⑳
「何も知らない私が言うのは、無責任なことかもしれませんが」
そんなジン様の瞳から目を逸らさないようにしながら、私は一つ一つ言葉を探す。
「少なくとも今のジン様は、悪い人じゃないと思います」
それでも上手く言葉は繋がらなくて、当たり前で月並みの言葉しか伝えられなかった。
「……そうか、ありがとう」
私の言葉への返答として、寂しそうな顔でジン様がほほ笑む。
あまりにも儚いその笑みに、そのままどこかへ消えてしまいそうな不安感が襲ってきて。
今度は顔をうずめるような勢いで、ジン様の懐へと飛び込んだ。
「技術の進歩には必ず影がありますから、きっと誰が悪いとかじゃないと……そう、思うんです」
まとまりもないし、何の慰めにもなっていない言葉しか出てこないが。
ジン様がどこにも行ってしまわぬよう繋ぎとめるため、私は必死にしがみつく。
「……本当に、ありがとう」
不意に、ジン様の左手に抱きしめ返されて。
「……私はもう、過去から逃げない」
それからしばらく私たちは、他に誰もいないバルコニーで二人の時間を過ごしたのだった。
「おおジンよ、探したぞ」
大広間へ戻るころには陛下のお話も終わり、会もそろそろお開きかというムードになっていて。
さっきと同じ場所で佇んでいた私たちの元へ、再び陛下が現れた。
「先ほど言いかけていた話、なんだったのだ?」
「ええ、そのことですが……」
ジン様の視線がこちらへ向いて、それに合わせて陛下の視線もこちらへと向く。
「改めてご紹介します。妻のステラです」
短い紹介文の中に、あまりにも大きなツッコミどころが凝縮されていて。
陛下の前だというのに、私は唖然として固まってしまった。
「ほう、もしやとは思っていたが……本当にそうだったのか」
「陛下には直接、お伝えしたかったので」
「そうかそうか、いやーめでたいのう」
和気あいあいと談笑されているところ恐縮ですが。
私の頭はいっぱいいっぱいです。
「あの、ジン様? 妻って、その、一体全体……」
「……思ったより、驚いているな」
ジン様の反応を見るに、私が驚いていることを意外に思われているようだ。
私からするとまったく真逆の印象なのだけれども。
「私はただの、専属技師だったはずでは……」
「……同義として使っていたのだが、その言葉」
なるほど、合点がいった。
確かに私も専属技師を名乗っていたのだから、分かっていると思われて当然だ。
「ちなみに、お父様はこのことを?」
「最初の時点で承諾済みだが」
「そうでしたか……」
「嫌、だったか……?」
ジン様が本気で心配している。
嫌なはずなどあるわけがないのに。
どうやらこういう気持ちを量るのは、あまり得意でないようだ。
「……」
私は大きく伸びをすると、足りない分は首の後ろへ手を回すことで無理やり補って。
ジン様の頬へ軽く、口づけてから。
「……不束者ですが、宜しくお願いいたします」
そう言ってペコリ、と頭を下げた。




