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平等と格差

こどもの頃の話だ。


俺は妹のユイを連れ近所の駄菓子屋さんにお菓子を買いに来ていた。お小遣い袋に入っていたのは、百円玉2つと十円玉が少しばかりだったが、こどもにとっては大金だ。


ユイに100円玉をひとつ握らせると、好きなものを買っておいでと送り出した。


俺はというと4粒入で20円のガムをひとつ購入し、見せ前でユイを待つことにした。




しばらくすると、駄菓子屋さんの奥から騒がしい声が聞こえてきた。ふと、なんだろうと目を向けると、ユイが4人ばかりの女の子に囲まれていた。


といっても決していじめられているという様子ではなかった。むしろユイは笑顔で楽しそうに談笑している。友達なのだろうか。




さらに10分ばかり外で待っていると、ガラリと扉が空きユイが出てきた。


何を買ったんだい?と聞くと、ユイは友達とみんなでもう食べちゃったんだと答えた。


俺はその時、そうかとしか思わなかった。


公園で遊んで行こうかと、立ち上がりそっとユイの手を引く。


すると、半開きになった駄菓子屋の扉の隙間から笑い声が聞こえてきた。『アイツほんとお人好しよね。アハハ。』











――見よ、わたしはあなたたちのため、天からパンを降らせる。


――朝昼そして夕に必要とするだけそれを集め、口にせよ。


世界の空に白く甘い食物マナを降り積もらせる。そして世界の人々の思考に直接呼びかける。


――もはや、あなたたちは飢えに苦しむことはないだろう。






食物マナは、タンポポの綿毛のようにふわりと漂いながら地を白く染める。まるで雪景色のような白一面だが、それに触れるとやさしい温かみを感じる。


かき集めた食物マナは、ギュッと固めることでパンの生地のような弾力を持つようになる。高高度の空から振らせることで適度な水分を含ませている。


おおよそボール1杯の食物マナを固めると、メロンパンサイズのパンになる。こどもは1つ、大人なら2つほど食べればお腹が満たされるだろう。


食物マナはそのまま食べると、モチモチとした食感でほんのりと甘く大福の皮のような味がする。


窯で焼けば芳醇なパンとなり、火にかけ水分を飛ばせば豆腐ハンバーグのような肉感をもつようになる。


ビー玉大に細かく千切って冷やすと、甘みがさらに増す。食感はザクザクとしており、スイーツとしてこどもだけじゃなく大人でも楽しめるだろう。


赤ちゃんや病人、老人などには水で溶いて飲ませれば、ミルクの代わりになる。栄養が豊富で体の芯から活力をもたらす万能の薬だ。


もちろん、他に食材があれば一緒に調理したり味付けを加えて美味しく頂くことも出来るが、食物マナだけでもそう飽きることはないだろう。毎日ごはんやパンを食べても飽きないのと同じだ。




食物マナは、毎日6時間毎に降らせるようにした。そして降り積もった食物マナは1時間経つと自然に溶けて蒸発してしまう。


また、電気に触れると蒸発する性質を持つ。自然の多い地域には降り積もりやすいが、都市部ではすぐに溶けてしまうだろう。


まあ、日本や欧米などそもそも食べ物に困っていない国に関しては重要視していない。紛争地帯や貧困地域の人々がこれで救えれば良い。


最初は得体の知れないものを食べるのは抵抗を感じる人もいるだろうが、誰かが口にしているのを見ればそのうち慣れるだろう。











世界中で飢えに苦しむ人はおよそ10億人におよぶ。10人に1人が日々の食べ物に事欠く毎日を送っているのだ。。


世界の富の半数を、わずか50人が有している。さらに言えば、世界の富の8割を上位1%の人が独占しているのが現状だ。


なんて不平等な世界なんだろう。


なぜこんなに不平等なのだろうか。


ある人は、彼らの努力の結果がその富を生んだのだと主張する。貧しいのは、彼らが怠惰で努力をしなかったからだと。


果たして本当にそうなのだろうか?貧しい人が皆、怠け者で愚かなためこんな苦しみを受けているのだろうか?


俺はそうは思わない。


人は生まれながらに平等ではない。生まれながらに備わった能力や環境には、個々の努力では補いきれない差がある。


遺伝的な才能の差は多くの人が思っているよりも非常に大きいのだ。


しかし、人々はそれを認めない。当然だろう、遺伝的に頭が悪いのだから勉強しても無駄だと言われても簡単に認められるものではない。


でも、それは本当はおかしなことだ。


例えば、100mを9秒58で走り抜けるウサイン・ボルトとかけっこをして勝てると思う人はどれくらいいるだろう?


そんなもの無理だ、と多くの人は即答するはずだ。


彼は身体能力の高い人種に産まれ、身長190cmを超える恵まれた体格を持ち、さらに走る才能に恵まれているのだから。


どうだろうか。スポーツならば自分と他人の遺伝の差を簡単に認められるのに、頭脳のことになるとそれはとても難しいものとなる。


しかし、それが現実なのだ。ウサイン・ボルトのごとく回転の早い頭脳を持つ人もいれば、亀のようにゆっくりとしか考えることが出来ない人がいるのだ。


亀がどんなに血の滲むような努力を重ねても、ウサイン・ボルトが歩く速度よりも遅いだろう。遺伝的に勉強のできない人がどんなに勉強を頑張っても、遺伝的に勉強が得意な人には勝てないのだ。


端的に言えば、お金持ちはお金をかせぐ才能に遺伝的にに恵まれただけなのだ。仮に遺伝的にお金稼ぎの才能がある人が怠けていたとしても、その他の人より収入が多い可能性は高い。


なんて不平等な世界なんだろう。


しかし、決してお金稼ぎの才能がある者がその他の人よりも優れているというわけではない。


彼らはたまたま、運が良かったのだ。


もし、彼らが原始時代に産まれていたらどうだろうか。貨幣経済という観念のない時代だ。やりを投げて肉を取り、野山で果実を集めることで生活を営む時代に、お金稼ぎの才能を持っていたとしてもなんの役にも立たなかっただろう。


原始時代ならば、勉強の才能やお金を稼ぐ才能よりも、体格や身体能力の方がよほど重要だったはずだ。


つまり、資本主義経済の現代に、たまたまお金をかせぐ才能を持って生まれ落ちたから彼らは裕福な生活を送れているだけなのだ。


人はそれぞれ違った才能を持って生まれる。


その人がいるだけで周りが笑顔になるような人がいる。こどもと遊ぶのが得意な人もいるだろう。誰にでも優しく接し、困った人の助けを生きがいにする人もいる。


これらは大してお金にはならないだろうが、とても素晴らしいことだ。


しかし、貧困によってその素晴らしい才能が発揮できない状況が蔓延しているのだ。


もし、彼らに十二分な衣食住があればどうだろう。いっさい働かなくても、生きていくことに不安が無ければどうだろう。


彼らの才能が多分に発揮できる環境があれば、世界はどれだけ素晴らしいものになるだろうか。


俺はそれが見たい。


生まれ持った才能や環境、運だけで決まる不公平な世界を正したい。






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