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「今日こそ言わせてもらおうと思うが、ステラ」


「はい、なんでしょうか」


「キミとの婚約関係を、無かったことにさせて欲しいんだ」


 いつもと変わらぬ昼下がり。

 日課の『整備』をこなしていた私に、婚約者のヴィントがそんなことを言い出した。

 あまりに突然の申し出に、私は作業の手を止め声がした方へ向き直る。


「随分と唐突な話ですね」


 頬に付いた機械油をぬぐいながら言葉を返すと、ヴィントはそれを見て露骨に嫌そうな顔をした。


「ずっと考えていたんだ。常に油のニオイを漂わせながら、ドレスも纏わず技師服姿でうろつく女性というのはどうなのだろうか、と」


「どうなのだろうか、ですか」


 元々そういった服装が苦手というのはあるが、一応正装の必要な場ではちゃんとドレスを着用していたし。

 普段この格好なのはいつでも作業ができるようにというちゃんとした理由もあるのだが。

 それが気に喰わないというヴィントの意見も、まったく理解ができないわけではない。


「この事を、お父様たちはご承諾されているのですか?」


 しかしそもそもの話、この婚約は両家の当主同士の約束によるものなのだ。

 

「私は先月成人の儀を済ませた。婚約の破棄に父上の承諾は必要ない」


「……左様でございますか」


 制度的には確かに問題なのだろうが、そういうことが言いたかったわけではなくて。

 そんな反論を私は小さく飲み込む。

 男爵家の娘である私が伯爵家の息子であるヴィントに何か言ったところで、意に介することなどないだろう。

 おまけに私もこのまま婚約破棄になったところで何ら問題はないので、口を挟む必要性すらない。


「分かったら今すぐ、荷物をまとめてもらえるだろうか」


「……せめて『整備』だけは最後まで終わらせてからでもいいですか」


 この家の調理用具から暖房器具、機械メイドに至るまですべて私が作った物だ。

 最後になってしまうなら、しばらく調整の必要がないようにしておきたい。

 そう思ったのだが。


「それには及ばん。明日にでも代わりの技師が来ることになっている」


 そんな申し出もぴしゃり、とヴィントに切って捨てられた。


「そうですか」


 ここまで用意周到となると、結構前から私のことを不満に思っていたのだろう。

 見ず知らずの他人に自分の作った機械を触らせるのは癪だが、仕方ない。


「では、ロイドだけは連れていきます。この子は私の命令しか受け付けないので」


「あぁ、そのポンコツか。そいつくらいならいてもいなくても変わらんだろうし、構わんぞ」


「……行くよ、ロイド」


「はい、お嬢様」


 正直、ロイドをポンコツ呼ばわりされたことは心外だったが、


「それに私には魔力もあるからな、お前と違って」


 私はもうこの家と何の関係もないのだ。

 身分差をか投げれば、下手な発言は控えておくに越したことはない。


「それでは、また会うことがございましたら。ごきげんよう」


 ほんの少しだけ言葉に皮肉を混ぜながら、私は足早にその場を後にした。

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