4、相乗効果もほどほどに
支離滅裂な思考・発言に注意してください。
こういう感じの作戦会議みたいな雰囲気がやりたかっただけです。
「それで、話って何の事?面倒事は御免被りたい。」
生徒会室に通された雨は率直に尋ねる。後で聞いた所によると、ここではぐらかすようなら即拒否するつもりだったらしい。
相変わらず変なところだけいい子だよ。
「ああ、本当はすぐにでも頼みたい事があるんだが、こちらとしてはまだ君を信用しきれていない。私個人としては信用したいんだが、今回の案件は上の人間も一枚噛んでいてね、私の一存で推薦は出来ないんだ。
だから、直近で起きている事件の噂について調べて欲しいんだ。」
雨は面倒事っぽいのでやっぱり顔をしかめた。僕はさりげなくその横に並ぶ。
それに気づいた雨は少しだけ目を横に動かして『なんで来たの』と態度で示す。
「僕の役目は君を守る事さ。それに、厄介な事ならば僕も居た方が良いでしょ。」
当たり前のように言う僕に少し目を閉じると、彼女は再び生徒会長の方を向いた。
「話は分かった。噂の詳細をお願い。」
会長は頷くと、数枚かの資料を渡しつつ説明を開始した。
「3年前から平均して約一か月に1人が死亡ししている連続殺人事件。今回の殺害でめでたく40人の節目を迎えたんだ。
今回はそれに関連する噂だ。その犯人が、今この学校の中に居る、という匿名のタレコミがあってな。」
信じたくない話だが、と彼女は少し俯く。ありえない、と建前でも本音でも否定しないのが僕は疑問だった。
雨に目配せで伝えると、頷いて口を開いた。僕の親友はいつもこれだけで意図を理解してくれる優秀な子だ。
「ありえないと断言しないの?あなたなら断言くらいして見せそうだけど。」
「できるわけがないだろう。君には事情を知ってもらう必要があるから一切を包み隠さず話すが、この学校には通常クラスの他にもう一つクラスがあるんだ。
一般には知られていないし、私も生徒会長にならなければ知らなかった事だがね。
反吐が出るよ。推測だが隠蔽には私の家も関わっているのだからな。」
空は悔しそうに歯噛みする。自分達の、しかも自分が生徒会長として束ねている母校を個人的にすら信じきれない事がどれだけ悔しいかが僕にも伝わる。
「百舌鳥…ああ、クラスの名前の事だよ。そこはごく一部の生徒のみが入っている。その専門は『要人暗殺』だ。そして講師には厄介な事に『九相図』の幹部の一人がついている。君の事はそいつから聞いたんだよ。
不審過ぎたから捕まえてちょっと尋問したら色々な情報を吐いてくれた。今は立派な私の飼い犬だよ。君が望むのならば後で好きにいたぶってくれても構わないが、最近アイツの性癖が変な方向に向かっている気がして正直困っている…
後、『九相図』と言うと殺気を出すのは頼むからやめてくれ、心臓がいくつあっても足りない。君がこの言葉を厭うのは知っているが、説明の為に言わざるを得ないんだ。」
『九相図』と口にした瞬間雨はもちろん僕の目まで鋭くなる。けどその後に続いた言葉で僕は雨より先に警戒を解いた。
だが、僕はこいつの言葉に耳を疑った。こいつが『九相図』を下すとは思えない。仮にも、世界でトップクラスの強さを持つ人間達が集まった場所だ。僕の雨以外に勝てる人間は知らない。
だけど雨は当然のようにしていた。元仲間の事を見下し過ぎじゃないかな。
「ともかく、そこがやった可能性がないとも言い切れないから調査をお願いしているんだ。私が下手に干渉すればどうなるかわかったもんじゃないし、同様の理由で私の知り合いも調査役から除外だ。
君に依頼するのは、君にとっては忌むべき物である過去の名声もあるけれど、こうして話してみた結論として私は君を個人的に信頼したいと思ったからだ。」
「…わかってんなら、最初の理由は伏せて欲しいなぁ…」
雨は肩を落とした。会長は申し訳なさそうにしながら言葉を続ける。
「だって、君は隠し事されるのが嫌いだろう?正直に伝えなければならないところは正直に言わなければ君との信頼関係は築けない。
それに、君と話す上で色々あれについて知り合いからも聞いたんだが、本来は違う目的で作られたのだろう?あり方を歪められている現状を知り合いも憂いていたよ。」
雨はそれを聞いて目を見開いた。どうやら僕に対しても隠し事をしていたらしいね、あの様子だと。
話しづらいのはわかるけど、元の理念があるならそっちも知りたかったよ。
…というか『九相図』の本来の活動理念とやらを知ってる人間すら知り合いに居るってどういう暮らしを送っているんだろう。
「とまあここまでが表向き、つまり『生徒会長及び氷見山家当主である私』からの話だ。
正直私個人の感情としては『上は役立たず』という失望の方が強い。だからこそ、私は『被害者の友人であり、少しでも早く助けたいと願う私』の感情を優先させる。」
「…へえ。大した肝っ玉だ、家に全力で楯突いてるよ。よっぽど家の鈍重さにご立腹のようだ。」
からかうように言う僕を視線で制しながら雨は空の話の続きを促す。
「だからどうしろと?二つの事件を同時に調査しろっていうのは無茶が過ぎると思うんだけど。」
「そうは言わない。さっき渡した資料はあくまで『上から渡された資料』だ。
そして、これが私が独自調査した資料だ…やれやれ、噂のお膝元に居るとはいえたかが18程度の小娘が1か月で集められる情報より少ないとは、上の連中の怠慢は相当のようだな。」
取り出した資料は先の資料に比べて極めて詳細に書かれている。
二つの資料を手に取りながら空は不満げにぼやいている。上の人に対する不満が爆発しまくっててめちゃくちゃ不機嫌だ。曰く「最初っから私にやらせればもう解決していた」らしい。
「…ともかく。これから詳細な説明と作戦会議をする。故に、私の協力者を紹介しよう。これから何かと君には世話になるだろうからな。挨拶と顔合わせくらいはさせてあげてくれ。」
「堂々と頼る宣言しないでください、それなら料金取りますけど?限定復活しちゃいますよ、色々大丈夫ですか?」
「報酬は毎回望んだ物を望んだ通りに渡すから許して欲しい。それと、復活するのならば専属がありがたいが、そもそも君はもうそういう事はしないと決めているだろう。」
よくわかっていらっしゃる、と雨は笑顔を浮かべる。ああ、彼女が反応した理由が今になって分かったよ。彼女は悪企みしたら止まらない奴だ、人の考えを読んだ上で暴走する機関車だよ。シロアリの駆除にロケランを嬉々としてぶち込むくらいの事はしでかしそうなタイプ。
少し遠い目をした僕は、ここから本題に入るまで思考がほとんど停止していた。
なので、協力者の二人をダイジェストで紹介しようと思う。
まずはティファ。金髪に赤い眼の高校二年。左手が義手で、その義手は超技術の産物。明るい性格で、本人の身体能力も合わせてそれなりの強さを持っている。少なくとも試験官よりは強い。
続いてメア。ティファの双子の妹。金髪は共通だけど瞳の色がピンク色に近い。ティファに比べると頭脳労働派なのだが、主人が有能過ぎて仕事がないと嘆いているらしい。
「さて、ではまず状況整理だ。
なので、全ての事件において言える事から確認していく。
1、全ての被害者は全員殺人或いは殺人+何かの前科を持っている。
2、全ての死体に同一の武器による切り傷及び刺し傷がある。
3、逃げられないようにしてから相手をいたぶって殺している。
以上の三点が確実だとわかっている。」
すらすらと説明を始める空に、雨は即座に質問を投げる。
「凶器と犯行地点、時間、光度、天気は?後、目撃証言。」
「凶器は持ち逃げされているから確実な事は言えないが、せいぜい30~50㎝の細身の短剣、例えば刺身包丁のような物と言ったところだな。
犯行地点は何れもこの都市の中に限定されるが、規則性は特にない。
時間は真夜中、予想される死亡時刻から逆算すると、全ての事件の犯行が12時以降に行われている。
辺りはいずれも薄暗く視界も明瞭とは言い難い、しかも監視カメラの死角で犯行に及んでいる。
天気にも同様に法則性は無し。強いて言えば雨の日に殺す事は少ないくらいだ。
残念だが目撃証言もなしだ。」
質問に淀みなく答える空に、雨はさらに質問する。
「怪しい奴は?」
「前年度分の身辺調査は既に終わらせているが、この事件に関しては怪しい点は何一つなかった。それ以外は肥溜めの如くあったがな。
…そっちはあるみたいだな。」
後で一つ残らず検挙してやった、と肩を竦めて言う彼女に僕はやっぱり彼女の事は警戒しておこうと決める。
そんな僕の腹の中を完全無視で会話を続ける彼女の発言の短さに首を傾げる。
「肯定。人がいた。」
おい、お前ら会話を圧縮するな。もれなく外野を置いてってるぞ。
というかもうそれ限度超えて圧縮してるだろ。完全に意味不明だ。そしてそれに納得したように頷く生徒会長は何で理解できるんだ。
「…あ、あの。此処までのお二人の話で、何か分かった事はありましたか?」
おずおずと尋ねるメアに二人は息を合わせて、
「そりゃ勿論。」
「犯人もかなり絞り込めた。」
と肯定した後に同種の笑みを浮かべて声を揃える。
「「それじゃあ基本方針は犯人は無力化して死刑、場合によっては即時量刑って事で☆」」
いっそ清々しいまでに処遇を断言した。あまりの二人の爆弾発言に協力者が完全にフリーズした。
元凶二人は顔を合わせて黒く笑いあってそのまま対策会議を始めた。ああ、こいつら根が同類だ。
歯向かう奴が居よう物なら手段を問わずに雨は拳で、空は社会的に黙らせる。しかも自分の感覚か思考どちらかに圧倒的自信があり、発言を物差しで測って会話している。
時々「もう正直面倒だからこの区域と序でに無能共の本拠地に核兵器を…」「それやったら無駄に被害が出ちゃうから駄目」「じゃあここにトマホークを…」「まず範囲攻撃という発想から離れよう?」などという物騒な会話が聞こえてくる。
二人とも火力が過剰だよ、頼むから常識的な攻撃をしてくれ。
「頼むから暴走はしないでよ…?今思ったけど、君達二人の組み合わせは魔王をレベル上げくらいの感覚で倒しそうな感じがするよ。」
完全に現実逃避を始めた僕のそんな呟きと同時に、ティファとメアも同様の事を呟いていた。
…この人達だけで仕事をさせてはいけない。話に置いていかれた僕達はそう決意を固めたのだった。
『九相図』に関しては主に1章前半~中盤にかけて描写するつもりです。
ちなみに空と雨が仮に二人だけで任務に行くと大体の作戦名が「その辺をドーン!」になります。
まだまだつたない文ですが少しずつ細かい描写が出来るように練習していきたいと思います。