変わる日常
「つまんねぇ人生だな。」
そんな事を、訳もなくつぶやきながら、高校生…涼園黒加は、今日も高校の門をくぐる。
別に大した意味があったわけではない。
ただの口癖のようなものだ。
いつものように席につき、いつものように授業を受ける。
そんな変わらない1日をすごそうとしていた。
だが、今日は違う。
(今日が体験日だっけ)
今日は、日本と中国の企業が共同で開発したVRMMOの試験版の体験日だ。
なんとなく応募して当たっただけだが、行かないと当たらなかった人に申し訳ないだろう。
そんなことを考えながら、フラフラと集合場所に到着する。
集合場所から目的地まではバスで向かうらしい。
1時間程すると、山の麓に到着した。
すると、同乗していた企業の役員が話し始める。
「皆様もご存知の通り、これから2週間、試験版を体験していただきます。」
この言葉とともに、バスのドアが開く。
そして役員の女は、満面の笑みとともに告げる。
「ごゆっくり。」
バスから降りてあたりを見回すと、周りはただの山だった。
その後、軽い説明を受けて、体験に入る。
重々しい機械の前に立ち、そこに寝そべる。
起動はむこうがやってくれるそうだ。
ヘルメット型の機械を被り、その時を待つ。
すると少しして、荒々しい駆動音が鳴り響く。
動悸が少しだけ早くなるのを感じた。
やがて体に力が入らなくなり、不思議と目が閉じる。
すると最後に、スピーカーから妙な言葉が聞こえてきた。
「退屈な人生から解放されたまえ。」
その言葉を聞き終える前に意識が暗闇に沈んだ。
目が覚めると、そこには草原が広がっていた。
小さな川が近くにあるが、ほとんど草しか生えていない。
運営から何もアクションが無いので、適当にブラブラ歩いてみた。
草の感じもほぼリアルと変わらない。
文句を言うとすれば、夕日が沈みかけていて、少し暗いぐらいだ。
(まあ、概ねいいと思うけどな)
そんなネット民みたいなことを思っていると、とうとう日が沈んだ。
日が沈んですぐのはずなのに、空では星がキラキラと輝いていた。
その夜は新月なのか、月がなく、ただ星だけが出ていた。
そんな中、運営からメールが届く。
「やっとかよ」
一人なのをいいことに、そんなことを言いながらメールを開ける。
差出人:運営
皆様いかがお過ごしでしょうか。
気に入って貰えたのなら幸いです。
さて、重要なお知らせなのですが、皆様にはゲームクリアを目指していただきます。
いきなりで申し訳ないのですが、この世界の魔王を倒していただかないと、ログアウトできません。
また、皆様にはそれぞれランダムに、職業とユニークスキルが振られているのでご確認ください。
また、この世界では現実とは時間の流れが違います。
現実の1日が、この世界では1年に当たります。
それに伴い、脳の限界がこの世界の14年、つまり現実世界での2週間になります。
そのため、期限はそれまでとなり、過ぎれば現実で死んでしまいます。
また、この世界では現実とほぼ同じ程度の痛みが発生しますので、この世界で死ぬと、現実でもショック死してしまいます。
では、健闘を祈ります。
「・・・・」
あまりに唐突な文に言葉も出なかった。
ゲームをクリアしなければ、現実でも死んでしまうという恐ろしいことに巻き込まれたことに、未だ実感が持てない。
「とりあえずメニューでも開くか」
どうせ何もできないので、とりあえず職業とスキルを確認する。
開くとプレイヤーネームを入力するようになっていたので、手を止める。
「こういうのが1番面倒くさいんだよ!」
何を隠そう、名前を考えるのが一番苦手だった。
昔飼っていたハムスターの名前すら決められず、3日かかって決めた「マル」という名前を親に言うと、何故かもう名前が決まっていたりして喧嘩になったこともあった。
「どうするかな…。」
ここを突破しなければ、何も始まらない。
とりあえずだけでも考えなければならない。
「本名をベースに、涼黒でいくか…。いやでも本名バレそうだし、漢字をかえたりしたほうが…。」
そしてたどりつく。
「よし。珠洲クロでいくか。」
こうして難関を突破することに成功した。
そしてメニューを開く。
プレイヤーネーム 珠洲クロ
レベル 1
職業 魔王
固有スキル 眷属化
ユニークスキル スキルテイカー
「・・・?」