⑦
「お嬢様、起きてください。お嬢様」
「ん-うー」
ロイドが私を、呼んでいる。
毎朝必ず決まった時間に起動する、ロイドに搭載された目覚まし機能だ。
「お嬢様お嬢様お嬢様……」
「うーる~、さ……いっ」
名前連呼モードへと移行し始めたロイドを支えにしながら立ち上がり、そのまま寄りかかるようにしながら耳の後ろにあるボタンを押す。
「……」
「おはよ、ロイド」
ボタンが押されたことで、一転してしんと静かになったロイド。
その頬をぺんと叩きながら、私は大きく一欠伸する。
(うぇ、髪べたべた……)
昨日、シャワーも浴びずにそのまま寝てしまったせいだろう。
元々あまり頓着のない髪だが、いつにも増してとんでもないことになっている。
(まずはシャワーを浴びて、それから……)
そんなことを考えながら、いつものように上着に手を掛け廊下へと出た私の耳に、
「……起きたか」
あまり聞きなれない、しかし聞いたことのある声が聞こえてきた。
「はい、おはようござい……」
いつもの、それこそお父様と話をするような感じで挨拶を返そうとしたとき。
私の頭にふと、自分の今の姿がよぎった。
「あの、侯爵様。シャワールームはどちらにありますか」
「ああ、シャワールームなら一階の突き当り……」
「ありがとうございますっ」
道順を聞くが早いか、私はすぐに走り出す。
こんなこと今まで気になったことなんてなかったのに。
やっぱり私、変になっている。
「わひっ……」
当たり前というかなんというか、屋敷のシャワールームは動力源に魔力を使っているもので。
私の微弱な魔力では、冷たい水がちょろちょろと力なく流れるだけだったが。
今の私にはこのくらいが丁度いい。
まずはしっかりと髪を洗い、それから全身の汗も洗い流す。
(……自分のニオイって、自分じゃよくわからないな)
ヴィントから言われたことを思い出して自分で確認してみるも、やはりいまいちよく分からない)
(ううん、らしくない。らしくないぞ私)
ぐちゃぐちゃの思考をなんとかまとめるように、髪を一本に束ねて私はシャワールームを出る。
「お嬢様、替えの服はこちらに」
勢いのまま部屋を出てしまったので着替えをどうしようか、なんてことも思っていたが。
どうやら杞憂だったようだ。
「助かったわ、ロイド」
受け取った技師服に身を包み、ツールベルトを巻き直すころにはすっかり思考は落ち着いて。
ゴーグルを首に下げなおした時にはいつも通りに戻っていた。
「ロイド、ほんとにありがとね」
「お安い御用です」
なんて軽いやり取りを交わしながら、私たちは侯爵様の元へと戻る。
昨日、別れ際に侯爵様から執務室と私室の場所を教えられていた。
後者は立ち寄らないようにという注意で、前者は探しているときに基本その部屋にいるということなのだろう。




