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「あのあとキミが出て行ってから、家の中はメチャクチャになってしまった」


 そんな切り出しで始まったヴィントの話は、概ね私が予想していた通りの内容で。

 案の定、最後の整備をしなかったせいですぐに設備や機械メイドたちが整備不良を起こしてしまったらしい。

 そのことをやたらと新しく雇った技師のせいにしていたが、原因は確実にその人にはない。

 他人の作った独自規格を整備しろというのが無茶ぶりにもほどがあるし、機械メイドがきちんと働かないのは制御していたロイドがいなくなったのだから当たり前のことだ。


「やはりキミの腕は本物だ。婚約破棄も取り消すから、戻ってきてくれ」


 同じように腕を褒められていても、ジン様の時とは感情の動かされ方が雲泥の差で。

 比べることすら無意味なほどだ。

 しかし、昔の私ならこんな言われ方でも同情やよしみで戻っていたかもしれない。

 

「ご自慢されていた魔力で、どうにかしたらいかがでしょうか」


 だが今の私にそのような気持ちが湧くことは一切なかった。


「な……こちらが下手に出ていれば生意気な!」


 よほど今の言葉が気に障ったのか、困っていることなど忘れてヴィントが怒り出す。

 実際のところ、ヴィントの家系もそこまで魔力が強い家系なわけではない。

 そのために魔力をあまり必要としない設備も多数用意したのだが、そのせいで魔法で何でもできると錯覚させてしまったのかもしれない。

 一度便利な暮らしを味わうと元の暮らしに戻るのは難しいと聞くが、まさに今のヴィントはそんな感じなのだろう。


「伯爵家の一員になるのは、キミにとっても悪い話じゃなかっただろう」


 自分で追い出しておきながら、こんなことを言えるのがヴィントという人で。

 悪気があるわけではないのだろうが、それがなおさらタチが悪い。


「私はもう二度と、あの家には帰りません」


「ぐ……」


 ヴィントが少し、目の色を変える。

 自分の思い通りにならないときの、癇癪を起す直前の色だ。

 こうなると面倒なので穏便に済ませたかったのだが、今回ばかりは譲れない。


「お父様に呼び戻すよう言われてるんだ、素直に戻って来いよ!」


 ついに怒り出したヴィントが、こちらへ詰め寄ってきた。

 まさかいつも二つ返事しかしてこなかった私が、ここまで拒否してくるとは思っていなかったのだろう。

 

「……」


「大丈夫だよ、ロイド」


 ヴィントの動きを見て何か行動を起こそうとしていたロイドを、私は手を伸ばして制する。

 こうなってしまった責任は、ヴィントとあえて関わらないようにしてきた私にもないわけではない。


「なんだ、その目は……」


 そんな私の態度すらも気に入らなかったのだろう、ヴィントが腕をわなわなと振るさせてから振り上げる。


(ロイドじゃなくて私なら、問題ない)


 ゆっくりと流れていく視界の中で、何か大きな影が素早く揺れて。


「……キミはなかなかに、トラブル体質なのかもしれないな」


 私へ振り下ろされた拳が、半ばで無理やり押しとどめられていた。

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