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第11話 差

 紗良が放った無数の魔弾が森の中に次々と撃ち込まれる。

 魔弾は盗賊たちの脚を吹き飛ばして樹木を穿ち、草木をなぎ倒して地面を抉り、岩を砕いた。


 草木や樹木が乾いた音を奏で、岩が炸裂音を発する。

 続いて聞こえる男たちの悲鳴とうめき声。


 幾人もの盗賊たちが激痛に耐えかねて悲鳴を上げながら辺りを転げまわる。姿が見えない者たちの苦痛の叫びが森の中に木霊する。

 一連の出来事と眼前で繰り広げられている阿鼻叫喚の光景に隊商たちや冒険者たちが一様に言葉を失った。


(やはり、威力が強すぎる!)


 魔弾の破壊力と貫通力の高さを考えれば十分に予想できることだった。

 緊急事態とは言え紗良に人間を攻撃させたことへの後悔の念が胸を締め付ける。眼前に広がる惨状に吐き気を覚える。


 それでもこの事態を引き起こした責任が自身にあるのだと己に言い聞かせた。救うべき命があるのだと、救えるのは自分たちだけなのだと己を鼓舞する。


「図南!」


 紗良が心配そうに図南に駆け寄る。

 盗賊たちの惨状を視界に入れないように視線を森に向けないようにしている。


「紗良、すまない」


「謝らないで、図南は何も悪くないじゃないの」


「それでも謝らせてくれ」


「しょうがないなー。図南がそれで立ち直るなら、幾らでも謝罪を受け入れてあげましょう」


 図南に笑顔を向ける。


 付き合いの長い図南にはそれが無理に作った笑顔だとすぐに分かった。

 強がる紗良に『ごめん』、と短い謝罪の言葉を口にする。そして、すぐに自分たちがやるべきことに意識を戻した。


「治療を手伝ってくれるか?」


「治療?」


 紗良の顔に不安の色が浮かぶ。


「『幻破天』の神聖魔法が使える。ゲーム内と同じ効果だ」


 図南が紗良の耳元でささやいた。


 紗良が驚きの表情で見つめ返す。だが、それは一瞬のこと。

 すぐに返ってくる力強い言葉。


「分かった、やってみる」


「俺は盗賊たちの治療をするから紗良は隊商の人たちを頼む」


「一緒にやろう、一緒がいい」


 自分が引き起こした惨状を図南が一人で引き受ける。その優しさに紗良の表情が雲った。だが、すぐに図南のよく知る彼女の笑顔を見せる。


 それは学校では滅多に見ることのない顔。

 彼女の弟や妹たち、家族と一緒にいるときに見せる笑顔だ。


「紗良には隊商の人たちを頼みたい」


「あたしは、図南と一緒がいいな」


「我がまま言わないでくれよ」


「どっちが我がままよ」


 図南はどちらも我がままなんだよな、と内心で思いながら言う。


「今回だけ俺の我がままを聞いてくれ、頼む。次は俺が紗良の言うことを聞くから」


「うん、分かった」


「決まりだ!」


 微笑む紗良から隊商の人たちに視線を移す。


「彼女の名前は紗良。俺の仲間です。同じように神聖魔法が使えます。彼女が皆さんの治療をするので協力をしてください」


「協力させて頂きます!」


 少女の声が応じた。

 ニーナだ。


「よろしくね」


「あたしはニーナです。サラさん、よろしくお願いします」


 ほほ笑むさらにニーナが微笑み返した。

 続いて、傷を負っていない者たちが次々と協力を申し出る。


 その様子に安堵した図南が、


「これから盗賊たちの治療をします。治療と同時に拘束もしたいので手伝って頂けますか?」


 比較的怪我が軽くすぐに動けそうな冒険者に声を掛けた。


「勿論だ、手伝わせてもらうよ」


 冒険者は図南に承諾の返事をすると、同じように怪我の状態が軽い仲間たち数人に声を掛けた。


 ◇


 図南は苦痛に泣き叫ぶ盗賊の一人に近づくと、殊更に冷ややかな視線を投げかけた。


「いまから治療をしてやる」


「頼む、もうしねえ、もう盗賊なんてしねえから、た、助けてくれ」


「治療してやるが、拘束するのが先だ」


「もう抵抗しねえ、だから早く治療を――」


「俺はお前たちを『悪』だと断定した。掛ける情けは最低限だと思え」


 懇願する盗賊を突き放した。

 それでも痛みを感じないように鎮痛の魔法で痛覚を麻痺させる。そして、冒険者が盗賊の拘束を終えると、すぐに盗賊たちの治療に取り掛かった。


「お前の吹き飛んだ脚はこれで間違いないな?」


「お、俺の脚だ」


 図南が手にした脚を見た盗賊がすぐ激しく首肯した。

 

 部位欠損の再生がどこまでできるのか……?


 ここまでの魔法の検証と実践で部位欠損が直せると判断していたが、それでも図南は祈るような気持ちで神聖魔法を発動させる。

 魔弾によって吹き飛ばされ、骨と肉があらわになった大腿部と吹き飛ばされた脚。その損傷個所が一際強い光に包まれた。


 大きな血だまりを作っていたほどの出血が瞬く間に止まり、失われた大腿部から組織が再生する。再生された組織は吹き飛ばされた脚へと達っする。

 その場にいた誰もが絶句した。


「脚を動かしてみろ」


「あ、ああ」


 図南の言葉にうなずいて盗賊が吹き飛ばされたはずの脚に力を入れる。すると盗賊の脚は当たり前のように動いた。


「奇跡だ……」


「こんな魔法、初めて見た……」


 図南を手伝っていた冒険者たちの言葉に続いて、盗賊がむせびび泣きながら叫ぶ。


「動く、動くぞ!」


 泣きじゃくりながら感謝の言葉を口にする盗賊を地面に転がした図南は、痛みすら忘れて茫然とこちらを見ている盗賊の下へと歩を進めた。

 その後も神聖魔法を使って次ぎ次ぎと盗賊たちを治療していく。その様子に冒険者たちと盗賊たちの双方が驚愕する。


「次に行きましょう」


「少年、魔力は大丈夫なのか?」


 治療に付き添っていた冒険者の言葉で、自分がまだ名前すら名乗っていないことに気付いた。


(俺も相当、慌てているようだな)


「問題ありません」


 即答すると、次いで、自分の名前がトナンであると告げた。


「その……、要らぬ心配かもしれないが、万が一、魔力切れを起こしたりしたら半日は動けなくなるぞ」


 躊躇なく次々と神聖魔法を使い、聞いたこともないような速度と精度で治療していく図南に畏怖したのか恐る恐る聞いた。


「俺、魔力は普通の人の倍以上あるから大丈夫です」


「倍以上……? 倍以上どころか……、いや、やめておこう」

 

 既に冒険者の知る神聖魔法の使い手が治療できる人数を大きく超えていた。その事実に好奇心が刺激されたが、要らぬ詮索になる、と冒険者はそれ以上口にするのをやめた。


 図南は冒険者の反応で己の迂闊さを気付かされた。

 この世界の住人のHPやMP、スキルがどの程度のものなのかを先に確認しておくべきだった、と激しい後悔の念が襲う。


 図南は治療を行いながら、異世界の住民を次々と解析していく。

 知らないはずの情報、特に名前を迂闊に口走らないよう、半透明のボードにあるHPとMP、スキルの項目だけを見るよう努めた。


 結果、この世界の住人のHPとMPは100前後であるとの結論に達した。

 冒険者や盗賊は比較的HPもMPも高い。特にHPは、何れも100を超えていた。中にはは100代半ばの者も少なくい。


 HPと異なりMPは個人差が激しかった。高い者は200を超えているが、低い者は50にも満たない。

 それは冒険者、盗賊、非戦闘員である隊商の人々の別はなかった。


 それでも最もMPの高い者でも200を超える程度である。

 図南は自分と紗良のHPやMPが如何に異常なものなのか改めて認識していた。


 そのとき、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。


「おーい! 図南ー!」


 声の主である拓光が手を振っていた。その声と姿に図南はどこか救われた思いで手を振り返す。


「拓光ー! ここだ!」

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