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「嘆かわしいことだ。長きにわたる戦いを終結へ導いたお前があんな風に言われるとは」
「……お言葉はありがたいですが、私はただの人殺しですよ」
「ジン……」
陛下がジン様へ呼びかける声は、とても優しい。
「……私は死にぞこないです。本来はこんな場所にいるべきでもないでしょう」
「だが……お前は来てくれた。そのことがワシはとても嬉しいぞ」
「そのことについて、なのですが」
「国王陛下、女王陛下が準備を済まされたようです」
「おお、そうか……すまんな、ジン。話は後だ」
「……はい、陛下」
何かを言いかけたジン様を置いて、国王陛下が去っていく。
そのあとにエント様も続いて、広い大広間の隅で私とジン様は二人と一体きりになった。
「……疲れただろう。少し風にでも当たってくるといい」
私の頭をぽんぽんと叩きながらジン様はそう言ったが、それは私を気遣ってくれているようにもジン様自身が一人になりたいようにも聞こえて。
「ありがとう、ございます」
小さく頭を下げてから、私はバルコニーの方へと向かった。
陛下の話を聞くために人は出払っており、バルコニーには涼しい風だけが吹き抜けていて。
私は手すりに身を預けると、小さく息を吐いた。
(戦い、か……)
私が生まれる前の話ではあるが、最近までこの国が隣国と長きに渡る争いを繰り広げていた、と授業で習った。
今でこそ産業を主な活躍の場としている機械と魔法も、その頃は軍事的な理由で使われることが少なくなかったことも知っている。
「……ああ、もうっ」
風になびく邪魔な髪をむんずと掴み、せっかく整えてくれた仕立屋たちには悪いがそのまま荒々しく束ねてから結ぶ。
やはりこうでないと、落ち着かない。
「……ねぇ、ロイド。こういう時はなんて言ってあげるのがいいのかな」
ジン様はきっと、自分が戦いに参加していたことを隠していたかったのだ。
ならばこんな形で知られることも、望んでなどいなかったはず。
「分かりません」
簡潔な言葉を返すロイドと目が合った。
あえて人の目を模さずに作られた瞳。
その無機質な瞳の先で、私が不安そうな瞳で見つめ返してくる。
「ステラ……?」
ふいに、聞き覚えのある声がした気がして。
私はゆっくりと振り返る。
「ヴィント……」
見知っていた頃と比べて少しやつれたように見える元婚約者は私からの返答を確認すると、
「やっぱり、ステラだったのか……探したよ」
そう言いながら近づいてきた。
自分から婚約を破棄しておきながら、今度は探していたとは。
原因に大体検討は付くが、とりあえず黙っておく。




