてるよ、他!」
女子生徒C「私演劇やりたいです!」
女子生徒B「あー、演劇いいな」
男子生徒B「なぁ、片山はなんか案あるか?」
片山「うーん...バンドとか?」
その発言の直後、教室が凍りついた。だが開口一番は...
男子生徒A「確かに面白そうだが...懲りねぇな。前そういう感じの無難で難しい案あげて爆死してたのに...」
片山「あら?そんなこと言ったらあなたもそうでしょう?3年前に校長が飲食店はダメって言ってたそうじゃない。懲りないのはどっちかしらぁ〜?」
衛山「まぁ、当てはあるしいいかもな」
先生「当て...というと?」
衛山「これに関しては片山が1番解ってると思う」
片山「実は、最近交差点で路上シンガーやってる同年代の子がいるんです。その子を助っ人として呼び出すんです」
先生「路上シンガー...?ああ、ユマちゃんのことか」
男子生徒B「え、ユマさん動いてくれそうになくない?そもそも上からの了承とか...」
衛山「動くか否かは問題ないだろうな、俺らが頼めば来てくれるだろ」
片山「そうね、ギターとボーカルを任せれば良さそうね」
先生「ユーちゃんて...そんな仲いいのか?」
片山「2年生なってすぐ位からの仲ですから」
一同「お〜!」
男子生徒B「とはいえ解決してない問題もるよな...」
女子生徒A「確かに、練習期間が短すぎるわ」
花摘「あら、弱気ね。高校三年生の本気見せてやろうじゃない」
花摘は説得力はない発言でも人がついて行く。カリスマというやつなのだろう。
先生「スマン...みんな...私情だがこれがいい...俺のわがまま、聞いてくれるか...?」
先生もまた大きく慕われている。反対する人達を巻き込んで面白くするから、本当にすごい人だ。そんな先生が言うなら、とみんな納得した。
先生「その恩返しということで、上は丸めてくるぞ!期待しとけ!最高の文化祭にしよう!」
一同「おおー!」
男子生徒A「そうと決まればやるぞ!放課後は片山と一緒に行こうぜ!」
女子生徒B「よしゃ!みんなやるぞぉぉ!」
片山「それじゃあ色々決めちゃおうか!」
話はトントン拍子に進んだ。
バンド名「青心」
第1舞台演者
Vo.白金 優:しろがねゆう(男子生徒A)/花摘 百花:はなつみももか
Gt.藤原 快斗:ふじわらかいと
Ba.高木 優華:たかぎゆうか(女子生徒B)
Dr.牧中 春樹:まきなか はるき
Key.眞鍋 心:まなべ こころ
演奏曲
・青と夏 ・宿命 ・アメイセンソウ
・こんな命がなければ ・有頂天ドリーマーズ
第2舞台演者
Vo.柳原 琉生:やなぎはらるい/平口 咲良:ひらぐちさくら(女子生徒A)
Gt.衛山 ソラ:えやまそら
Ba.加川 真奈:かがわまな
Dr.下山 啓太:しもやまけいた(男子生徒B)
Key.足利 景子:あしかがけいこ
・偶像 ・打上花火・ 灰色と青
・悪魔の子 ・真昼の月明かり
最終舞台演者
Vo.ユマ/片山詩乃:かたやましの
Gt.小林 未央:こばやしみお(女子生徒C)
Ba.田中 陽向:たなかひゅうが
Dr.畠田 明:はただあきら
Key.田中 純:たなかじゅん
・誰かの心臓になれたなら ・ハイドアンドシーク
・ラズライト ・夜に藍 ・生きるよすが
さぁ、幕が上がる。
第1舞台、第2舞台は無事終了。私はユマの手を握る。
片山「ユマ、ありがとね」
ユマ「それはこっちのセリフ。ほら、行くよ...皆さん、ラストステージ盛り上がっていきましょう!...それでは、ユマより、誰かの心臓になれたなら」
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1曲終了。反応は上々。それから数曲歌い、
片山「ユマより、夜に藍」
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さらに歌って4曲が終了。そして次で最後だ。
ユマ「ついに最後となりました。さあ、最後の曲,..ユマより、生きるよすが」
...会場は大盛況。出し物としての動員数は今年最大のものとなった。
あれからさらに時が経ち、冬休みに入った。受験勉強の傍らでユマの家に行くことになり、衛山とバスに乗ってユマの家のある里へ向かう。
ユマ「おはよ、長旅ご苦労様」
片山「うん、おはよう」
衛山「よぉ」
一旦バスから降り、そこからはユマの案内で徒歩となった。
道中、ユマは色んな話をした。自分の生い立ちの話、近所のおじさんの話、そして最近思うことについて。
ユマ「...あとはこの踏切を越えて道の突き当たりにあるのが私の家だよ」
急にユマが寂しそうな声を出した。
衛山「...どうかしたか?」
それに衛山も気づいたらしく、ユマに問いかける。
ユマ「ここから先は二人で行って。私は後を追うから」
片山「...なんで?さっきまでユマが先導してたのに」
ユマ「ただの気分よ」
衛山「...そうか、じゃあ先いくわ」
そう言って衛山が先を行こうとしたその時、踏切の音がなった。遮断管が降りてくる。ユマはレールの上から動こうとしない。
片山「え...?何やってるの...?」
私は驚きで体が動かなかった。そして電車が視界に入るころ、漸く体が動いた。...だが遅かった。掴んだ手を引き剥がすような方向へ電車は走り抜けた。彼女は別れ際、私に細々と言った。
『ありがとう。衛山と一緒に私の家へ行って』と。私はその場に立ち尽くし、呆然とし、震えた。そして嗚咽を吐き出した。衛山にも聞こえたらしく、衛山もまた泣きながら私に語りかけた。
衛山「...あいつの...遺言は何だった」
片山「あんたと家に行けって...言って...」
衛山「そうか...行こう、あそこに。きっと何かあるはずだ」
片山「...うん」
そうして私達は彼女の家へ向かった。
そこにあったのは、ボロ屋とひとつの封筒だった。そこに刻まれていたのは「遺書」の2文字。
『私はあの出会った日以来、ずっと充実してて最高の生活を送れていました。でももう何も残っていないんです。親も金も何もかも。だから...こうするしかなかった。それに、後悔はしてない。私には十分すぎる幸せだったと思う。だから、私のことは忘れて、今度は皆が幸せになってくれればいい。さよならこそが人生だから。いつか別れることになった筈。早いか遅いかの差しかない。そうでしょう?』
身勝手だった。それでも彼女は頑張りすぎたんだ、そう思った。自分のことを詳しく語らないことからも、他人のことを考えながら自分の生活もやっていたと分かった。
片山「...だからこそ、許せないのよ」
そう呟くと、私は彼女に最大の反抗をすることを心に決めた。
――――――――――――――――――――
これは...走馬灯か。ユマ、そっちへ行くよ。
片山「綺麗」
いつもはなんとも思わなかったホームタウンの夜景が、今日だけは美しく見えてしまった。一粒垂れた涙を風が上へ飛ばし、赤黒いアスファルトの一部となった。
――――――――――――――――――――
10年後
あれから、何年経ったろうか。ふと思い出してしまった。
確か...ユマが死んだ後、片山はユマの曲全てを自信で歌って世に出し、それからあいつも逝ってしまったんだったけか...
そういえば、小説家なんて自分には縁のない職だと思っていたものになったのも、気を紛らわす為だった気がする。ずっと思い出せなかった。
衛山「なんで今日なんだよ」
そう呟いた。大元が嫌われていたせいで学校では生きた心地がしなかった...片山の存在がどれだけ大きかったか。あいつは凄いやつだったんだと、今頃思ってしまう。もう遅いんだけどな。
小説家になってある程度売れたが、未だに心が籠らない。自分の本心や感情が文章に現れることがない。春夏秋冬の四季を描いても、どうしてもそこに自分らしさ、言わば衛山ソラの澱が溜らないのだ。もう誰だっていい。俺に心を込めてくれと願った。
失ったものをもう一度与えてくれる人が欲しい、と。
衛山「...合コンでも行くか」
――――――――――――――――――
大敗北だ。こんな目にあうなんて...一生合コン行きたくねぇ...まぁ、生涯独身でもいいか。俺には...ユマ以外いないだろうからな。
そうだ、今執筆中の小説の告白シーンは自分のやりたかった台本どおりにやろう。
俺は立ち上がって、1人芝居を始める。
衛山「ずっと好きでした。僕には貴女以外ありません...。付き合ってください」
今思えばあまりにも不器用な言葉だが、それでも真っ直ぐ思いを伝えるには十分だ。
衛山「ありがとう片山、ありがとうユマ。もう大丈夫だ。だから...その、もう扉から覗くのはやめてくれ。恥ずかしい」
初めから気づいてはいた。きっと死んでなお俺の元にいてくれたのだろう。静寂の部屋に消え入りそうな声が響き、ぼんやりと像を成す2人の霊は飛び去った。




