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ルーベンの魔法

生き返った。

さすが王子、朝食も贅沢だ。

量より質に重きを置き、豊かな小麦が薫るパンに、色とりどりの野菜を使ったスープ、さっぱりとした柑橘風味のソースがかかったローストビーフ。

その他にも一口サイズの前菜が少し、もちろんどれも素材の良さを活かした味付けがなされている。


病院食とは大違いだ。

両親のおかげで、金のかかった私立の大病院に入院していて、公立の病院食よりは多少マシな食事だったとは思う。

が、所詮病院食、レパートリーも少なく十数年食べ続けるには辛い食事だった。


さて、食べ終わった後は何をするか?


「殿下、本日はドゥーマ教会の改築会議が昼からございます。それまではいかが過ごされますか。」

「剣の稽古を。」

「承知しました。」


せっかくの健康体なんだ、思いっきり運動してやる。

冒険は出来なくとも、剣や魔法はある世界なんだから。




カァーン

カ カ カァーン

カン カン キィーン


「はぁ、はぁ、はぁ」


息切れをしているのは、稽古の相手をしてくれている、騎士タジンだ。

タジンは騎士だけあって、ゴツい体格をしている。

そんな奴が息切れをしているのに、カインの身体はまったく悲鳴を上げていない。


身体は軽く、剣に触れるのは初めてなのに、タジンの剣筋が読めて、次にどう動くか考える前に身体が動く。


「さすが剣の神童、貴方にはまるで敵わない。」

剣を下ろし、汗を拭いながらタジンは俺を見た。


「第二隊長にそう言われるとは光栄だ。」

俺も剣を下ろし、レスターから渡された手拭いを受け取る。


ドンッ


突然、下半身に衝撃が走った。

見下ろすと泥だらけの顔をニッと向けたルーベンが抱きついていた。


「カインにーさま!」


抱きついたルーベンを引き離すと、ルーベンの手に付いていた泥が服にしっかりと付いていた。

目の端に青ざめた顔をして、引きつった笑顔を浮かべているレスターが映った。


「ルーベン、泥遊びか。」

「うんっ!あっちの中庭にたくさん動物やドラゴンを作ったんだよー!」


まだ6歳のルーベンは、子供らしく泥遊びが好きだ。

毎日泥だらけになって、侍女たちを困らせている。


「はっはっは!ルーベン様は元気いっぱいですな!」

「うんっ!えへへ」


ルーベンは嬉しそうに指で鼻を擦る。

泥だらけの顔にさらに泥が付いた。


「ルーベン様の成形魔法は素晴らしいと聞きます。作った動物たちはさぞや立派な出来栄えでしょう!」


左手に冷やりとしたルーベンの手が絡みつく。

泥で手が冷えてしまったらしい。


「カインにーさま、今日ぼく、初めての動物を作ったんだ!とっても大きいの!なんだと思う?」


おっと!難題だな。

さっきから、会話に困らない程度に記憶が戻ってきていてやり過ごせていたが、これはすぐには出てこなさそうだ…。

動物で、大きい。

熊やキリン、他には…さっきドラゴンとか言っていたが、俺の常識範囲外の動物もありえるのか?


「以前、ルーベン様が作られた熊やキリンは見事なものでしたね。あれ以上大きなものなんですか?」


レスター、ナイスフォロー!


「うん、そうだよ!でも、背はキリンよりちょっと低いかなぁ。」

「ゾウ?」


ルーベンの顔がパァっと明るくなる。


「正解‼︎」


ルーベンは手を引き、早く見てと言わんばかりに俺を引っ張っていった。



!!!


ルーベンに連れてこられた中庭には、今にも動き出しそうな動物たちで溢れていた。

色が泥色でなければ、本物に見まごう精巧さだ。


中庭の噴水を取り囲んで、手前からウサギ、でかい亀、鹿、、、いやユニコーンか?それに、猪、でかい鷲みたいなの、そして奥に飛び立とうしているドラゴンと鼻を高く上げたゾウが並んでいた。


圧巻。それに尽きる。


「おぉ!素晴らしい!」

そう言って、タジンは成形魔法がかけられた動物たちに近寄って行く。

ルーベンの侍女たちはドラゴンの隣で、居づらそうに待機している。


俺も動物たちを見ながら、ゾウに近づく。

ルーベンは一足先にゾウの側に行き、自慢げな顔を俺に向けている。


俺はでかい鷲みたいなのの前で止まった。

これだけ名前が分からない。

ただどこかで見た気がする。


「カインにーさまは、グリフォンが大好きだよね!」


グリフォン!

聞いたことがある。

確か、不思議の国のアリスだか、鏡の国のアリスに出てくる伝説上の生き物だったはずだ。

母親が俺に読み聞かせた数少ない童話の一つで、鷲のような分からない姿だけど、かっこいいと思い、気に入ったキャラクターだった気がする。


あまりに昔のことで、忘れていた。

カインもグリフォンが好きなのか。


「カインにーさま!グリフォンもいいけど、ゾウも見てー!」


ルーベンが顔を膨らまして待っている。

可愛い奴だ。


「わかった。」


ゾウは何やら嬉しそうな顔をして、鼻を高く上げている。

これも昔観たゾウのアニメを思い出す。

よく覚えてないが、ゾウが踊っていた映画だ。

そのゾウに似ている。


「すごいな。」

そう言ってルーベンの頭を撫でた。


ルーベンは嬉しそうに顔を赤らめた。


隣を見上げると、ドラゴンが前足を上げ、翼を大きく広げ今にも飛び立ちそうだ。

俺がゲームやアニメ、映画などで見慣れたドラゴンそのものだ。


本物のドラゴンが見てみたい。


「レスター、今日の会議の後はドラゴンの谷に行く。」


俺の後ろに付いていたレスターは予定表を確認し、うなづいた。

「承知しました。」


俺はルーベンの頭をもう一度撫でた。

「この調子で励め。泥遊びと言えど、魔法の練習になるからな。だか、今日はもう風呂に入って勉強の時間にするんだ。」

今度は目の端に、青ざめた顔をして、引きつった笑顔を浮かべている侍女たちが見えた。


タジンに振り向き、

「剣の相手、ありがとう。また頼む。」


タジンは居住まいを正し、礼をした。




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