二話 金と信頼
人類とは科学を発展させ、この地球上を跋扈している。枝を使って火を起こすことから、かつてより人間が様々な思いをさせた月へ飛ぶことまでだ。
科学が人類史上で最も進歩を遂げた瞬間はいつか。戦争だ。第一次世界大戦がいい例である。近代化が進む世界で起きた初めての世界大戦。毒ガスや戦車などの兵器が使われ、改良されていった。
この大学の研究室に来た男は歴史上から消された戦いですらも科学が最も進んだ例であると言った。
人間とは、承認欲求を感じる生物だ。他人に先を越されるのであれば劣等感を抱き、自分が高い成績を残したり上の位に立てば今度は優越感を持つ。そうなれば己より下の位にある他人を見下すこともある。
男はそれを認めていた。男自身の特性をよく理解していた。だからこそ男は言った。
「俺は他人が悲しみに暮れるその瞬間が大好きだ」
この研究所で始めて男とあった研究員は、感動した。
男と話した大学の研究者は、男の目的を承認した。自分と同じ価値観と目的意識を持っていたからだ。彼らにとって一人の少女は目的に必要な人物だった。名は玉蟲愛守香。世界で初めて全蟲人の力の持つ者だ。研究者は冷静に男に尋ねた。
「まずはどうすれば良いのでしょうか? 無理やり連れてくることはできるのでしょうか」
「いえ、難しいでしょう。おそらく彼女の元にはAさんと名乗る女性がついているはずです。その女性の力は凄まじい。おそらく、私ですら彼女には勝てません。もし彼女が剣を取れば、辺りはたちまち雷鳴の鳴り響く戦場と化します。我々の目的として、そうして生蟲の存在が世間に明るみになるのは望ましくありません」
「なるほど」
始めはただの客人と思った人間が、共に話し合うことで、同志になれたのだ。今はただ、共有する目的のために彼の話を聞く。
「実は、蟲人を作るために必要な生蟲がこの町に放たれたんです」
「それは、かなり危険ではないですか?」
「そうですね。生蟲を棲ませた人間が暴走することになれば、生蟲についての隠蔽は難しくなります。武器を使うようになりますからね。ですがそんなことは殆どありませんよ。そいつらは私たちが実験用に作ったものでしてね。若者へを中心に、感染力は高いですが、人間を支配することはほとんどないでしょう。そして私なら蟲人と人区別することができます」
「つまり━━」
男はこれから起こることに胸を躍らせたのか、笑いを抑えきれないように顔を歪めた。
「蟲に取り憑かれ、蟲人となった人間をわざと暴走させます。Aたちが混乱している間に、俺たちの目的を達成させる。新たな情報を入手し、玉蟲愛守香を奪い取る━━━━!」