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神との遭遇

「うおおおおおお。」


全力で叫びながら自転車チャリを立ちこぎしているのは、俺こと白羽水城シラハネミズキ。大学2回生だ。


「遅刻だあああ。」


パンはくわえていない。スピードが出ないから。代わりに10秒チャージのゼリーを吸ってきた。手軽だけど、腹持ちが悪いのが欠点だ。


「やっちまった、やっちまったああ!!」


何をそんなに急いでるんだって?俺だってタダの遅刻ならここまで慌てはしない。普段なら寝坊でもしようなら仮病休みにして二度寝に興じるところだ。


でも今日は留年がかかったテストなんだよ。


『雨の日は休日にする』とかいう自分ルールの元、見事に留年ギリギリの瀬戸際に立たされているのだ。ぜっったいに落とせないテストが今迫っているのだ。


よりにもよって、なんで今日寝坊なんてするんだ俺~。


ここ1週間は11時にはベットに入るようにしていた。テストの始まる9時に頭がフル稼働できるよう、朝型のライフスタイルに整えるためだ。朝6時には起きて栄養満点の朝食をとり、軽い運動をかねて自転車通学でまさに健康体そのものだった。昨日までは……


「悪魔のイタズラか?神は弱き者を救うんじゃなかったのか!?」


昨日だって勉強は10時に切り上げて、11時前に寝たんだ。就寝1時間前にお風呂に入って、リラックス状態を保ちながら完璧な安眠体制だった。もちろん、アラームは2重がけした。


いや、今はペダルを漕ぐことに集中だ。過ぎたことを悩んでも仕方がない。


身体を丸めろ。空気抵抗を最小限に抑えるんだ。


最短距離でコーナーを攻めろ。スピードを限界まで落とすな。


人の流れを読め。1秒を削り出すんだ。






ああ、なんて日だ!


道端で苦しそうにしている妊婦さんだとおおおお!?






「大丈夫ですか?」


はぁ、はぁ、はぁ。


全力疾走で息を荒らげる俺に負けないくらい、苦しそうな息遣いだ。


「今、救急車を呼びました。もう少しの辛抱です。水を飲みますか?」


「あ、ありがとうございます。」


意識はハッキリしているようだが、足が震えて立ち上がれないようだ。


遠巻きに救急車のサイレンの音が聞こえてくる。しかし今は朝の通勤時間のため、音は近くてもすぐに到着するとは限らないだろう。


スーツ姿のサラリーマンが、水で濡らしたハンカチで妊婦さんの汗を拭っている。5月も半ばを過ぎ、初夏といった様相だ。


アスファルトからの照り返しの熱気で陽炎がゆらゆらと立ち上っている。今朝の天気予報では、最高気温が30度になるとか言っていたっけ?


天気予報というのを、頭から信じてはいけない。天気予報の気温は、百葉箱の中に設置された温度計を使って計測している。小学校で習った、アレだ。


百葉箱ってヤツは、風通しがよく直射日光の当たらない仕組みになっている。つまり、実際の体感温度は天気予報よりもはるかに暑いのだ。プラス5度くらいは見積もっておいてもよいだろう。


騒ぎに気づいたヤジ馬が集まり始め、さらに騒ぎが大きくなる。


しかし、遠巻きに見ている人ばかりで、何か手伝おうという人は少ない。興味津々にスマホを向ける不謹慎な輩からにはうんざりだ。時計を見て、しまったと足早に立ち去る人も多い。


「道を空けてください。救急隊です!ちょっと通して下さい!」


どうやら、やっと救急車が到着したようだ。


妊婦さんを介抱していたサラリーマンが、救急隊に状況説明をしている。できるサラリーマンってかっこいいな。


俺はというと、もうほとんど野次馬に混ざって棒立ちときている。まぁ、なにか感謝されたいとかそういうのは無いからいいんだが。後はサラリーマンに任せて、このまま静かに立ち去れば良いのだ。


「完全に遅刻か……」


『赤ちゃんの命』と『留年』どちらが重いかと問われれば、当然、命だ。妊婦さんを助けることにためらいはまったくなかった。


しかし、やはり出来ることなら留年はしたくない。


事情を話したら後から再テストを受けたりできるのだろうか?登校中に妊婦さんを助けましたなんて、嘘っぽい話を信じてくれるだろうか?


「それにして、暑いな……」


日陰のない街路で日光が容赦なくサンサンと照りつける。全力疾走した身体は猛烈に火照り、シャツはぐっしょりと汗で濡れている。


救急車が動き出すとともにサイレンがけたたましく響く。頭の中でワーンワーンという耳鳴りがだんだん大きくなる。


視界がぐにゃりと歪む。


あれ……手足が痺れて動かない……?


なんか……目の前が……真っ暗に……











……なったと思ったら、今度は一瞬で周りが真っ白になった。なんだ、なんだ?


「気を失って、はいないな。」


何も見えない。いや、真っ白なことはわかるが、それ以外に何もない。俺の自転車も、倒れている妊婦さんも、そばで介抱していたサラリーマンもどこにもいない。


ビルも車も道路も何もない。音もいっさいなく、シンと静まり返っている。


あれ、でも目はちゃんと見えてるみたいだ。周りは真っ白だけど、俺の手足は普通に見える。服装はTシャツにジーパンと今朝の格好のままだ。


「なんだ、これ?」


あたりはかなり明るい。霧がでたとかそういうんじゃない様子だ。意識もハッキリしている。ただただ、真っ白な空間が地平線まで延々と続いている。


影がない……?


ふと下を見ると、まるで中空に浮かんでいるかのように、影がない。地面はというと、やはり白くて空との境目が見えない。


「夢……だよな……?」






「違うね。夢じゃないよ。」


後ろから突然、声をかけられて振り返る。


「誰……?」






「驚かせてごめんね。えーっと、僕は、なんていうか、そう、いわゆる神様ってヤツだよ。」


「え……神様……?」


見た目は小学生といったところか。俺の肩くらいの身長で、まだ声変わりをしていない男の子だ。


服装は真っ白の和服に、橙色だいだいいろの帯を締めている。よくみると、生地の全面に白い糸で刺繍がほどこされており、かなり質の良い物のようだ。


「あ、でも別に偉いとかそういうのじゃないから。キミも同じようなものだし。」


神様が偉くないはずはない。人を作ったのは神様のはずだ。親子だって、親の方が偉い。偉いからなんでもしていいというわけではないけど、こどもが親を敬うのは当然だ。


まして神様なら、うんと偉いはずだ。


「いや、僕も元々は人間だったんだ。えーっと、厳密に言えば今も人間かな?ちょっと人間離れはしてるけど。」


ニヒルな笑みをこちらに向けると、ふわりと浮き上がって僕の目線と同じくらいの高さになる。中空であぐらをかいて、まるでそこに座っているかのような姿勢だ。


「僕のときも同じだったから分かるよ。でも、大丈夫。これは現実なんだって後でわかるからさ。」


結論から言うね、と一息いれて続ける。






「今日からキミが神様だよ。よろしくね!」






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