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女神の計らい

章を分割しました。



『はぁ〜い!目が覚めた?美男子くん?』


目を開けると、ドピンクの髪色の派手な女が俺を覗き込んでいた。

服の面積は身体に対してかなり少なく、やたらと胸の大きさや腰のくびれなど身体の線を強調している。


『あらやだ。この私を見て、そんな冷めた目つきで私を見るのはあなたが初めてよ!』


確かに女慣れしていない男なら狼狽えるだけの美しさがある女だろう。

だが、俺は女というモノに対して憧れも恐れも何もない。


『まぁ、そうよねー。あなたって、前世がめちゃくちゃイケメンだったから、人生のほとんどが病室での暮らしでも、看護婦さんやら女医やら、患者さんたちが放っておかなくて、女に困ってなかったもんねー。』


彼女のいう通り、小さな頃から沢山の女たちにちやほやされ、身体が大人になってくると、こちらの都合お構いなしに襲われることも多々あった。

病弱な体だから抵抗も出来ず、次第にどうでもいいと思うようになった。

快楽を楽しむこともあれば、女の体を攻略してみたり、何も考えず一つ行為として流すこともあった。

女たちは行為の前、行為の間、行為の後にそれぞれのタイミングで俺に愛を囁いたが、どれも胸に刺さることはなかった。


『はぁ、イケメンって罪よねー。沢山の女たちを悩ませちゃって。私もこの美貌で沢山の男たちを悩ませてきたのよ♪』

『そんなことはどうでもいい。俺は死んだんだろう。』


目が覚める前の最後の記憶は、泣きながら俺に謝り続けた祖母の顔だった。

周りでは医師や看護師たちが慌ただしく延命措置にあたっているのが見えた。

苦しかった息がだんだんと楽になり、視界がぼやけていき、そのまま目を閉じた。

それが俺の最期だったんだろう。


俺の短い人生は、とてもつまらないものだった。

父親は海外のトップ映画監督、母親は日本の国宝と言われるほどの美人女優、2人の結婚は世界の注目の的だった。

結婚してすぐに母親は妊娠して俺を産んだ。

父親は映画の撮影が忙しく、育児に協力的ではなかった。

母親も始めは育児に意欲的だったが、産後すぐに女優業に復帰したため、育児はほとんど祖母に任せきりに。

俺が3歳くらいのときにはもう家族が揃うことがほとんどなくなり、両親はそれぞれ別のパートナーを見つけ仮面夫婦となった。

その後、俺の病が見つかり病室生活が始まると、各地で撮影をしていて忙しい両親とは会う回数がさらに減り、俺が死ぬ前の数年間は一年に1〜2度ほどしか会うことはなかった。

つまり、両親の愛情には薄く、女たちに付き纏われているからか同性の友人は皆無(いや、やたらと話しかけてくる男が1人いたか。変な奴だから無視してたが。)、娯楽はベッドの上でできるゲームとラノベとマンガのみ。

なんて、つまらない人生だ。


だが、死んだ俺の目の前には女神とも見れなくはない女がいる。

同情するような残念な人生を送り、転生を望んでいる俺がいる。

俺には死ぬ前の記憶が残ってる。

ステータスの見方やレベル上げの方法とかばっちりだ。

きっと、この女神みたいな奴は俺を勇者や魔法使いとかに転生してくれるに違いない!

最悪、スライム転生でもOKだ‼︎


『やはり、気付いていたのね…。では改めまして、私は女神カナン。あなたは死んだの。』

『あぁ。』

『あなたの前の人生は女には困らなかったけれど、あまり幸せな人生ではなかった。だから、次の人生では満ち足りた人生を送ってもらいたいと思っている。』


キター!

これは絶対転生フラグだー!


『そこであなたには異世界に転生して、新たな人生を歩んでもらおうと思う。そこは魔法が使える世界。今までの世界とはかなり違うわ。大丈夫?』

『知識としては、少し理解している。』

『そうよね。あなたたちの世界はそういうゲームとかいっぱいあるから、順応性が高いのよね!』

『俺も少なくはないゲームをこなしてきた。』

『安心したわ!これからあなたが行く世界もゲームを元にした世界なの!…でも、あなたがプレイしたことのないゲーム。でも、とてもよく知っているゲームだわ。』


俺がプレイしていないけど、よく知っているゲーム。

病室生活は時間が有り余っているから、正直かなりのゲームをプレイしてきた。

王道系はもちろん、マニアックなものも嗜んだ。

魔法が使える世界とすると種類は限られてくる。

そうなるとよく知っているのに、プレイしていないゲームはない気がするんだが。


『そのゲームは、「白薔薇のプリンス〜難易度Sで唯一の攻略対象、貴方は彼と恋に落ちれるか⁈」これがあなたの転生先よ!』


…………………。

…………………………。

………………………………。


状況がよく掴めない。

あの馬鹿女神は何と言ったんだ?


『聞こえた?大丈夫?確かに冒険とかない世界だけど、いいところよ!しかも、あなたはゲームのタイトルになってる難易度Sの白薔薇のプリンスなのよ!』


知っている。

白薔薇のプリンスを俺はよく知っている。

知りたくて知っているわけじゃない。

当たり前だ。


このゲームは、なぜか俺の人生にやたらと絡んできた。


まずは小学6年生のころ。

その時にはもう病室生活は始まっていた。

小児科の看護師の1人がこのゲームにハマっていて、俺が白薔薇のプリンスの少年期にそっくりだと言って、ゲームの話をよくしてきた。

白薔薇のプリンスは恋愛攻略ゲームには珍しく、攻略対象は白薔薇のプリンスただ1人。

プレイヤーは3人の主人公から1人を選んでプレイを開始する。

看護師は王道ヒロインを選択してプレイをしていた。

異世界に召喚された女子高生がプリンスに偶然拾われ恋に落ちていくというものだ。

難易度Sというだけあって、天真爛漫のヒロインを演じても、優しく接しても全然靡かないことを嘆いていた。


次にゲームが俺に関わってきたのは中学2年生。

ICUに運ばれたときに隣のベッドにいた同い年の女子がゲームをプレイしていた。

看護師の時と同じく白薔薇のプリンスが毒に侵されて苦しい表情を浮かべているスチルにそっくりだと言って話しかけてきた。

こちらは久しぶりに退院して病院食から離れて美味い飯を食べていたら、突然倒れて病院に舞い戻ってウンザリしているのに、その女子は俺に構わずゲームの話を延々としてきた。

ICUではゲームができないからか、始めから最後までじっくり、しっかり話された。

その女子は悪役令嬢を選択してプレイしていて、彼女のツンデレっぷりが可愛いとか、実は健気で悪役とは名ばかりの愛すべきキャラクターであることを熱烈に語った。

初めは悪役令嬢がなぜプレイヤーとして成り立つのか不思議だった俺も話を聞いて、少し納得したものだ。


三人目のキャラクターをプレイした人が現れたのは、その一年後くらい。

隣の病室の親父さんの娘だった。保育士をしていて、いつも面会時間ギリギリに駆け込んでくる。

だが、大抵親父さんは気に入りのバラエティ番組を見ていて娘は放ったらかし。

そうすると俺に話しかけてきて、仕事と看病の間に楽しんでいる白薔薇のプリンスの話を聞かせてくる。

きっかけは他2人と同様、俺が似ているからだ。白薔薇のプリンスに。

三人目のキャラクターは、ヒロインよりも早くに転生して白薔薇の世界に来ていた女子高生で、ひょんなことから王妃に気に入られ侍女として王宮に仕えている。

すごく冷めた視点でヒロインと悪役令嬢を見ているうちにプリンスの良さに気づいて…という流れでプレイヤーとなる。

保育士はリアリティがあるところが良い!と言って、その良さを語った。


正直、彼女たち三人以外にもすれ違った女たちから「似てるー!」と騒がれたことも多かった。

男でも、妹がやってるゲームのイケメンだ!と言われることもあった。

どうやらこのゲーム、異色の設定と難易度Sで攻略不可能ということでかなり話題になっているらしかった。

実際、三人の女たちは攻略できていなかった。

俺が死ぬ少し前には、難易度Sに惹かれて男たちもプレイし始めたと聞いた気がする。

それでも人気だったのは、白薔薇のプリンスが魅力的で振られても何されてもカッコ良すぎたらしい。


あぁ、認めよう。

俺がよく知っていて、プレイしたことのないゲーム。

確かにあった。

一番、関わりたくないゲームだ。


『なぜだ?』

『ん?』

『なぜ、俺の転生先が白薔薇のプリンスの世界なんだ。』


聞かないわけにはいかない。

まったく意味が分からない。


『あなたはこの白薔薇のプリンスと同じ。難易度Sのイケメンだった。そして誰とも恋せず一生を終えた。』

『……。』

『でもね、あなたは知らないだろうけど白薔薇のプリンスはたった一度だけ攻略されたのよ。』

『それは知らなかった。…どのキャラクターに?』

『秘密。教えたらつまらないでしょ。』


嫌でも耳に入ってきた白薔薇のプリンス。

まさか攻略した者がいたとは。


『攻略。つまりは恋をした、ということ。私、あなたには冒険よりも恋することの方がずっと必要だと思うの。』

『どうかな?そう思ったことは一度もないが。』

『きっと、恋に気づいた時に私に感謝するわよ。』

『はぁ。いずれにせよ、白薔薇のプリンスに転生することは不可避というわけだ。』

『そう!さぁ、楽しんでらっしゃい!』


そう言うと女神は俺の肩に手を当てて、トンッと押した。





目が覚めると、見知らぬ天井があった。


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