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砂海ビーチで踊る1

今は真夜中を過ぎた頃だ。サハラ砂漠の上空に来ている。


大規模魔法アーツを試すためだ。






俺もだんだんアーツの使い方に慣れてきた。ちょっとしたコツを掴めば、色々とできるようになる。


――こんな風にね


「星よ、俺の命に従え。貫け!轟け!思うがままに汝の力を開放するがよいっ」


シンと静まりかえった砂漠に俺の声が響き渡る。




……が、何も起こらない。




宙に向けて振り上げた両手がちょっと恥ずかしい。100km四方に人は誰もいないことは確認済みだが、頬が熱くなるのを感じる。




――時間差があるんだよ、時間差が。




カラリとした湿気のない大気がチリチリと電気を帯びるのを感じる。パチリパチリと砂に混じった砂鉄が音を立てながら跳ねまわる。


俺の立つ足元を中心にズズズズズと地面が振動しはじめ、砂漠の砂が渦を巻きながら沈んでいく。砂中に隠れていたトカゲが驚いて飛び出すが、為す術なく砂地獄に埋もれていく。


「ちょっとサイズ間違ったかな?ヤバイかも……」


俺が振り向いた先、はるか天空には眩しく光り輝く巨大隕石が地球目指して猛スピードで飛来していた。











「ふおおおおおおおおお!」


ウオオオオオオ!


ヒャッハアアア!


やばい、やばい。アドレナリンがドバドバでるよ。


もう、こうなったらヤケだよね。いやあ、隕石を呼んで盛大にドパーンってしようと思ってたんだけど、まさかこれほど迫力があるとは思わなかったよ。


一帯がまるでナイトゲームの野球場のように煌々と照らされ、マウンドに独り立つ俺は全能の力に酔いしれる。


現在、隕石ははるか上空をまるで2つ目の太陽かってくらいに眩しく光り輝きながら地球に向けて飛んでいる。


まだかなり距離があるようで、衝突まではしばらく時間がかかりそうだ。目算でおよそ8時間ってところか。というか、この距離であの光量はマジで半端ないな。


地平線の彼方では、稲光が空を駆け巡る。地球全体が不穏な空気に包まれていくのを感じる。


天変地異というか世界の終わりというか、まさにそんなフレーズがお似合いの空模様だ。






ソーレソレソレ!噴いちゃって~、滅っちゃって~、逝っちゃって~!


ああ、どんな飲み会よりもハイになってるよ。たまらんなあ。


2時間ばかりひとりで踊ったり叫んだりしていただろうか。俺は濃厚なウィスキーを片手にビーチチェアで日光浴……いや流星光浴に興じている。


目の前に広がる砂海は、深夜を超えても熱気がおさまらず、パンツ1枚でも暑い。


大学に入学した直後に、新人歓迎会という名の飲み会に強制連行された思い出が蘇る。


十数人で車座になり、順番にコイントスを当てる『ヘッドオアテール』というゲームが始まった。


ヘッドテールを予想し、予想がはずれると用意されたグラスから少しばかりのビールを飲むというゲームだ。


確率は2分の1だが、はずれると延々とビールを飲まなければいけないという結構きついルールだ。ましてはじめての飲酒だった俺は、すぐにグデングデンになってしまった。


そんな俺を見て馬鹿笑いする奴らが嫌いだった。理解ができなかった。何が楽しいんだ。


『体育会系のノリ』という日本の負の習慣にを嫌悪する。


日本人っていうのはコミュニケーション能力が極端に低い人種だ。


飲み会という押し付けがましい方法でしかコミュニケーションが取れないのだから。一番やっかいなのは、喋りまくることがコミュニケーションだと勘違いしている奴だ。


奴らは自分が気持ちよくなっているだけで、他人がどう感じているのか理解する能力がないのだ。


日本人ってのは元来、職人気質というか個人プレーの方がが得意なのだろうな。


チームプレーが必要なサッカーはてんでダメだが、水泳やフィギュアスケートなど個人種目では世界的に活躍するスポーツ選手が多い。


コミュニケーションはあくまで手段であって、目的ではないのだ。皆が楽しむための新人歓迎会ならば、未成年の新入生に合わせて中華料理屋にでも行けばよいのだ。


何が楽しくてバイトの作ったまずい料理と薄められた安酒を飲みに行かなければならないのだ。


広大な砂海の真っ只中でひとり、天変地異を肴に濃厚なウィスキーを楽しむ、これが本来のお酒の頂き方だろう。


あ、俺ってまだ未成年だった。






さらに2時間ほどが経った。巨大隕石の落下予定時刻まであと4時間ほどだ。


ぼーっと夜空を眺めていると、地平線の彼方からキラリと光る2つの飛行体が現れた。


サングラスを外して確認するが、流れ星ではない。明らかに人的な操作をされている飛行体だ。


「どこぞの空軍か?」


ここから視認することはできないが、巨大隕石の方へ向かう飛行体は、どうやら戦闘機のようだ。


俺のいるここは、リビアとチャドの国境線あたり。


ここらは、力がものをいうオラオラ系の国々だ。中央では軍のトップが独裁体制を敷き、各地では宗教指導者を中心に内戦が絶えない暗黒大陸だ。


欧米諸国は内政不干渉のため距離を置く姿勢を貫いているが、その実、武器の輸出で儲けることで頭がいっぱいだ。


どうやらこちらに飛んでくる戦闘機もロシア製のようだ。


こんな砂漠の国で戦闘機など作れるはずがないので、武装はすべて輸入品だ。メンテナンス技師や訓練のための教官なども全て他国から派遣してもらっている。


欧米諸国で作られた武器で、欧米諸国の指導の元訓練した兵士が戦う。これが代理戦争というものか。






「あっ。撃った!」


1機の戦闘機から、キラリと光る物が発射された。おそらくミサイルだろう。


隕石をミサイルで撃墜しようなんて、まるで映画の世界だ。


ミサイルってどれくらいの威力があるのだろう。核爆弾ならともかく、普通のミサイルであの規模の隕石を破壊するのは難しそうだけど。


「結構、距離あるけど当たるのかな?」


流れ弾がこっちに来たら嫌だな。とか考えていたが、それも杞憂に終わった。


なんと、反対側の地平線の彼方からもう2機の戦闘機が現れ、はじめに発射されたミサイルが途中で撃墜されたのだ。


「うはっスゲー。ミサイルの迎撃って本当に出来るんだ。」


後から現れた戦闘機は、フランス製のようだ。


2つのミサイルが衝突すると、大爆発を起こして辺りを照らし出した。


「ここは国境線のあたりだからな~。好き勝手させないぞってことか?」


任務失敗を悟ったロシア製戦闘機は踵を返して元来た方向へ飛び去っていく。また、それを見送ったフランス製戦闘機も帰路の徒につく。


国ごと吹っ飛ばしそうな隕石が迫っているというのに、己のプライドのための争いを止めることが出来ないとは。


国が無くなったら、権力も金も意味がないのにね。







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