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「何も知らない私が言うのは、無責任なことかもしれませんが」


 そんなジン様の瞳から目を逸らさないようにしながら、私は一つ一つ言葉を探す。


「少なくとも今のジン様は、悪い人じゃないと思います」


 それでも上手く言葉は繋がらなくて、当たり前で月並みの言葉しか伝えられなかった。


「……そうか、ありがとう」


 私の言葉への返答として、寂しそうな顔でジン様がほほ笑む。

 あまりにも儚いその笑みに、そのままどこかへ消えてしまいそうな不安感が襲ってきて。

 今度は顔をうずめるような勢いで、ジン様の懐へと飛び込んだ。


「技術の進歩には必ず影がありますから、きっと誰が悪いとかじゃないと……そう、思うんです」


 まとまりもないし、何の慰めにもなっていない言葉しか出てこないが。

 ジン様がどこにも行ってしまわぬよう繋ぎとめるため、私は必死にしがみつく。


「……本当に、ありがとう」


 不意に、ジン様の左手に抱きしめ返されて。


「……私はもう、過去から逃げない」


 それからしばらく私たちは、他に誰もいないバルコニーで二人の時間を過ごしたのだった。



「おおジンよ、探したぞ」


 大広間へ戻るころには陛下のお話も終わり、会もそろそろお開きかというムードになっていて。

 さっきと同じ場所で佇んでいた私たちの元へ、再び陛下が現れた。


「先ほど言いかけていた話、なんだったのだ?」


「ええ、そのことですが……」


 ジン様の視線がこちらへ向いて、それに合わせて陛下の視線もこちらへと向く。


「改めてご紹介します。妻のステラです」


 短い紹介文の中に、あまりにも大きなツッコミどころが凝縮されていて。

 陛下の前だというのに、私は唖然として固まってしまった。


「ほう、もしやとは思っていたが……本当にそうだったのか」


「陛下には直接、お伝えしたかったので」


「そうかそうか、いやーめでたいのう」


 和気あいあいと談笑されているところ恐縮ですが。

 私の頭はいっぱいいっぱいです。


「あの、ジン様? 妻って、その、一体全体……」


「……思ったより、驚いているな」


 ジン様の反応を見るに、私が驚いていることを意外に思われているようだ。

 私からするとまったく真逆の印象なのだけれども。


「私はただの、専属技師だったはずでは……」


「……同義として使っていたのだが、その言葉」


 なるほど、合点がいった。

 確かに私も専属技師を名乗っていたのだから、分かっていると思われて当然だ。


「ちなみに、お父様はこのことを?」


「最初の時点で承諾済みだが」


「そうでしたか……」


「嫌、だったか……?」


 ジン様が本気で心配している。

 嫌なはずなどあるわけがないのに。

 どうやらこういう気持ちを量るのは、あまり得意でないようだ。

 

「……」


 私は大きく伸びをすると、足りない分は首の後ろへ手を回すことで無理やり補って。

 ジン様の頬へ軽く、口づけてから。


「……不束者ですが、宜しくお願いいたします」


 そう言ってペコリ、と頭を下げた。

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