第44話 カジノへ
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2020.12.27 17:53
前話『第43話 図南と拓光』を書き直しをしています。
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拓光と会った夜、図南はメモ書きにあった賭場へと向かうため、夜遅く寮を抜けだしていた。
神殿の広大な敷地を通って通用門へと差しかかると、突然、大木の裏側から人影が現れた。
「小隊長、お出かけですか?」
人影の正体は図南が率いる部隊の副隊長、ギード・フーバーである。
「夜の散歩で、だ」
つい、敬語になりそうになるのをごまかす。
「どちらまで?」
「副隊長にそこまで知らせておく必要があるのか?」
「私に知らせる必要はありませんが、万が一のことがあるので副官のクロスには一言あった方がいいでしょうな」
ギードが別の大木に視線を向けるとその陰から小柄な少女が姿を現す。
昨日、正式に図南の隊の隊員となり、且つ、隊長である図南の副官となったカルラ・クロスである。
図南は大きなため息を吐くと、観念したような顔で言う。
「ちょっとした夜の散歩だ。特に当てがあるわけじゃないんだ」
「当てのない散歩ですか」
「神聖騎士団の団員は夜の散歩も出来ないのか?」
嘘を吐いているだけに後ろ暗さもある。
図南はギードの見透かしたような態度と、同年代の少女であるカルラに下世話な誤解をされているのではないか、という思いが相俟って軽い苛立ちを覚えていた。
「神殿長からすべて聞いているんですが?」
ギードが吹き出すのをこらえながら言った。
(あのじいさん……!)
フューラー神殿長のとぼけた顔が図南の脳裏に浮かんだ。
昼間、拓光と会話した内容はすべて話していたし、今夜、身分を隠してカジノに潜入することの了解も得ていた。
他言無用と念を押さなかったのも事実である。
「知ってたのかよ。二人とも人が悪いな」
「いやー、隊長がどんな風にごまかすのかクロスと賭けをしたんですよ」
「で、勝ったのはどっちだ?」
「俺です」
悪びれる様子もなく、ギードが満面の笑みで答えた。
「で、クロスは俺が正直に言う方に賭けたのか?」
「いいえ、違います」
バツの悪そうな表情で首を横に振った。
神殿長から自分たちに教えるわけにはいかない密命を受けた、などともっともらしい嘘を吐くと思っていたのだ、とカルラが言った。
(俺がもう少し上手くやると買い被ってくれたってことか)
図南は何とも釈然としない気持ちになった。
傍らのギードが声を押し殺して笑っているのもそれに一役かっているのは確かだろう。
「次からはクロスが賭けた程度のことは出来るように心掛けるよ」
まだ笑っているギードを横目で見ながら続けて言う。
「で、俺をからかいに来たんじゃないんだろ?」
「察しがいいですね」
(こいつ、俺のことを小バカにしてないか?)
軽く睨み付けると笑いを押し殺して言う。
「護衛です」
「クロスもか?」
「はい。私は隊長に騎士にして頂きました。ご恩に報いさせてください」
「てのは建前で、ここで隊長に死なれたり不祥事を起こしたりして、隊が解散してはせっかくの騎士就任も取り消しになりますからな」
ギードが身も蓋もないフォローをする。
カルラの方はというと、何も言えず顔を赤らめて口をパクパクとさせていた。
(図星かよ、いい部下だなー)
「正直な意見が聞けて俺も嬉しいよ」
「正直が私の取り柄でして」
(嘘吐け!)
二人の反応には突っ込まずに素知らぬ顔で話を続ける。
「護衛の必要はないから帰ってもらって構わない」
「凄腕だって噂は聞いてます。でも、カジノの人混みのなかでブスリとなったら防ぎようがないでしょう?」
ギードが短剣で刺す真似をする。
(そうでもないんだがなー)
しかし、そうも言えないので曖昧な返事をすると、ギードが口元に意地悪そうな笑みを浮かべて続ける。
「もっとも、小隊長の場合は不祥事の可能性の方が高そうですがね」
(クロスのことといい、どうも俺のことを誤解しているな。フューラー神殿長も今夜のことを話すなら、ついでに俺の誤解を解いておいてくれればいいのに)
「つまり、護衛という名のお目付役ってことか?」
「そんなところです」
否定することなくギードが首肯する。
「クロスもか?」
「彼女は小隊長の副官です。副官が小隊長の行き先も知らされないというのは蔑ろにしすぎですぜ」
カルラの代わりにギードが副官の立場を語る。
その間、カルラは居心地の悪そうな様子で目を泳がせていた。
(確かに、彼女には申し訳ないことをしたな)
「それじゃ、三人で行くとしようか」
「クロスの同行も許可いただけるので?」
「そう言ったつもりだ」
図南がそう言うと、ギードとカルラの返事が重なった。
「同行の許可を頂き光栄です」
「畏まりました」
◇
神殿から歩くこと三十分余り。
目的のカジノが見えてきた。
ギードの話では、このカッセル市に合法なカジノは五軒あり、これから向かうカジノはそのうちの一軒だった。
「あれがそうです」
「何度か入ったことがあるのか?」
カジノが入っている建物を指さすギードに図南が聞いた。
「他の店ですが三回ほど」
以前の所属していた小隊の隊長がギャンブル好きで、何度か付き合わされたのだという。
「クロスは?」
「入ったことはありません」
(だろうな、真面目そうだ)
図南が改めて自分を含めた三人の格好を見る。
彼自身は商人の若旦那風、ギードは街中でよく見かける労働者のような出で立ちをしていた。
カルラはどこからどう見ても良家の子女といった装いである。
「三人が一緒に入ると不自然に見えないかな?」
図南の疑問にギードが即答する。
「小隊長とクロスはお忍びのカップルを装ってください。俺は二人の後に一人で入ります」
「まあ、そんなところか」
若旦那と良家の子女が人目を忍んでカジノで遊ぶ。
ありそうな話ではあるな、と図南もカルラも納得した。
「では、小隊長、参りましょうか」
「クロス、小隊長はまずいな。俺のことはトナンと呼んでくれ」
「承知しました」
「君のことをカルラと呼んでも構わないかな?」
「もちろんです」
敬礼しそうになったカルラが慌てて右手を戻した。
「二人も大丈夫ですか?」
ギードが不安そうに声をかける。
「もちろんです!」
「問題ない」
背筋を伸ばすカルラと図南の答えが重なる。
「あー、お忍びを装うんですからせめて腕くらい組んだらどうです」
「そうだな」
図南が左腕をカルラの方へと動かすと、カルラがキビキビとした動きで右手を絡めた。
「まあ、頑張ってください」
正体がばれたときのことを考えてギードが付け加える。
「いまから小隊長とクロスは恋人同士。で、俺とはまったく面識のない人間ってことでいいですね?」
図南は「それで構わない」と告げて、カルラに向き直る。
「行くぞ、カルラ」
「はい!」
妙に動きに切れのある二人がカジノの入り口へと向かって歩を進めた。
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