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秘密基地

俺は最近、手鏡を携帯するようになった。


俺に見えているものと、普通の人が見ているものを識別するためだ。


手鏡は現実以外の物を映し出すことができない。つまり手鏡に写っていなければ、俺にしか見えていないというわけだ。






今俺は自室のドアの前に立っている。なんの変哲もない開き戸だ。ドアノブが2つあることを除けば。


一般的に、ドアノブは扉の左端にある。ドアノブをひねり、自室側にドアを引き込めば扉が開くのだ。


右側についているドアノブはというと……そう、手鏡に映らない方のドアノブだ。


これは俺にしか見えないし、もちろん俺以外の人間が触れることはできない。家族がこのドアノブにておかけたところで、ただの扉板があるだけだ。


このドアノブは半分、アクシデント的に作ってしまったものだ。


そう、みんなお馴染みのドコにでも行けるドアを試していたんだ。






このドアノブを握って扉を空けた先は、変わらず自宅の廊下に繋がっている。


ドコにでも行ける扉は失敗だった。しかし、そのかわりに思わぬ副産物が生まれていた。


この扉の先は、現実とは違う地球に繋がっているのだ。


パラレルワールドとはちょっと違う。


この扉の先には、現実と寸分違わずまったく同じ世界が広がっている。ただし、人間は俺以外に存在していない。


動物や鳥、昆虫はいるし、植物も同じ様に咲き誇っている。しかし、人間のみはどこに行っても人っ子一人見当たらなかった。


地球の裏側まで確認したわけではないが、数日探索した結果誰もいないと結論した。


カフェには飲みかけのコヒーが机に取り残され、駅前には扉の開け放たれたタクシーがたたずんでいる。


まるでつい先程まで誰かが乗り込もうとしていたかのうようだ。


誰もいない交差点では、信号機が今も律儀に交通整理をしている。人がいないせいか、カラスが我が物顔で信号機の上に止まっていた。


整備された町並みにそぐわないほど、動物を見かけた。首輪をしており、明らかに飼い猫・飼い犬だったであろう動物が野生化しているのだ。


「電気は点くな。水道もでる。どーいう仕組みなんだろう。」


自宅の電化製品は問題なく動いた。


発電所は自動運転なのだろうか?人間がいなくても動いていられるものなのだろうか?


謎は深まるばかりだが、考えても分からないので仕方がない。


食べ物に関しては、しばらくしたら腐ってしまった。異臭が鼻につくので俺の力アーツで片っ端から消して回るのに苦労した。


冷凍保存されている物に関しては、電気が通っている限りは半永久的に残りそうだ。まあ、俺はアーツで新鮮な食べ物を作れるので問題はないが。






この世界はネットゲームで例えるならば別のチャンネルや別のサーバーということになるようだ。


現実世界が1chなら、ここは2ch世界といったところか。


ここ2ch世界は俺の避難所兼隠れ家として使うことにした。拠点探しに頭を悩ませてはいたから好都合だった。


もともとは、海底や地中にシェルターでも作ろうと考えていた。でも、何かの間違いで発見される危険性は0ではなかったし、躊躇していたのだ。


それに、光の届かない海底や地中はなんだか息苦しそうだったから気が進まなかった。人は日光を浴びて生活するようにできてるからね。


そんな悩んでいる時に転がり込んできたのが、この超優良物件だ。いや、物件なんてちゃちな物じゃないな。この世界まるまる俺のものなんだ!


もうアーツの実験にも人目を気にする必要はない。わざわざ宇宙の果てまで行ってコソコソすることもない。


おまけに、ちょちょいと手を入れて住心地を整えた。


2ch世界に居ても、現実世界のネットやテレビが見れるのだ。現代っ子ちゃんの俺にはこれがない生活なんて考えられないからね。











「しかし、これって絶対におかしいよな~。」


俺は今、ホワイトハウスの大統領執務室でココア片手に足を伸ばしている。


「最初からおかしいと思ってたんだ。出来すぎている。」


当初はチワワようにビクビクしていたが、最近は少し行動が大胆になってきた。もちろん、2ch世界だけの話だが。


「俺ってアメリカなんて来たことないもん。というか、これってそういう規模じゃないよなあ。」


俺が今考えているのは、2ch世界の創造主についてだ。


はじめから分かっていたが、俺がここを創ったわけではない。世界をまるまる複製するなんて真似は、俺にはできるはずがないのだ。


アーツの性質上、一度も訪れたことのないアメリカの町並みが精巧に再現されているのは、どう考えてもおかしいのだ。


百歩譲って、ここホワイトハウスは映画やニュースで目にすることが多いので再現は可能かもしれない。しかし、アメリカの地方都市まで正確に把握はしていない。


いや、アメリカだけじゃない。世界各国の俺が見たことも聞いたこともない国々が、この2ch世界には完璧に複製されているのだ。


もう一度言うが、俺の頭の中にない情報をアーツで再現することはできない。


「いや、それも正確じゃないな。アーツは俺の知らない情報を勝手に補完している。」


1万円札を複製するときもそうだった。俺は別にデザインの隅々まで理解しているわけではないが、簡単に複製することができた。


はじめは、目に入った情報を無意識下で脳がスキャンして再現していたのだと考えていた。しかし、その理論ではどうしても辻褄の合わないことが多かった。


例えば、空中浮遊だ。重力に逆らうかのような俺の浮遊術は、もちろん俺にその仕組を説明する術はないし、世界中の科学者が頭を揃えても無理だろう。


しかし、現実にはできてしまっているのだ。


俺の宇宙旅行は言わずもがな。あらゆる物理法則や自然現象を無視し、太陽系の外側まで到達した。それも部屋着でだ。


そんなことは、この先どれだけ科学が進歩しても実現は不可能だろう。


「考えられるとすれば……俺の知らされていない何者かの存在か。」


最初に会ったハクは先輩がいるって言っていたな。そしてその先輩も把握していない数多の先達がいるということだった。


「普通に考えたら、ここは先代の遺跡といったところかな。」


この予想はいいラインまで来ていると思う。


だが、謎はまだ多い。何せ、この2ch世界は俺が来た時点から始まったかのように真新しいのだ。


例えば1000年前の神様が創ったのならば、自動車なんて存在していなかっただろう。いや、俺の実家がある時点で10年以上前からこの世界があるとは思えない。


今は小奇麗な町並みも、誰も手入れしなければ数年もすれば草木が生い茂り、自然の生命力に覆われることになるだろう。


原発事故を起こしたチェルノブイリも、今や野生の楽園と化しているらしいし。


「他にも同じような世界があるのか?ここは2ch

どころか10000chくらいかも?」


そういえば、ハクと出会ったあの白い世界はどこだったんだ?ここのような別の世界?


天国とかあるのか?5次元とか6次元みたいな世界もあるのか?


ハクはどこに行ったのだろうか?まだ地球にいるのか?






俺が後継者を決めたら、俺はどこに行くんだ?






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