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第13話 神聖騎士団

本日、二話目の投稿です

19時00分にも投稿しております

 街道を塞いでいる馬車隊の様子を確認するために、神聖教会の馬車隊から四騎の騎士が抜けだした。

 それを見た隊商の人々や冒険者たちが慌ただしく動きだす。


 勿論、ロルカたちも同様だ。


 神聖教会の馬車が通過できるだけの道幅を確保しようと、街道を塞いでいた馬車を移動させてるために人々が破損した馬車の周辺に集まった。

 皆が馬車を移動させる中、隊商の代表であるケストナーと護衛のリーダーであるマイヤーが四人の騎士を出迎える。


 その様子を見ていた図南が独り言ちる。


「ここからじゃ聞こえないか」


 身体強化で強化された聴力でもケストナーとマイヤー、騎士たちの会話を聞くには距離があった。


「聞こえるところまで近付いて、野営の準備をする振りをしましょう」


 紗良が図南の左腕を取った。

 図南と紗良が会話の聞こえる距離まで近づいたのと、神聖騎士の一人がケストナーとマイヤーに話しかけるのが同じタイミングだった。


「私は神聖騎士団のミュラー。護衛部隊の隊長を務めている」


 ミュラーは馬上から名乗ると、馬車が街道を塞いでいることを特に咎めるでもなく、何があったのかと聞く。


「私たちは寄り合いの隊商でして――――」


 五つの冒険者パーティーを合同で護衛として雇い、カッセルの街へ向かっている途中であること。数十分前に四十人の盗賊に襲われたことを説明した。


「四十人の盗賊だと!」


「はい、盗賊はあちらに捕らえてあります」


 信じられない、と言った様子で問い返すミュラー隊長に、拘束して一ヶ所に集められた盗賊たちをケストナーが指さした。

 その盗賊たちと隊商の様子を見た騎士たちが釈然としない様子で互いに顔を見合わせた。


「随分と優秀な護衛のようだな」


 ミュラーの言葉に続いて、ケストナーとマイヤーの言葉が重なる。


「はい、とても助かっております」


「いいえ、私たちなど何の役にも立ちませんでした」


 ミュラーはマイヤーに向かって『謙遜する必要はない。四十人の盗賊を撃退するなど並大抵の護衛にできることではない』そう言って、ケストナーに視線を移す。


「負傷者はどれくらいいる? これも神の思し召しだろう、怪我の程度にもよるが助祭様に相談してこよう」


 騎士の申し出に今度はケストナーとマイヤーとが顔を見合わせる。


「どうした? 遠慮はいらぬぞ」


「実は、怪我人は一人もおりません」


 とケストナー。


「四十人の盗賊に奇襲を受けたのだろ?」


 四十人の盗賊を撃退したのだから、護衛の人数はそれ以上と考えていた。

 しかし、目に付くだけの数だが護衛は十数人程度しかいない。


 他の護衛は死亡するなり、負傷するなりしているのだろう。そう予想してのミュラーの申し出だった。


「奇襲を受けてすぐに彼らが加勢してくれ、たちどころに盗賊たちを撃退してしまいました」


 ケストナーが背中を向けている図南と紗良の二人を示した。

 それを盗み聞きしていた図南と紗良が互いに顔を見合わせる。


「あーあ。ケストナーさん、お話ししちゃったー」


 紗良がガクリとうな垂れた。

 そんな紗良を横目に図南が独り言ちる。


「これは神聖教会にあれこれと聞かれるのを覚悟した方がよさそうだな」


 図南と紗良を見たミュラーが驚きの声を上げた。


「子どもではないか。それもたった二人が加勢しただけで戦況が一変したというのか?」


 信じられないといった様子で聞き返す。

 それを聞いていた紗良がささやく。


「信じられない! 子どもとか言われた!」


「日本でも俺たちは未成年なんだ。十分に子どもだろ?」


「違うわよ。あの口調はそういう『子ども』じゃなかった」


 そんな紗良の不満など知る由もないミュラーはケストナーの言葉に耳を傾ける。


「その、私どもも、どのようにして助けられたのか分からないのです。気付けば盗賊たちが全滅していた次第で……」


 言い淀むケストナーの言葉を引き継いでマイヤーが口を開いた。


「攻撃魔法であることは間違いありません。ただ、我々も見たことがないような強力な攻撃魔法でした」


「要領を得んな」


 訝しむミュラーにマイヤーが答える。


「突然、空から無数の攻撃魔法が降り注ぎました。その攻撃魔法と共にあの少年――、トナンさんが現れ、双方に剣を収めるように言いました。その後は盗賊たちに怪我を負わされた瀕死の者たちを救ってくれたのです」


「まるで物語の英雄が登場する場面のようだな」


 ミュラーがつぶやく。

 それを聞いていた紗良が図南の脇腹を肘で突いた。


「図南、英雄だってー! どんな気持ち?」


「いいから話の続きを聞こう」


 マイヤーが続いて紗良の登場シーンを語った。


「トナンさんが我々の治療を始めると盗賊たちが再び襲い掛かってきたのです。ですが、そこへあの少女——、サラさんが現れたと思ったら、やはり我々が見たこともないような攻撃魔法で盗賊たち全員の脚を吹き飛ばしてしまいました」


 紗良の登場と共に戦闘が終わりを告げたのだと説明した。

 話を聞いていた紗良が図南に訴える。


「酷いよね? あれじゃあたしが殺戮者みたいに聞こえちゃう」


「紗良が優しいのは俺が一番よく知っているよ」


「図南ったらー」


 嬉しそうに図南の腕に抱き着く紗良にミュラーが目を留めた。


「ではあの少女が未知の攻撃魔法で四十人からの盗賊を一蹴したのだな?」


 ミュラーの言葉にケストナーとマイヤーがうなずいた。

 だが、それだけでは説明がつかない。


 盗賊団を一蹴するほどの強力な魔法攻撃なら、生き残った者は何らかの怪我を負っているのではないか?

 ミュラーが当然の疑問を持った。


「だが、それでは怪我人がいないのはおかしいのではないか?」


 奇襲を受けたのであれば隊商や護衛に負傷者が出るだろう。攻撃魔法で四十人の盗賊を一蹴したのなら盗賊側に負傷者がでるはずである。


「どちらにも多数の負傷者がでました。なかには瀕死の重傷を負った者や脚を吹き飛ばされた者もおりましたが」


 ケストナーはそう言うと話を中断して、再び図南と紗良を見る。

 騎士たちも釣られて二人を見たタイミングでケストナーが話を再開した。


「あちらのお二方がすべての怪我人の治療をしてしまわれたのです。もちろん、盗賊たちの吹き飛ばされた脚も元通りです」


「何を言っているんだ?」


 ミュラーが理解できないといった様子で聞き返す。


「神聖教会の司教でも吹き飛ばされた脚を元通りにするなどできることではないぞ」


 口にはしなかったが、部位欠損の再生が出来るのは大司教以上の高位の神官たちの中でも極一部である。

 ミュラーの疑いの表情を見て取ったマイヤーが自分の着ている革鎧の肩口を見せた。


「この革鎧の破損を見てどう思われますか?」


 革鎧の右肩口の破損箇所が騎士からよく見えるように身体の位置をずらす。

 革鎧が大きく破損し、真新しい血の跡が生々しくこびり付いているのがミュラーの目に映った。。


「斧か何か、鈍器が振り下ろされたような跡だな。それにその血の跡は……」


「はい、斧をまともに受けました。肩の骨を砕かれ、傷口からの出血も多く、たとえ助かったとしても、もう冒険者は引退だと覚悟を決めたほどの大怪我でした」


「その傷をあの少年と少女が治療したというのか?」


「この傷など軽い方です。致命傷と思われるような傷も瞬く間に治療してくださいました。我々と四十人の盗賊をたった二人で、です」


 にわかには信じられなかったが、眼前の二人が自分たちに嘘を吐いているとも思えない。

 ミュラーの判断は早かった。


「アルベルト、お前はすぐに戻って、いまの話を大司教に報告しろ。私はエーリッヒとラルスと共に少年と少女に会って話を聞く」


「畏まりました」


 アルベルトと呼ばれた若い騎士が返事と共に馬首を巡らし、神聖教会の馬車隊へ向かって駆けだした。

 それを見送った年上の騎士が二人に言う。


「では、すまないがあの少年と少女を紹介してもらえるかな?」


「承知いたしました」


「はい」


 ケストナーとマイヤー、二人の承諾の返事が重なった。

 そのやり取りを聞いていた図南と紗良がささやき合う。


「こっちに来るよー、図南ー」


 紗良のしがみ付く力が増す。

 その柔らかな感触に意識が向き、すぐには言葉が出なかった。それでも気を取り直すと紗良に視線を向けて言葉を紡ぐ。


「……こうなると思っていたんだよなー」


「で、どうするの?」


 図南の腕にしがみ付いた紗良が彼の顔を見上げた。顔の距離の近さに図南は内心でドギマギとするが何とか平静を装う。


「下手に嘘を吐くのは得策じゃないだろうな」


「だよねー」


「嘘は言わないが聞かれたこと以外は話さないようにしよう」


 紗良が無言でうなずく。


「まず、俺たちが使った神聖魔法がこの世界の回復魔法と比較してどの程度のところに位置するのかを確認する。同時に、神聖教会と回復魔法の関係とこの世界での立ち位置や影響力を探り出す」


「あたしたちの設定は、森を歩いている間に決めた通りでいいよね?」


 今度は図南が無言でうなずいた。

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就職浪人、心機一転異世界で成り上がる ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~

◆あらすじ
就職に失敗した天涯孤独の大学生・朝倉大地は、愛猫のニケとともに異世界に迷い込んだ。
半ば絶望にかられた大地だったが、異世界と現代社会のどちらの製品も自由に取り寄せることができる「トレード」スキルを手に入れる。
日本に帰っても待っているのは退屈で未来に希望を持てない毎日。
ならば、このチート能力を使って異世界でのし上がろうと決心する。
現代知識と現代の製品を頼りに、愛猫のニケとともに異世界を自由気ままに旅するなか、彼は周囲から次第に頼られる存在となっていく。
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