報道の自由と名誉棄損
「こんにちは。前回、予告してた通り、今回は報道の自由と名誉棄損についてです」
「後輩君、後輩君。これって難しい話じゃないの?」
「いえ。そんなに難しい話じゃないみたいですよ」
「それってどういうこと?」
「結論から言うと報道の自由よりプライバシーの保護の方が優先されます」
「ええ! それって変じゃない。だって、不倫報道とかすごくされてるよ」
「そうなんですけどね」
驚きながらも僕に疑いの目を向けてくる、先輩。
僕は苦笑しながら話を続ける。
「どのような時でも他人の名誉は傷つけてはいけません。ただ、それでは報道できないことが多いので例外規定があるんです」
「へえ、どんな内容なの?」
「えっと、こんな感じです」
刑法第230条の2
1.公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める
場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2.公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実と
みなす。
3.公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、
真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
「う~ん。どういうこと?」
「1を簡単に説明すると『公共に有益なことまたは損害を与えるようなことであり、それを知らせることが国民にとって利益であること、そして、真実かそうと思われるときはこれを罰しないという』と言うことです」
「不倫の場合は、まず、公に有益なことではないわよね。でも、害とも言えないんじゃない? あと、それを知らせてわたし達に何か得があるかなあ。最後の真実は当てはまるのかあ」
「そうですね。わたしも公共の利害があるとは思えないし、目的は雑誌を売る為であって公益についてなんてちっとも考えてないように思えますね」
「ならなんで?」
「なんでなんでしょう。影響力のある芸能人が不倫をすることによって世間に不倫が蔓延するとでも思ってるのでしょうかね」
「いや、流石に無理があるんじゃないかなあ」
「そうですね。僕も無理があると思います」
「2はようは犯罪者の事実の報道は罰しないよと言う意味です」
「えっと、不倫って犯罪じゃないって前に行ってたよね」
「はい。だから、2は当てはまらないです」
「3は公務員や政治家及び候補者は真実であると証明できるのなら報道しても名誉棄損にはならないよと言うことです」
「これも違うよね」
「これにはマスコミ側の屁理屈が少し入ります」
「どういうこと?」
「準公人なんて言葉があるんですよ」
僕は盛大に溜息を吐く。
「なにそれ?」
「公人の解釈にその人の生命・生活や行動が、公共の利益や安全に大きな力や影響を持つ有名な人であれば公人であるって言うのがあるんです」
「それに芸能人が当てはまるっていうの?」
「はい。僕に言わせれば影響力はあると思いますが、『公共の利益や安全に』ってところは当てはまってないと思うんですよね」
「そうね。普通の俳優さんや芸人さんは政治的な話なんてしないもんね」
「まあ、核問題とか大麻の合法化とか政治活動を始めている人はそこに入れてもいいと思いますが若手俳優とか政治的影響力ないと思うんですよね」
「確かにあの俳優に野党に投票してくださいと言われてもどれだけ票が動くか疑問だよね」
「ただ、某男性アイドル事務所が総出で○○党を応援しますとかCMしだしたらわかんないけど」
「うわぁ。ありそう」
「ただ、政治には関わるとしっぺ返しが怖いから、あの事務所はそんなことは絶対にしないでしょうね」
「結構、芸能人って大変なのね」
「よく気軽にそういう問題についてコメントして事務所に怒られた話は聞きますからね。すごく注意してると思いますよ」
「それなのに準公人扱いと言うのは酷い話ね」
「よっぽど、政治的な話をしている報道記者の方が公共に対する影響力があると思うんですよ」
「そうよね。あれ? 報道記者は準公人にはならないの?」
「そこは自分は有名人ではないのでと言う言い訳があるんです」
「なにそれ、ズルい」
「そうズルいんですよ。と言う訳で、名誉棄損の例外は当てはまらないと考えられるんですよ」
「だったらなんで訴えないの?」
「それは簡単です。訴えても得がないからなんですよ」
「訴えたら勝てるんだよね」
「全部が全部と言えませんが勝てる確率はかなりあります」
「じゃあ、なんで訴えないの?」
「まず、裁判で勝ったら何が得られると思います?」
「お金?」
「はい。あとは出版物の差し止めですかね」
「何言ってるのもう雑誌が発売されてて差し止めなんでできないでしょ」
「はいだから意味がありません。やってくれるのは小さい謝罪文が載るくらいです」
「それはひどい」
「あと、お金も割にあいません」
「どれくらいとれるの?」
「過去の判例だとジャニーズ元社長が事務所に所属する少年らにわいせつ行為を繰り返しているなどと報じたことに対して1億700万円の損害賠償を請求したけど請求認容額は880万円だったらしいよ」
「それって、多いの少ないの?」
「全然少ないと思いますよ。今回の騒動での損失は億単位らしいですから1千万円くらいなら意味がありません。あと、1千万円ぐらいならこの問題での雑誌売り上げ、ワイドショーの二次利用料なんかで利益が出てるんでしょうね」
「うわあ、なんか酷い」
「そうなんですよ。だから、訴えない。それと訴えた時のデメリットもありますからね」
「デメリット?」
「はい。不倫をしたのは事実ですからね。不倫してたくせに訴えるなんてなんて恥知らずなんだっていう人がいる訳ですよ」
「うわあ、でもその気持ちはわかるかも」
「芸能人は人気商売ですからね。これ以上、見苦しい真似はあまりできないわけですよ。映画とかで散々宣伝してもらってたわけじゃないですか。散々メディアを利用してきたくせに損すると文句を言ってくるのかとか言う訳ですよ」
「そっちも勝手に持ち上げておいて落としてるのに?」
「掌返しはマスコミの必殺技ですからね」
「可哀そうに今後どうなるんだろう?」
「あの俳優クラスだとこのままいなくなっちゃう可能性の方が大きいかもしれませんね。別に好きでもないですけどこんな事には負けて欲しくないですね」
「わたしは当分見たくないけど」
「女の人ってこういう所、潔癖な人多いなあ」
「何か言った?」
「いえなにも」
僕はそっぽを向いてしらを切った。
先輩は僕をジト目で見てきたが僕は咳払いをひとつ。
「どうせなら思い切って訴えて欲しいものですね。そして、裁判所もドーンと賠償金を出すようにすればもう少し真面な報道が出来るようになると思うんですけど」
「でも、それをすると報道の自由が規制されるって話になるんじゃないの?」
「メディアはそう言いますね。だけど、今回のは芸能人の不倫問題です。そこは判決で不倫報道は名誉棄損の例外規定に当てはまらないって前置きすればいいと思うんですよ。仲間意識で何でもかんでもかばい合ってるからマスコミ不信につながるってことをいい加減気付いて欲しいですね」
「雑誌や新聞売れないってよく聞くもんね」
「身内カワイイをしていたつけですね。いままでテレビや新聞しかなかったですが、今ではネットの普及でスピードでは絶対に敵いませんからね。勝てる要素は信用なのに身を守る為や主義主張を守る為にそれを失っていては本末転倒なのに。まあ、気付いてても大きな組織になるとしがらみとかで実行に移せないんでしょうね」
「なんか後輩君が真面なこと言ってる」
「僕はいつでも真面ですよ!」
「「では今回はこの辺でバイバイ」」
これで、とりあえず終わりです。
ただ、あと一回番外編を書こうと思っていますがまだ書いてないのでいつ投稿するかわかりません。
感想などあったらよろしくお願いします。