終電
友人を乗せた電車を見送り、青年は一人ホームでぼんやりとしていた。
先程の電車は終電、当然周囲には誰もいない。
研究室に戻りたくなくてホームのベンチに腰を下ろした。
閑散とした風景に、何故か無性にむなしくなり青年の目に涙がにじんだ。
研究室に戻らなければいけない。
誰もいない研究室に…
青年が研究室に一泊する羽目になったのは至極単純な理由だった。
学会が間近に迫っているというのに、自分の不注意で実験に失敗したのだ。
当然、手順を間違えた実験では、有用な結果は出てこない。
本来なら実験結果が思わしくなくとも、実験結果の考察を発表すればいい。
しかし、それは正しい実験が行えていたらの話だ。今回の実験結果は使えない。
実験をやり直し、データを収集しながら学会の発表資料の作成もしなければ。
ここで家に帰っていては圧倒的に時間が足りないのだ。
自分の現状に、滲んでいた涙が一筋頬を流れた。
「すみませんが駅を閉めますので外に出ていただけますか?」
いつの間にか数十分ほど時間が経っていたらしい。
現実逃避に。
慌てて涙をぬぐい、ベンチから立ち上がる。
「すみません。すぐに出ます」
ポケットから切符を取り出し改札に向かう。
夜遅くまで友人が手伝ってくれたため、一応実験の仕掛けは完了している。
夕飯を買って戻り、資料作成がてら少しでもデータをとらなければ。
そうは思うものの階段を上る足取りは重い。
家に帰って眠ってしまいたいと思う。
「夜遅くまで大変だね。終電にのって帰る学生さんはたまに見るけど、
泊まりがけの子は久々にみたよ。
まあ、研究室に泊まるような子はそもそも駅まで来ないんだけどね」
前を歩く駅員が少し冗談っぽくそう言ってきた。
確かに。終電で帰らないだけならまだしも、わざわざ駅のホームまで来たのに
電車に乗らずに研究室にとんぼ返りするのは珍しいだろう。
「泊まり込みなんて本来はよくないんだろうけどね。
さすがに徹夜ではないんだろう?」
「徹夜ではないですけど家でゆっくり休みたかったですよ」
他にも暖かい布団で寝たい、研究をだれか代わりに進めておいてくれないか等
青年の口からは次々に愚痴が出てくる。
駅員は時々相づちを打ちながら前を歩いて行く。
愚痴が出るにつれ青年の歩く速度は速まっていった。
「無理はせず、ほどほどのところで寝るんだよ」
改札を出る青年に駅員はそう言いながら自分も改札を出た。
構内を見回ってから駅を閉めるのだろう。
駅をでて近くのコンビニに向かいながら青年は自分も頑張ろうと前をみた。
短く、まとまりのない文章になってしまった。
次はもう少しプロットを練りたい。
By 連盟員C