お金を作ってみる
色々と試した。結果として、俺は自分が全能のパワーを手に入れたことを受け入れることにした。
しかし、しかしだ。
これがまた厄介なもので、この力をどう使って良いのやら検討がつかない。
まず最初に試したのが、お金を作ることだ。
結論から言えば、うまくいった、俺の手のひらには、紛うことなき1万円札が2枚あった。
1枚は元々サイフに入れていたもので、もう1枚は複製したものだ。
しかしだ、そっくりそのまま複製した結果、記番号がまったく同じものが出来てしまったのだ。記番号とは『A123456B』といったアルファベットや数字で作られた管理番号のことだ。
お札は、それぞれ固有の記番号を持っている。このため、世界中に同じものはひとつとしてない。同じものがあるとしたら偽札ということになるのだ。
厳密に言えば、俺の作った1万円札は本物だ。
完璧なコピー能力で複製したので、2枚とも本物なのだ。しかし、まったく同じ記番号をもつことは許されていない。これが発覚してしまえば、俺はお縄頂戴となってしまうだろう。
いや、1ペアくらいなら、たまたま何かの間違いで記番号が同じになってしまったということも考えられるだろう。銀行に行って調べてもらえば、怪しまれても捕まるということは考えづらい。
しかし、これが3枚、4枚となったらどうだ?怪しすぎるだろう。
記番号を変えるという方法もある。しかし、日本中に出回っている1万円札に使われていない番号がなんなのかわからない。俺の力を使えば、日本銀行に忍び込むことも可能だが、どこで記番号を管理しているのか知らなければ意味がない。
それにだ、未使用の番号を入れたところでそれはそれで問題になる。作った覚えのない記番号のお札が出回ったら、国が調査に乗り出すだろう。
偽札でもいいんじゃね?という考え方もある。記番号以外は本物だし、知らぬ顔で使えばまずバレないだろう。
ここだけの話しだが、1枚だけ使ってみた。
コンビニでコーラとポテチを手に、複製した1万円札を渡してみたのだ。顔を隠すためにメガネとマスクをし、言い訳するように盛大に咳き込んでみたが、バイト君はまったく無関心でレジを通してくれた。
みごと、問題なく複製した1万円札を使うことに成功した。だが、罪悪感に苛まれてしまったのだ。
誰にもバレないからといって、やって良いことと悪いことはあるのだ。バレなければ盗みをして良いわけではない。複製とは言え本物のお金を払ったのだから、コンビニが損をしているわけではない。
しかしだ、お金を複製するという行為自体が悪いことなのだ。
そして、落ち込みながら家の玄関に手をかけたところで気づいたのだ。
わざわざ買い物する必要なくね?コーラとポテチを自分で作ればよくね?
本日2回目の落ち込みながら、複製元の1万円札を燃やすことにした。いや、お札を燃やすのは犯罪だから、コンビニに渡した物が本物だったことにしよう。
お金の問題については、もっと考える必要がありそうだ。
たしかに、食べ物や衣服といった物はいくらでも作り出すことができる。
しかしだ、車はどうだ?
もちろん、車を自分で作ることは可能だ。しかし、急に俺が車を持ったらどうやって買ったのか家族に問い詰められるのは避けられない。バイトで貯めたという苦しい言い訳に悩むことになるだろう。
それに、車を持つためには国への登録が必要になる。どこで購入したのか証明できなければ、盗難車と疑われてもおかしくない。
もちろん、俺はテレポートで移動ができるので、車なんていらないんだが。
しかし、この問題の本質はそういうことじゃない。
万能のパワーがあったとしても、うまく使わなければ生活に重大な支障をきたす可能性があるということだ。
下手に動けば本当に捕まってしまうだろう。
捕まらないように逃げることも可能だ。しかし、家にはいられなくなってしまう。家族と離れ離れになるのは嫌だ。最悪の場合は、それも仕方がないかもしれないが、今はまだそれは考えたくない。
誰か相談できる人が必要だ。でも、家族や友達には絶対に話せない。
どうすべきだろうか……