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王道ヒロイン

…眠っている。

俺が起こすべきなんだろうか。


正直、元気に眠っているなら放置していていい気がする。

起こすのも悪いし、それにほら、現場保存?って大事だと思うし。


今の俺的には、この王道ヒロインよりも気になることがある。


右手をまじまじと見てみる。


さっき、この手から剣を出して、さらにしまったよな…?

つまり、魔法を使ったってことか?



俺が手をグーパーしてる間に、レスターが王道ヒロインに駆け寄ってきた。

体を少し起こして、呼吸や怪我の確認をしている。


レスターが後始末をしてくれるなら、任せてしまっていいだろう。


よしっ、じゃあ、もう一度剣を出してみよう!

右手に力を込めてみる。


………。

何か違うらしい。


さっき出した時は、剣を使うことを考えていたな。

イメージが大事ということか。


(俺は、剣を使う!)


………。

ダメだ。


具体的にどう使うか考えないとダメなのか?

じゃあ、とりあえず剣で何する?


辺りを見渡しても、瓦礫ばかり。

……。

切るつもりはないが、王道ヒロインを切るイメージでやってみよう。


(王道ヒロインを、切る!)


出たっ!

「う、んっ?」


俺が剣を出したタイミングと、王道ヒロインが目覚めたタイミングが同時になる。


目を覚ましたら、剣を自分に向けて睨んでいる男がいたら、


「キャーーーッ!」


まぁ、そうなるよな。


慌ててレスターが彼女をなだめる。


「大丈夫です。私たちはあなたに何もしません。」


王道ヒロインは震えながら、俺を指差す。

「な、なら、なんであの人は私に剣を向けてるの?」


レスターは俺を振り返り、俺が彼女に剣を構えてる姿に驚く。

すかさず、彼女から離れて俺の隣来た。


「殿下、この娘は敵ですか?」


い、いや。

敵ではない。

俺はこの女が敵なんかではなく、誰かに勝手に異世界召喚されたことを知っている。


だが、剣を出す練習をしていたとは言えない。

言いづらい。


確かに、客観的に考えると見た目は害のない娘に見える。

が、敵ではない保証はない。

だから俺が剣を向ける理由はなくもない。


すまん、王道ヒロイン。

この世界で唯一、お前の無実を知っているが、一旦不審者として捕まえさせてもらおう。


あとで必ず、解放していい物を食わせてやる。


王道ヒロインは俺とレスターを見ながら、震えて、泣いている。


うぅ、すまない。


「レスター、見た目に騙されるな。この女が敵ではない保証はない。」


レスターは俺を見たあと、王道ヒロインを見た。


「敵には見えませんが…。確かに何者か分からないうちに被害者と決められませんね。」

「ああ。」


王道ヒロインが泣きながら立ち上がり、俺たちのほうに近寄ってきた。

さっきまで泣いて震えていたのに、気を持ち直したのか、その瞳には意志がある。


「あ、あの。私はあなたたちの敵ではありません。家で寝ていて、気づいたら此処にいました。」


そう言って、もう一歩俺たちに近づく。


「お願いです。私を助けください。」


凛とした瞳は真っ直ぐに俺を見ている。

隣でレスターはゴクリと唾を飲み込み、彼女に目を奪われている。


流石、王道ヒロイン。

今の彼女にはスポットライトがあたり、まるで舞台のワンシーンのようだ。

白い寝衣は、清純を表し、まるで天使か聖女のように見える。

さらにここはドゥーマ教会の隠された部屋にあった魔法陣の上。

お誂えが過ぎて笑ってしまう。


「クッ。」


俺の漏れた嘲笑の声に、王道ヒロインは一瞬傷ついた表情を見せる。


だが、引かずにさらにもう一歩前に出た。

彼女はもう俺の真正面にいる。


潤んだ瞳を浮かべながら俺を見つめる。

そして、ひざまづいた。


「お願いです。私は敵ではありません。」



頭上に駆けつけた騎士たちの気配を感じる。

彼らもこの王道ヒロインの舞台に魅入られている。


これ以上突き放すのは、ここの王子として得策ではないだろう。


俺は出していた剣をしまい、彼女には何もせず去った。



背後で、レスターが彼女に駆け寄っていった。






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