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第8話 異世界の住人

 彼ら三人が出した結論は『可能な限り早期に異世界の住人と接触する』、であった。

 この世界に人間が存在するかも分からない。仮に存在したとしても、自分たちと同じ進化の形態をたどった人間なのか。言語は通じるのか。等々、不安は尽きなかったが、思い悩むよりも当たって砕けることを選んだ。


『いつまでも森の中に居るわけにもいかない。先ずは人間とコンタクトして情報を集めよう』


『ファーストコンタクトだねー』


『姫プレイをするにしても貢がせる人たちを獲得しないと始まらないもんなー』


 そんな話し合いが行われてすぐに歩き出したのだが、いまだファーストコンタクトは成されていなかった。


「もういい加減、森を抜けても良さそうなものなんだけどな」


「お腹が空いたよー、となーん」


 拓光が愚痴る側で、紗良が食事にしようと甘えた声を上げた。

 腕時計を見ると十四時を回っている。


 最もHPの低い拓光でも体力面ではまだまだ余裕があるのだが、周辺を警戒しながらの移動という慣れないことに三人とも精神的な疲労が蓄積していた。

 加えて空腹もある。


「小休止して食事にするか」


 図南の提案に拓光と紗良が即答で賛成する。


「食事だー!」


「お昼ご飯ー」


 食料問題は想定の範囲内だったので、歩きながら食べられそうな木の実や果実、草を見つけては図南の解析で調べていた。

 お陰で三人のストレージの中には三日間は持ちこたえられそうな量の食料がある。


「問題はタンパク質だよな」


「具体的には肉、な」


 図南の独り言に拓光が即座に突っ込む。


「牛さんとかいないかなー」


「俺の索敵だと引っ掛かったのがタンパク質かどうかなんて判断つかないからなー」


「同じく」


 と図南。


「では、あたしがタンパク質を見つけるので、あとはよろしく願いしますね」


 狩りと解体はしない、と紗良が言い切った。


「それでも肉が食いたい」


 拓光の意見に図南が首肯する。


「紗良、タンパク質を探してくれ。頼む」


「了解!」


 嬉々としてタンパク質を探し出そうとする紗良に図南が言う。


「一応、地球の感覚だが、ネズミやリスは除外してくれると嬉しい」


 漠然としたイメージで病気を持ってそう、というだけで判断材料になるような根拠はなかった。それでもイメージを優先する。


「そんなの見つけても、どっちも違う意味で教えないから安心して」


 ネズミは気持ち悪いし、リスは食べるのが可哀そう、というのが理由である。


「ヘビとかトカゲ、昆虫もパスでお願いね」


 少女アイドルに変身したままの拓光が、しなを作りながらリクエストすると、


「言われるまでもありません」


 紗良が冷ややかに返した。


 ◇


 紗良が千里眼の効果範囲を拡大して周囲を捜索すること五分。突然、パァっと明るい表情を見せたと思うと嬉しそうに声を上げた。


「人間発見!」


「マジか!」


「二足歩行のタンパク質は抵抗あるなー」


「馬車が五台」


 拓光のボケをスルーしてそう告げた瞬間、紗良の顔色が変わり声音こわねに焦燥感が混じる。


「どうしよう、図南! もしかしたら、戦闘中かもしれない! 村人っぽい人たちを人相の悪い盗賊っぽい人たちが襲ってるように見える」


「距離と方角は?」


「あっち! 距離は一キロメートルくらいだと思う」


 紗良が指さした。


「紗良は魔弾で襲っている盗賊たちを牽制だけしてくれ」


「牽制だけ? 多分、当てられるよ」


 魔弾で狙撃が可能だと提案する紗良に、


「一見した状況や人相で判断して後悔したくない」


 狙撃を思いとどまらせる。


「盗賊っぽい人たちを馬車に近づけないようにするね」


「頼む!」


 軽率な行動をしたくないという気持ちは嘘ではなかったが、どちらかというと紗良に人間を攻撃させたくないという思いが強かった。

 だが、図南はそのことを口にはせず、自身が戦闘の現場へ向かうと二人に告げる。


「俺が先行するから二人は後から来てくれ」


 言うや否や、図南は身体強化と加速を使って駆けだした。


「図南、無茶しないでね!」


「気を付けろよ!」


 背に受ける二人の声が急速に遠ざかる。

 目に映る景色が高速で流れ、遠方にあったはずの樹木が瞬時に眼前へと迫る。


(ヤバい! 五感がついてこれていない!)


 その速度に身の危険を感じた図南が感覚強化を並行して発動させた。途端、感覚が研ぎ澄まされる。

 迫る木の枝を顔に当たる直前で回避した。


「危なかった」


 それでも避け切れなかった草木が制服を切り裂き、肌には幾つもの裂傷を作っていた。それを神聖魔法で回復しながら疾走する。


 ◇


 ――遡ること数分前


 街道脇の茂みに身を潜めた男たちが獲物を見るような目で、大きく弧を描いた街道の曲がり角を凝視していた。


「まだか?」


 スキンヘッドの男が頭上へ声をかけると樹木の上から若い男の声が返ってくる。


「まだです。まだ見えません」


「ちっ」


「そう焦るなって」


 スキンヘッドの男を頬に傷のある男がたしなめる。


「でも、若い女が五人もいるんだぜ。気も焦るってもんだろ」


 スキンヘッドの男がいやらしい笑いを浮かべると、頬に傷のある男が「違いねえ」とうなずく。

 そんな二人を周囲の盗賊たちが好色そうな表情を浮かべてからかう。


「焦って殺すなよ」


「そうそう、殺すのは男だけだからな」


 会話を聞いていた他の盗賊たちの下卑た笑いが辺りに響いた。

 そんな仲間たちの様子を見ていた三十代半ばの男が偵察から帰ってきた十三、四歳の少年を振り返る。


「護衛に若い女がいたってのは、間違いないんだろうな」


「はい、お頭! 馬に乗った護衛が二十五人。そのうち五人は若い女でした」


 お頭と呼ばれた男が小さくうなずいて街道に視線を戻すと、別の方角から少年をからかう声がする。


「その若い女ってのは、小便臭いガキじゃねえだろうな?」


「十二、三歳のガキだったりしてな?」


「ありそうだなー」


 一斉に盗賊たちが笑い声を上げる中、


「違いますよ、二十代の半ばでした。革鎧を着ていましたが、一人は胸だってこんなでしたからね」


 少年が両手で胸の大きさを表現すると、盗賊たちの笑い声は一層増した。


「見えました! 騎乗した護衛が二人、隊商の十メートル程先を馬車に速度を合わせて駆けています」


 樹上から偵察通りの状況であることが告げられた。


「よーし、全員、配置に着け! 予定通り騎乗した護衛二人はやり過ごせ! おめえら、気付かれるなよ!」


 頭目の号令一下、盗賊たちが茂みの中に静かに散った。

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就職浪人、心機一転異世界で成り上がる ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~

◆あらすじ
就職に失敗した天涯孤独の大学生・朝倉大地は、愛猫のニケとともに異世界に迷い込んだ。
半ば絶望にかられた大地だったが、異世界と現代社会のどちらの製品も自由に取り寄せることができる「トレード」スキルを手に入れる。
日本に帰っても待っているのは退屈で未来に希望を持てない毎日。
ならば、このチート能力を使って異世界でのし上がろうと決心する。
現代知識と現代の製品を頼りに、愛猫のニケとともに異世界を自由気ままに旅するなか、彼は周囲から次第に頼られる存在となっていく。
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