モヤモヤするんです
これは不倫を肯定も否定もする話ではございません。
ゆるい先輩と後輩の会話劇です。
ただ、不倫問題に嫌悪感があるお方は読まない方が良いかもしれません。
そんなに深い話は出ませんけど……
「何かわたしモヤモヤするんです」
「どうしたんですか、先輩? また、突拍子のないこと言い出すんじゃないでしょうね」
大きな溜め息を吐きながら胡乱な目を先輩に向ける。
先輩がこんなことを言い出すときはろくなことじゃない。
「もう、そんなこと言わないの! 先輩の言うことは素直に聞くのが後輩のお仕事なんだよ?」
小首を傾げながらそういう先輩は非常に可愛かった。
悔しいがここは惚れた弱みである。どうせ、くだらないことだろうけど話を聞くくらい大したことじゃない。いい暇つぶしになるだろう。
ちなみに、先輩はサラサラの黒髪が綺麗なお嬢様系美少女である。
不思議なことにふんわりして会話のテンポが遅いからか、みんなには口数の少ない文学少女だと思われている。
確かに進学校である我が校で学年でトップレベルなので優秀なのは、間違いないが、結構、残念なところがあるのだ。
しかし、そんな先輩の意外な一面を見られる僕は少し優越感を抱いている。
と話が逸れてしまった。
本題、本題。話の続きを促してみる。
すると
「最近、ワイドショーとかで不倫問題とかやってるでしょ?」
「ああ、奥さんも女優でその奥さんが妊娠中に共演中の若手女優に手を出したって話ですね」
「随分詳しいのね」
ジト目で睨んでくる先輩にから笑いしながら言い訳する。
「いまワイドショーで一杯やってますからね。それぐらいの情報はありますよ」
なんてことを言ってみたが、実は結構なゴシップ好きだ。人の不幸は蜜の味なんていうからね。他人事ならこの手の話は面白い。当事者になると途端に厄介になるのが恋愛ごとなのだが……
「まあ、そう言うことにしといてあげる。ところで本題。わたし、不倫はダメだと思うんだけど。なんでこんなに言われなきゃいけないのかなあって思うの。これって何かの陰謀なんじゃないかなあ」
ああ、また先輩が変なことを言い出した。
僕は気付かれないように軽く天を仰ぐ。
「ほら、こういうゴシップが出る時って実は政府で何か重大なことが起きててその話題を逸らすためって言うじゃない」
上目遣いでこちらを覗き込んでくる、先輩。
可愛くて軽くくらくら来るけどそんな場合ではない。
僕は軽く咳払いして気を取り直すとしごく当たり前の回答をする。
「そんなことないですよ。文〇砲で不倫ネタは鉄板じゃないですか。これがメインです。その証拠にワイドショーが連日やってるじゃないですか」
「でもさ、不倫ネタって何が面白いの?」
「えっ? 面白く――そうですね。あんな記事読んで面白がってる人の気が知れませんよね」
「わたしもそう思うの。不倫するなんて最低だと思うけど。こんな事、世間に公表されて奥さんも傷付くし、何より子供が可哀そうだと思うの。記事っていつまでも残るものじゃない」
先輩は悲しそうな顔でそう言った。
うん。咄嗟だったのでボロが出そうだったけど何とか誤魔化せたみたいだ。
いまの回答は先輩的に好印象だったみたいだ。
ここで素直に答えていたら先輩に軽蔑の眼差しを向けられたかも………
まあ、それはそれでよかったかも。
ぐふりと気持ちの悪い笑みが浮かびかけたが、何とか頬を叩いて堪える。
「どうしたの突然?」
「大丈夫です。気にしないでください」
「でも」
「ごほん。それより、何んで不倫ネタがこんなに盛り上がるかですね」
「あれ? そんな話だった?」
「と言う訳で次回は不倫報道で得する人について考えてみましょう」
「どうしたの突然。後輩君、頭、おかしくなった?」
「気にしない、これは大人の事情です」
「と言う訳でまた次回お楽しみに。ほら先輩も」
「お楽しみに?」
何やら腑に落ちない顔で手を振っている先輩、カワイイなぁと思いながら僕は満面の笑みを浮かべて手を振るのだった。
つづく