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「……すまない、一人にして。大丈夫だったか」
「はい、大丈夫です」
「……ロイドも、無事か」
「問題ありません」
確かに私とロイドには、これといって特に何も起きてはいないのだが。
「なんだ、何の騒ぎだ?」
「ケンカか?」
騒ぎを聞きつけてざわざわと人が集まり、私たちを取り囲む事態になってしまっていた。
「すいません、ジン様。軽率な行動を……」
「……キミは何も悪くない。気にするな」
言いながらジン様がぐっと、私の肩を抱き寄せる。
魔導義手のほんのりとした冷たさが、私の心を落ち着かせてくれて。
「なんだなんだ、ワシ以外にも主役がおるのか?」
野次馬の喧騒の中でもはっきりと届いた、大声ではないのに一際通る声。
「国王陛下っ!」
誰かが発したその一言で、声の聞こえた方向の人だかりがざっと引いた。
「おや、邪魔をしてしまったかな」
遠目で何度か拝見したことのある国王陛下は、とても荘厳で威圧感のある方に思えたが。
今、目の前にいる国王陛下は気のいいおじいちゃんといった感じで。
もしかしたらこちらの姿が素なのかもしれない。
「申し訳ありません、陛下。このような場で騒ぎを」
「よいよい、エント。何か事情があったのであろう」
エントと呼ばれた男性はクラップ家当主と名乗った男の腕を掴んだまま、国王陛下へと会釈を返した。
「何があったか教えてくれるかね、お嬢さん」
全然違うように見える二人なのに、なぜだか陛下とジン様は雰囲気が似ているように感じる。
「ジン様のことを侮辱されたので、反論をしたらこのような騒ぎに……」
嘘をつく必要も隠す必要もないので、とりあえずありのままを全て伝えた。
「なっ……そのような事実はありません、陛下。私はこの技師風情がふざけた態度をとったので制裁を……」
『ああ、そういえばあの男、戦いの中で……』
反論の声を遮るように聞こえてきたのは、これまた全く同じ声。
ところどころノイズの混じった不鮮明な音声だが、誰が話しているかくらいははっきりと分かる。
ロイドの録音音声だ。
『いっその事、あのままくたばればよかったものを……』
その音声を聞いて、周囲を囲む貴族たちがより一層ざわめきだす。
「録音の再生を、終了します」
無機質なロイド本人の声がそう告げると、それを合図にして辺りがしんと静まり返った。
きっとこの後に待つ国王陛下を遮らぬためだろう。
「これはどういうことかな、クラップ伯爵」
「ええと、これは、その……」
「侯爵位を侮辱した上に、それを隠すために余に嘘をつくことが……伯爵ともあろうものが理解しておらんわけではあるまい?」
「そうだ、その機械人形が嘘を……!」
「……ほう?」
「……い、いえ。なんでも、ありません」
「衛兵、連れていけ」
「ハッ」
一連のやり取りを終えると、国王陛下は人だかりの方へと振り返り、
「何やら騒ぎはあったが、皆は気にせず楽しんでくれるとワシも嬉しい」
と締めくくった。
その言葉を聞いた人だかりがゆっくりとその形を変え、次第に元の位置へと帰っていく。
そうして最終的にその場に残ったのは、私とジン様、エント様、それから数人の衛兵を護衛に連れた国王陛下のみとなった。




