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コミュ力おばけ

そうそう、これを先に報告しておかないといけなかった。


俺はめでたく留年が決定し、早めの夏休みに入ることになった。しかし、今となっては自由に使えるまとまった時間ができたのはむしろウェルカムだ。


再スタートとなる秋学期までまるまる3ヶ月もあるので、俺の力について色々と実験ができる。はじめは人目に触れないように、慎重に動いていくつもりだ。


まずは、できるだけ現状の生活を維持していくことがベストだと思っている。宝くじに当たったからと言って、必ずしもすぐに仕事を辞めたり将来設計を変える必要はないのだ。


場合によっては、大学を中途退学するという選択肢もある。ハッキリ言って、俺の力を使えば一生生きていくだけなら不自由はないだろう。しかし、今すぐ結論を出す必要は無い。


『明日やれることは今日しない』が俺のモットーだ。とかカッコつけて言ってみるが、退学にともなうあれやこれやが面倒で考えたくないだけだ。


留年が決まった事を母親に告げた時、大泣きして大変だったのだ。父親は『俺にもそういう時期があった』と理解を示してくれたが、もし中途退学となったら母親をどう説得したらいいのか分からない。


朝になって母親とおはようと挨拶を交わした際に、涙がツウーっと流れたのを見て心が痛くなった。


俺の力をちょっと使って母親の精神を安定させ、落ち着かせたが、重苦しい雰囲気に耐えられずすぐに部屋に引き上げることにした。


やろうと思えば思考や記憶までコントロールし、退学を了解させることも出来るだろうが、さすがにそれは気が引ける。


そんなこんなで、もうしばらく現状に甘えようというのが結論だ。


家計に金銭的な負担をかけさせるのは思うことがあるので、いずれ何らかの形で返していこうとは思っているが(お金の複製はできないが……)。


それよりも、ちょっと厄介なことが舞い込んできた。











「オニーちゃん。」


コンコン。と俺の部屋の扉がノックされる。


「ちょっと買い物に付き合ってくれない?」


俺の返事を待たずに、声の主は勝手に入ってくる。


「今忙しいんだ。また今度な。」


「オニーちゃん、今、なが~いなが~い夏休みでしょ。忙しいわけ無いじゃない。」


それにね、と彼女は続ける。


「これ、オニーちゃんのためにも誘ってあげてるんだから。トモミさんへのプレゼントまだ用意してないでしょ?」


白羽凛シラハネリンは俺の母方の従妹だ。


彼女は両親の仕事の関係でずっと海外生活だった。いわゆる帰国子女というやつだ。母親は日本人だが、父親は向こうの人なので、ハーフでもある。


外人って血が濃いんだろう。見た目はほとんど外人だ。ただ、キリッとした力強い目元は母親似だ。


そんな彼女が、どういうことか、俺と同じ大学に入学することになった。自分のルーツの半分にあたる日本への興味が湧くことは自然なことではあるが。


ただ、彼女の両親は今も海外在住なので、親戚のうちに居候するという事になった。


説明するまでも無いと思うが、智美ともみさんとは俺の母親のことだ。おばさんの事を名前で呼ぶのは海外の習慣なのだろう。


母親は、普段あまり呼ばれない名前に照れながらも、ちょっぴり嬉しそうだった。


「明日行くつもりだったんだ。ひとりで行ってきなよ。」


「何?私と一緒に歩くのが恥ずかしいの?カワイイー!」


リンは日本語はほぼ完璧に話せる。ただ、イントネーションは少し外人チックになることもある。


ちなみに、年齢はまだ17歳だ。彼女の育った国では小学校がはじまるのが1年早いらしく、一足早く今年で大学に入学することになっている。


若干、会話が成り立っていないように感じるのは性格なのか。海外では自己主張をしっかりしないと生きていけないらしいし。


「あたしも行くー!リン姉とお出かけ!」


バンッと扉を蹴破るように入ってきたのは、俺の妹だ。白羽柚衣シラハネユイ17歳、高校3年生だ。


2人は年齢は同い年なのだが、学年がひとつ上ということで『リン姉』と呼ぶようになっている。


「ユイちゃんグッモーニンッ!一緒に行こうね。でも、明日に予定は変更よ。」


「ちょっと待て。俺はまだ了承してないぞ。」


「お兄ちゃん良かったね!両手に花だよ!」


「女性のエスコートはマナーよ。明日は空けておいてね。オニーちゃん♪」


エスコートというのは、ただの道案内では済まない。サイフの準備はしっかりしておかないといけないだろう。


しかし、リンの言う通り母の日のプレゼントは必要なことではあるのは間違いない。特に、今回はやらかしたあとだしな……











明日のことは、明日考えよう。


それよりもだ。留年によってまとまった時間ができたのはよいが、リンが来たことでバレ回避の難易度が上がってしまった。


彼女は、秋期入学の予定なので、俺とおなじく3ヶ月近く暇することになるのだ。


彼女は日本のマンガやアニメが好きなようで、日中はほとんど部屋に閉じこもっている。だが、さきほどの様に唐突に現れ、勝手に俺の部屋に来ることがあるので要注意だ。


俺が力を使って札束を大量に作っているところを見られでもしたら洒落にならない。


別に彼女のことが嫌いというわけではない。


むしろ、彼女は美人の部類に入るし、あっけらかんとした性格の彼女とは一緒にいて楽しいとも思う。


どう接したら良いのか分からない。


これが本音だ。俺にも妹がいるし、同じ様に接すればいいのだろう。でも、従妹っていうのは法的には結婚できるくらいには、他人でもあるのだ。


こどもの頃に数回くらい会ったことがあるが、当時の記憶はほとんど無く曖昧だ。


そんな彼女が、いきなり同じ屋根の下で住むっていうのは、男としては意識しないという方が無理だ。


彼女はというと、人懐っこいというか、馴れ馴れしいというか、適応力があるというか、ほとんど知らない男をオニーちゃん呼びできるたくましさがある。


こっちに来たときも、空港でいきなり母親にハグしていたし、コミュ力おばけなのだ。


彼女いわく「向こうでは道ですれ違う人には、誰にでも挨拶するのが習慣なの。これには、不審者を避ける自衛の意味もあるのよ。私の場合はお喋りが好きなだけなんだけど!」ということらしい。


行き交う人のジャケットの裏に銃がぶら下がっているような社会では、挨拶によって相手が危険人物でないかチェックしているようだ。


まぁ考えてもしょうがないか……


両親は共働きだし妹も高校があるので、日中は2人きりだ。とはいえ、お互い部屋にいることが多い。俺の場合は気まずいからで、彼女の場合はマンガ・アニメに熱中しているからだ。


明日はオタクの聖地にでも連れて行ってやろう。






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