珈琲は冷たかったけれど、彼と、自分の心は暖かった。
BLで非王道学園モノです、なお学園は出てきません。
チャラ男受けっぽい何かです、書いてみたかったのです。
……鳴り響く音。
メッセージが来たことを知らせるソレに、気だるげに俺は見る。
「……はぁ」
面倒くさい、そう思いつつもスマホを手に取って、返信をする。
ぼんやりとなんでこんなことしてるんだろうと、考えながら返信して、適当にテーブルに投げて、キッチンの方へと向かう。
適当にコーヒーを入れて、飲む。
「……何やってんだ、俺」
はっ、と鼻で笑う。
何年前から続けるこの生活、場所が変わっても、どうせ結果は――
「――あーあ……どうして俺は生きてるんだろうな」
……いっそ、死んでしまおうと何度も思って、思って思って思って――
――失敗した。
手首の傷は、未だに消えない。
首の傷は、未だになくならない。
……心の傷は、増えるばかりで、減りはしない。
飲み終わったコップを、適当に置いて、リビングへ向かう。
テーブルに放置していたスマホを手に取って、鞄の中に突っ込む。
鞄を掴んで、扉を開けて――
「――行ってきます」
誰もいない、寮の部屋にそう呟く。
……一瞬だけ我が家の玄関と被る。
どうせ聞こえもしてないし、聞きたくもないんだろう。
いくら考えたって、時間は勝手に進むのだから、何も考えずに動くべきなんだ。
……きっと、そうだろう?
どこか違う気がするけれど、それを証明する方法は俺にはなかった。
*
がしゃんと、自販機から缶コーヒーが落ちてくる。
……手に取る缶コーヒーは酷く冷たい。
「……これ、ホットじゃなくてアイスじゃん……」
……真冬に間違えてアイスコーヒーを買うとか、失敗した。
ため息をつきつつ、冷たい缶コーヒーを開けて、飲む。
心の底から冷えるような気がして、もう一度ため息をつく。
「……はぁ……」
「あ」
「……あ?」
寮の方へと歩こうとして、目が合った。
緑色の瞳に、黒い髪…………あぁ、元々同じ学校の男子で、確かハーフ何だっけ……名前は――
「――風牙」
「おー、久しぶりーアイちゃん元気ー?」
「アイちゃん呼びはやめてって言ったでしょ」
風牙はいつもアイちゃんと俺を呼ぶが、藍李なのでまぁ間違ってはない。
……俺が男なのを分かってて呼ぶ辺りは駄目だが。
「まぁまぁ良いだろ別にー」
「良くないって言ってもやめないでしょ……それでこんなところでどうしたの?」
「あー……来週からアイちゃんと同じ高校だからよろしくなー?」
「……転校したの、結局?」
確か親が反対して別の高校に行ったはずだ。
そりゃまぁ同性愛が多い全寮制の男子校とかあまり行かせたくないだろうけど、まぁそれでも結構有名な人とかは入ってるから繋がりを得るために入れたりする場合もそこそこある。
「ふふん、俺ってば優秀だからな、説得してどうにか納得してもらった」
「どーせ風牙のことだから勝ったから文句は言わせない的なことでしょ?」
「よく分かったな、流石アイちゃん」
こんなんでも頭良いし喧嘩は結構強いから俺は戦いたくはない。
下手に戦えば負けてロクな目に遭わないってのを隣で見てきたから。
見た目は俺よりちょっと低いぐらいの低身長で可愛い系だけど中身は……ほら……
「……間違いなく天才の部類なのに方向性が明らかにおかしいよね、風牙」
「褒めても何も出ないぞ?」
「喧嘩が強くて頭も良いのに……」
「何だいきなり……」
じぃと、風牙を見る。
絶対に風牙は天才の部類の人物だ、だけど――
「――なんで選んだのが絵師なのかなっ!?」
「……いや別に趣味ぐらい良いだろ?」
「良くないよっ!? よりにもよってある意味凄いとか言われてた風牙が絵師になるのさ!?」
こいつの特技はほぼ全て、だ。
一部を除いて言われたことは大体凄く強い、初めてのことなのにそこらの長年やってる奴らより上手かったりすることも多い。
……一部、主に美術関係を除いて。
褒める部分が見当たらなくて、出てきたのがある意味才能とか、ある意味凄いとかしか感想が出なかった程度には絵は下手だ、ある種の芸術かもしれないが。
「いや別に……良いだろ……それに、半分ぐらいは趣味みたいなものだし」
「趣味にしたってなんで絵なのさ……」
何かを残したいなら絵じゃなくて文字とかにすればよかったのに。
趣味で書いてたらしい小説を一度だけ見せてもらったことがあるけど、俺は好きなのだが本人はあまりいい顔をしなかった、納得のいく文章が作れなかったらしいけど、俺にはよく分からない。
ふと、手元の缶コーヒーを見る。
手の感覚が軽くなくなるぐらいには長時間触っていたらしく、とりあえず飲む。
「……それ美味いのか?」
「そこそこ」
「ふぅん? ……これ、アイスしかねぇじゃないか」
自販機を見て、俺の持っている缶コーヒーと同じのを見つけて、そう言う。
そして、俺の手にある缶コーヒーを触って、つめた、と小さく呟く。
「うわ、アイちゃん、手、凄い冷たいけど、大丈夫か?」
「だいじょーぶ、っ、わっ」
「大丈夫じゃねぇだろ、つーか体も冷たすぎるだろ……」
俺のことを抱き寄せる風牙。
……温かい風牙の体。
驚いて、固まって、無意識に逃げようとして、その手にギュッと抱きしめられて、体が完全に固まった。
そんな俺の耳元で――
「――普段のお前なら、俺のこと、蹴飛ばして逃げてただろ」
「ひゃ……ま、って……」
逃げたかった、でも体が上手く動かなくて、抑えられて、耳元に聞こえる風牙の吐息に酷く反応してしまって、からんと、手に持っていた缶コーヒーが落ちる。
殆どなかったけど、それでもまだ残っていた缶コーヒーの中身が、足元に飛び散る。
「待って待って待ってお願いだからオレはオレは俺は何で俺はっ――」
――なんで生きてるんだっけ。
小さく呟いた俺の言葉は、酷く冷たくて、泣きそうで……
「……落ち着け、な、アイちゃん?」
耳元に囁かれるどこか楽しげな風牙の声に、少しびっくりして、風牙の方を見る。
楽しそう……というより、嬉しそうな風牙が見える。
「アイちゃん? 大丈夫か?」
「……アイちゃん呼びは、やめてってば」
「ははっ、だってアイちゃんが俺に素を出してくれるのが凄い嬉しいし?」
耳元で囁かれる言葉よりその囁かれている状態というのが少しきつかった。
恥ずかしいというのは、こういうことだ。
「っ、耳、やめてよ」
「耳、弱いのか? ……可愛いな……」
「ちょっ……!?」
「アイちゃんさー……もっと俺のこと頼ってくれよ」
どこか寂しげな風牙の声に、視線が揺れる。
……こんなこいつ、見たことがない。
普段とは違う風牙に、どうしようもない感情が出て来て、さらに驚く。
「……俺は、仮にもアイちゃんの唯一の親友、だろ?」
「風、牙……」
「俺は、頼りないか?」
頼りないというか、頼れないというか……一人で生きることになれてしまって、誰かに頼るというのが苦手になってしまったというか……だから別に頼りないわけではないんだが……
……この、感情はなんだっけ、どうしようもない、強い感情。
風牙にこんな感情抱いたことなんてないのに。
「……まぁ、良いけどな」
「え?」
「アイちゃんの隣に居られれば、後は全部良いんだよ」
「良いって……」
「その後のことは俺が勝手にアイちゃんのことを助けるし?」
にししと笑う風牙は、思った以上に可愛いというかその……
かぁぁと顔が赤くなる気がした。
「……んー? ……顔、真っ赤」
「っー! ふ、風牙の馬鹿っ!」
「可愛いな……」
「お、まえの方が可愛いだろっ……!」
「……え?」
つい、素で返してしまうぐらいには動揺してしまった。
笑った風牙は思った以上に可愛くて、動揺して、何をやってるんだとようやく冷静になった。
「あぁぁぁっ、もう帰るっ!」
「っ、いっ……!? あ、アイちゃ……え、本気で帰るのかっ!?」
――珈琲は冷たかったけれど、彼と、自分の心は暖かった。
読んでいただきありがとうございます。
ちなみに幼馴染かは不明(決めてない)です。
でも多分藍李は中学の途中、もしくは中学が終わった辺りで現在の学園に入ったと思われます、中等部も多分あるから中等部からの転校か高等部からの入学かのどちらか(未決定)です。
もう話すことも(多分)ないので、残りはキャラクター設定を出しておきます(どうせなら出しておいた方が分かりやすいかなと)。
◆藍李 (男/身長150後半/16歳/1.Sクラス)
黒髪、青と黄のオッドアイの少年、色っぽくて男女ともに人気、チャラ男呼ばわりされているが本人はあまり気にしていないしむしろそれに近づけて愛されたいと願っている。
オッドアイだったから親に嫌われているのだと思ってカラコンで隠して青色の瞳にしている、でもオッドアイじゃなくても親に嫌われている(オッドアイだから更に嫌われた)。
努力型の天才、努力すればそこらの天才にも届きそうになるが結局勝てないタイプ、強かったのは喧嘩と英語(外国語等)で喧嘩は風牙にも負けないぐらいだけど本人は否定している、英語は風牙より得意。
実は喧嘩が強くてそこらの不良を蹴り飛ばしていた頃がある、その影響か咄嗟に足が出ることがある。
風牙に好かれてることに気づいていなくて、唯一の親友みたいに思ってる。
今回のことで風牙に好意を持ったが風牙に好かれていることは気づいていないのはそのまま。
◆風牙 (男/身長150前半/16歳/1.Sクラス)
黒髪緑瞳の少年、可愛い系でお姉さん方から可愛いと人気、だけど喧嘩が強い。
文武両道の天才、大抵のことは初めてでもそこそこ上手く、護身術を習ってから剣や弓等にも興味を持って色々した結果喧嘩に強いどころか何を持たせても強い。
頭が良くて得意なのは国語と数学、それ以外も普通の人よりかなり良い。
苦手な方の英語(外国語等)でも一般人よりは上手い、唯一といっていい欠点は美術関係。
藍李に初めて会った時に一目惚れして傍にいようとするが告白して振られたくないとバレないようにしている、アイちゃんと呼ぶのは自分だけが呼ぶ呼び名が欲しかったから。
藍李の入る学園に行きたかったが親に反対されて別の高校に入ったが今回転校することになった、内心藍李と同じクラスになったのを喜んでいる。
絵師を目指しているが理由は好きな人(藍李)のことが描きたかったからで納得のいく絵が描けなくて困っている、どうにか上手くなりたいと願って頑張ってる。