一話 死 ①
生蟲。それは、どこで、いつ、誰が。生蟲を作ったのか愛守香は知らない。それでも、彼女は剣を“作った”。
生蟲を体に棲ませる蟲人の中でも特殊な、体全てを生蟲によって構成される全蟲人。愛守香が人間であったときから持ち合わせているのはたった一つのものである彼女の意識粒子と結合した生蟲たちが、愛守香の意識と反応する。
すると、瞬く間に手から何かが溢れ出す。下から上へ、固まるように形を成していく。柄、鍔、そして曲がることの無い刀身。そして一つの剣が出来上がった。赤黒く輝く刃。黒薔薇のようだと、愛守香は感じた。それは、自分を捨てた彼らに対する激情を表しているかのようだった。
鏡のように光り、愛守香を映す。漆黒の瞳に髪。白い肌。反射して見える作られたかのような整った顔を見る。
なぜこうなったのか。どうすればこうならなかったのか。自分を見つめ、過去を振り返る。頭の中で繰り返されるその思考は、それ自体が終わることを避けているかのようだ。
だが時は動く。現在は過去となり、未来がやってくる。その巻き戻すことは出来ない流れを愛守香は恨んだ。
自分の運命に絶望し、塞ぎ込んだ。荒んだ精神のまま愚行を繰り返した。
善悪を理解して、親友たちの迷惑を知っていて。
だが、一人の女性がいた。長い白髪で愛守香と背丈は殆ど変わらないのに、頼もしい。誰かに似た何かを彼女はもっていた。
愛守香は剣を構える。自分が剣を振ろうが振らまいが、未来がどうなるかなんてわからない。
それでも自分を助けてくれた。救おうとしてくれた。その恩は計り知れない。自分を家族のように、暖かく接して、自分を守ろうとしてくれてるのだ。
ならば助けたい。彼女がしようとしていること、《人を助ける》、を。彼女と、彼女が助けようとしている人を。
その一心で、剣に、心に火を灯した。