階層ボスに転生したけど成長型S級ダンジョンだったので誰も来ない
チート主人公書いてみようと思ったのですが、びっくりするぐらい何も起きそうにない設定なので短編です。
僕の前世の名前はケンジロウ。
何から言うべきだろう、とりあえず足元に魔方陣みたいなのが出て光ったと思ったらもう僕じゃなくなってた。石を積んだ壁の部屋に、たったひとりで立っていたんだ。
神様も誰も出てこなかったけど、多分僕は生まれ変わったんだと思う。
せめて何か情報が欲しいと思って破れかぶれに「ステータス・オープン!」って叫んだら、目の前にこんな文字が出てきた。
名前:no name
種族:半魔
体力:1500
魔力:3000
使用技:鑑定 ファイアボール サンダーボール アイスランス
説明:ロウサンダンジョン(全50階)の25階に出現するモンスター。魔術を得意とする。このモンスターを倒さなければ26階に行くことは出来ない。
……ほうほう?
つまり僕はダンジョンモンスターに生まれ変わってしまって、しかも階層ボスで冒険者に必ず倒されなきゃならない位置にいる、と。
「―――やだわぁ……」
どのくらいの頻度で冒険者が来るのか知らないが、痛いのは嫌だ。
僕は早々に憂鬱になった。
転生して一か月が過ぎた。
……冒険者、来ないよ?
どういうことなのだろうか。てっきり何度も冒険者に倒され続け神を恨む人生(魔生?)になると思ってたんだけど。
最初はビクビクしてたんだけど、一週間で暇になってしまい散歩とか始めてしまった。僕は階層ボス扱いなので他の階には行けないが、25階をウロウロすることは出来た。
ちなみにダンジョンモンスターは食事しなくても生きていけるシステムらしい。別の部屋に居たインキュバスくんからの情報だ。
こんなに人が来ない場所で食事必要だったら命に関わってたわー、と笑っていた。人の精力を糧にするインキュバスとかサキュバスには確かに死活問題だよな。
暇すぎて探索しまくった結果、どうも25階はヒト型モンスターの階だというのがわかった。
先ほどのインキュバスの他、吸血鬼や巨人、夢魔なんかもいた。……巨人とボス交換してくれないかな。巨人のほうが強そうじゃないか?
ちゃんと意思の疎通なんかも出来て、せっかくだから鑑定してもいい? と聞いたら快く了承してくれた。良いモンスターたちだ。
そうしてガンガン鑑定しまくってたら、鑑定のレベルが上がったらしい。
なんの気なしに自分のステータスを見たら、いくつか項目が増えていた。
名前:no name
種族:半魔
体力:1800
魔力:4500
持久力:1000
討伐必要レベル:30
使用技:鑑定 ファイアボール サンダーボール アイスランス
説明:ロウサンダンジョン(全50階、成長型)の25階に出現するモンスター。魔術を得意とする。このモンスターを倒さなければ26階に行くことは出来ない。移動する為発見するのが困難。
……持久力はスタミナのことだとして、討伐必要レベルって何だよ。レベル30くらいなら僕のこと倒せますよってこと?
最初に見た時も思ったけど、この鑑定結果って人向けの説明だ。いかにモンスターを倒すかって為の鑑定なんだよ。攻略サイトの説明みたい、と言えばいいだろうか。
よく見たら説明も増えていた。成長型ダンジョン……僕が何もしてないのに体力と魔力数値が増えてるのは、ダンジョンが成長してるからってことでいいのか。
最後の一文は……仕方ないよね暇だったもん。
更に一か月が過ぎた。
――本当に誰も来ないなこのダンジョン。
暇すぎて壁とか床とか、階段とかまで鑑定しまくった。
この階は石造りの屋敷みたいな設定だが、ひとつ前の24階は草原らしい。せめて外っぽいところ散歩したい。でも僕は階層ボスなので行けない。辛い。
隠された宝物なんかも発見しまくった僕の現在のステータスはこちら。
名前:no name
種族:半魔
体力:2500
魔力:8000
持久力:4000
討伐必要レベル:50
使用技:鑑定 ファイアボール サンダーボール アイスランス スパーク ソードオブサンダー 落雷
常時発動技:精神異常耐性
説明:ロウサンダンジョン(全50階、成長型)の25階に出現するモンスター。このモンスターを倒さなければ26階に行くことは出来ない。魔術と剣術を得意とする。移動する為発見するのが困難な上、接近することが難しい。雷耐性は必須。
……一か月で討伐必要レベル20も上がって大丈夫なのかな。一度倒すと次は強くなってるとかはあるけど、僕戦闘未経験だぞ。ここがゲームだったら絶対運営にクレーム入ってるな。
使用技が増えたのは正直すまないと思っている。最初に宝物を発見した時、うっかり開けてしまったのだ。開けた者の持ち物になるとか知らなかったから。それが雷属性の剣だったものだから、一気に雷関連の技が増えた。以降は鑑定だけして開けてないから許してほしい。
三か月過ぎた。
25階はちょっと豪華な洋館の内装になっている。
いやあ、二週間くらい前かな。起きたら周囲の雰囲気が変わっててビックリしたよ。もしかしてダンジョンから出れた? とか期待したけど壁鑑定したら「ロウサンダンジョン25階の壁」って出るから落ち込んだよね。
どうもダンジョンが成長し続け、とうとう内装も変更したみたいだ。僕の部屋(らしい場所)にフカフカのベッドが増えたことはとても嬉しい。
ちなみに僕のステータスはこちら。
名前:no name
種族:半魔
体力:16000
魔力:25000
持久力:20000
討伐必要レベル:150
使用技:鑑定 ファイアボール サンダーボール アイスランス スパーク ソードオブサンダー 落雷
常時発動技:精神異常耐性 自己再生 無痛
説明:ロウサンダンジョン(全50階、成長型)の25階に出現するモンスター。魔術と剣術を得意とし、雷耐性は必須。このモンスターを倒さなければ26階に行くことは出来ないが、ほぼ一撃で倒さない限りあっと言う間に再生するため困難。話し合いをお勧めする。
最後、誰宛て?
この世界の人の平均レベルがいくつなのか知らないが、大変戦いにくいモンスターだよね僕。
技こそ増えてないけど、魔力と持久力が高いせいで威力が上がっている、らしい。夢魔さんが言ってた。
しかも体力16000を一度で削らないとすぐ回復しちゃうらしい。ほんとにゲームとかで居たら嫌な敵だよな。
……うん、最初に来た冒険者は無抵抗で倒されてあげよう。ビギナーズラックってやつだ。痛み無いみたいだし。そうなると確かに話し合い必要だな、「あなたの一番強い技って攻撃力16000ある?」って。
******
「……面白くない」
そっと世界を覗いていた存在は、不満を隠せず呟いた。
異世界人を自分の世界へ転生させ、その逆境を見て楽しむ遊び。
以前からあったその娯楽に、ようやく手を出せる程の力をつけた。
なのに、成長型ダンジョンの真ん中に放り込んだせいで、冒険者と会うことなく――殺されることもなく、ただ日にちが過ぎてしまっている。
ダンジョンの成長が早すぎたのは予想外だった。今ではもうS級なんて呼ばれて人は1階すらまともに探索できない。
「せっかくリスクを負ってまで異世界から連れ出したのに……!」
昨今は世界間移動にも制約が生まれ、娯楽で異世界人を消費することが咎められるようになってきた。
比較的緩い世界からせっかくうまく連れ出してきたのに、これではつまらなすぎる。
「一度瞬間移動で外に出してやろうか……階層ボスが外なんて出たらあっという間に消滅だけどアイツは自己再生あるから見応えあるんじゃないか……? 消滅と再生どっちが強いか見てやろう……」
どうにか「楽しいこと」を考えようとしている【彼】だが、雑用に使っている精霊が恐々と近づいてきた。
「ぬしさま、お客様です」
「はぁ? 客? そんなもん居る訳ないだろ」
「ですが、ぬしさまをご指名されて、すぐそこで待たれてます」
「誰が」
「えっと、【雷と剣の神、タケミカヅチノオノカミ】様です」
【彼】は口を開けて呆け――顔を青くした。
それは、【彼】が攫ってきた異世界人の国の神の名である――。
はるか天界でそんなことが起きているとは知らず、今日も25階層ボスモンスターは暇を持て余している。
*登場人物*
ケンジロウ:
異世界のとある管理者に攫われて強制転生した運の悪かった高校生。読書が好きで率先して図書委員になり毎日入り浸っている、クラスでは不思議君扱い。
おばあちゃん子で「神様は大切にするんだよ。神社行ったらちゃんと名乗るのよ」という教えも忠実に守っている。近所にある神社にはよく参拝していた。
厳密にいうと魂を25階ボスモンスターの悪魔にぶち込まれて変質し、半魔というモンスターになった。早々に精神異常耐性を手に入れていたお陰で発狂せずに済んだ。
【彼】:
ケンジロウを攫ったとある異世界の管理者。管理者としては若い部類。
まだ力が弱い頃に流行った異世界人を使っての遊びに憧れていたが、力をつけた時には異世界人誘拐として立派な犯罪に分類されていた。我慢が出来ずに警戒が緩い(ように見えた)異世界から一人連れ去ってダンジョンに放り込んでみたが希望の展開が起きず不満。
残念ながらすぐにバレて相応の罰を受けることになる。
タケミカヅチノオノカミ:
古事記にも出てくる由緒正しい神様。日本各地に神社がある。
久しぶりに異世界からの誘拐が起き、誰がシメに行く? となった時に「あー、この子よくうちの神社にお参りしてた子だな」ということで担当になった。おばあちゃんの教えが役に立ったというのをケンジロウは知らない。
一応ちゃんと正面から管理者に会いに行ったが、いきなり攻撃されそうになったので遠慮なくぶちのめした。
ロウサンダンジョン:
世界創世の初期から存在するダンジョン。空気中や地脈からガンガン魔力を吸い取って大きくなるので「成長型ダンジョン」に分類される。
ヒト族がこのダンジョンを認識した時にはすでにA級で、やっと5階くらいまで探索した頃にS級になってしまいそれ以上の探索が不可能になった魔境。
ダンジョン自体にも思考が存在しており、管理者の介入により異物が入れられ、25階層ボスが変異したことは察知していたが、「同じダンジョンモンスターとして扱えばいいよね」とおおらかな気持ち。
もしケンジロウが本当に外に放り出されていたら、触手を出すなりスタンピードを起こすなりして助けるつもりはある。周辺の生き物は命拾いしていた。