損する人について考えてみよう
「前回、予告し忘れたけど今回は――」
「損する人?」
「まあ、前回が得する人だったんでそうなりますね。じゃあ、誰が損をしますか?」
「当然、当事者ね」
「そうですね。仕事がこなくなった上に、億単位の損害賠償受けるんですからね」
「何億円って、よくテレビで見るけど、本当にそんなに請求されるの?」
「あくまでも推定ですからそこまではいかないのかもしれませんけど結構高いのは本当らしいですよ。まあ大きい事務所だと後釜を自分のところから出して被害を最小限に抑えたりするらしいですけど」
「それって、全額本人が払うの?」
「ケースバイケースですね。事務所が全額負担するところもあれば、立て替えてはくれるけど分割でも全額払え、なんてところもあるらしいし」
「それだけの額、個人で払えるって芸能人って儲かるのね」
「そんなに儲かってるのは一部なんだろうけど。まあ、ギャラが高いからその仕事がダメになった時の損害賠償も高いってことなんじゃないかなあ」
「そうよね。出演料が10万円で損害賠償が1億円じゃあ割にあわないもんね」
「まあ、そのことは置いといて他に損する人は?」
「えっと、そうなると所属事務所もそうね」
「損害賠償金を立て替えないといけないし、その人がやる筈だった未来の収入もなくなる。あと、意外に大きいのが信用かなあ」
「信用?」
「はい。管理責任ってよく言うじゃないですか。オタクは俳優の管理も出来ないの? もしかして、他にも不倫してるタレントいるんじゃないの? って感じで」
「それっていいがかりじゃない」
「でも、疑われても仕方がないでしょ」
「まあ、そうなのかなあ」
「まあ、所属事務所はこの辺で。他には」
「その人が出演してる作品のスタッフや共演者?」
「そうですね。降板騒動にならなかったみたいだから被害は最小限に抑えられたんだろうけど、もし降りることになってたら、代役で取り直しですもん。それで他にはどうですか?」
「CMのスポンサー」
「そうですね。新しいCMを一から作り直さないといけないわけですよ。それも短期間で」
「なんで短期間なの?」
「今まで流してたCMが流せないわけじゃないですか。ドラマとかのスポンサーになってお金は払ってるのにCMは流せない。宣伝できないのにお金だけ払わないといけないわけです」
「そんなことになるの?」
「だって、テレビ局側に落ち度はないわけですからお金は払って貰わないとテレビ局側が困るでしょ? 番組を中止にするわけにはいかないし」
「でも、その間もCM流れてたような気がするけど?」
「同じ会社の別の製品のCMが流れてたんじゃないかなあ。もしかしたら、別のスポンサーと入れ替えてたのかもしれないけど」
「でも、大変なことはわかった」
「そう。大変なんです。だから短期で新しいCMを取り直すことになって、結果割高な料金がかかるわけです」
「時間はお金なんだね」
「はい。じゃあ他には」
「まだいるの? う~ん。あっ肝心な人を忘れてた。奥さんと子供」
「そうですね」
「奥さんと子供が一番の被害者だよ」
「そうですね。今回、下手すると奥さんの方が被害額が多いかもしれませんね」
「え? 違うよ。不倫がわかって奥さんがショックを受けてるってことでしょ」
「ああ、それもありますけど、どちらかと言うと今後の仕事の方が大きいんじゃないですか?」
「どういうこと?」
「えっと、芸能人ってイメージが大切なんですよ。いままで、いい奥さん、いいお母さん、幸せな奥さんってイメージでキャスティングされてた所もあるわけでそれが崩れたわけです。なんの落ち度もない奥さんを即降板させるのは企業のイメージが悪いからしないでしょうけど、次回はないんじゃないですかね」
「それって酷くない?」
「企業も慈善事業じゃないですから、イメージが合わなければ変えるのが当然です。それにCMだけじゃなくてドラマや映画の配役にも影響するかもしれませんね」
「別に離婚したからって演技が変わるわけじゃないよ」
「ええ、でも、見てる側としては不倫された奥さんが幸せ家族を演じてるところに違和感を覚えると思う訳です」
「ええ、そんな風に思うかなあ」
「僕は思わないけど、キャスティングする側は視聴者がそう思うんじゃないかと思って遠慮するもんなんですよ」
「なんか踏んだり蹴ったりね」
「その通りです。で、他に何か思い浮かびますか?」
「ええ、まだいるの」
「そうですね。浮気した人のファンは幻滅したわけで被害者と言えば被害者ですね。あと、テレビ見てる人も不快な思いをしている人はいるでしょう。そういう意味ではその内、ワイドショーのスポンサーとかも被害者になるかもしれませんね」
「あれ? 前回、得する人の時に何か言ってたよね」
「はい。これは個人的見解なんですけど。不倫したのは悪いけど、何億円も払わされて仕事もなくなる。そこまで酷いことしたのって意見が多くなってきたような気がするんですよね」
「そう? 不倫なんて最低だよ」
「まあ、そうなんですけど。よく考えてください。浮気された挙句、旦那は職を失い、損害賠償で借金を背負い。離婚しても財産分与も慰謝料も養育費も期待できなくなる。その上、同情はされるかもしれませんが女優としての今までのイメージが崩れ。いままであったCMや仕事が減って収入が減る。一番の被害者である奥さんが一番不幸になるわけです」
「うわぁ。そう考えると酷い話よね」
「そうでしょ。それで得してるのは報道してる側だけ。まあ、薄々気付いてるんだろうけど、見て見ぬふりしてた人たちがそろそろ見過ごせなくなってきてると思うんですよ。その証拠に最近、不倫は悪いけどここまで責められることなのかってコメンテーターが言えるようになって来たじゃないですか」
「まあ、炎上してたけどね」
「でも、前はスルーされてたのが話題になるようになった。これは変化の兆しかも知れませんよ」
「そんな物かなあ」
「まあ、わかりませんけどね。と言う訳で、今回はこの辺で」
「次回はどうするの?」
「う~ん。ちょっと法律の方からアプローチしたいと思ってます」
「後輩君にそんなことできるの?」
「えっと、少し勉強してみます。検討違いなこと言ったらごめんなさい」
「まあ、そこは先輩のわたしがどんと受け止めてあげるから大船に乗った気でいていいよ」
「うわぁあ。不安だなぁ」
「何か言った?」
「いえ。心強いです」
「よろしい」
「「では、また次回」」